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恩恵の還元

皆様お久しぶりです。時間が空いてしまいましたが更新です。

ブクマを剥がさずに待っていてくれた読者の皆様ありがとうございます!

ぜひお楽しみ下さい。

「あなた何してるのよ!? なんで急に現れるのよ!? しかも不気味! お風呂場がその変な黒煙でお化け屋敷みたいになったじゃないの!」



 ボディーソープはないわ、シャワーはでないわ、お湯の温度調整ができないわと、元の世界に比べれば確かにこのお風呂は不便なところが多い。



 だけど一応ひのきらしい木枠の大浴場だし、脱衣所も含めて雰囲気だけは日本人の心を満足させるだけのものはある。逆にいえば雰囲気だけしかとりえがない。



 それなのに心をほぐしてくれるはずの白い湯気は、いまやホラー映画にでも出てきそうなもやもやとした黒煙に飲みこまれ、浴室全体が薄暗いものとなっていた。心なしか気温も下がった気がする。


 いったい誰がこんなお風呂に入りたいと思うわけ。


 そんな中、突然背後から死神のようなシュナンツェが現れてみなさいよ。心臓止まるかと思ったわ!



「この場所は大変興味深い。この城にはアイゼン神の恩恵がわずかばかり残されていますが、この浴室には特にその力を強く感じます。


  アイゼン神の恩恵により火、水、そして浄化の力が見事にバランスを保ったまま残されていますね。当然ながら神々に入浴は必要ありませんから、なぜこのようなものを造ったのか理解ができません。


  まあ……人間のように水浴びを好む変わった神もいるにはいるのですけれど」

 


 トキの集落でシュナンツェはバカでかい神様の姿で現れた。みんなそのおかげで怯えまくったわけだけど、神って大きさ変えられるのね。


そんなことを独り言のようにいいながら湯船をまじまじと見つめるシュナンツェといえば、わたしより少し身長が高い程度のサイズだ。


 もしかしたら大きさだけじゃなくて姿も変えられるんじゃないかしら。神の姿形って様々な伝承があったりするけれど、有名なイエス・キリストやお釈迦様の開祖ガウタマ・シッダールタみたいに実在した人物以外はみんな想像でしょう?


 だいたいあのヤマトだってなんで猫の形してるのよ。猫神でもあるまいし。それとも導く者はみんな猫の形って決まりでもあるのかしら。


 ちなみにヤマトはお風呂に誘ったらすんごく嫌そうな顔をして「断る」といって部屋の隅で丸くなってしまった。



「そなたがここの神域に戻ったことによって、この場所もまた恩恵の力を取り戻している様子。アイゼン神もさぞお喜びでしょう」



 そういってシュナンツェは愛おしそうに目を細め、浴室内を見渡しながら綺麗な微笑を唇に浮かべて見せた。


 ん?


「恩恵が力を取り戻したってどういうこと?」



「この神域はアイゼン神によって創り出された、いわば結界のようなものです。しかしアイゼン神がこの場所を離れ、現在はほんのわずかな恩恵しか残っていませんでした。


時と共に弱体していくその恩恵を補充することは本来ならば神々にしか行うことができないものですが、そなたは巫女です。巫女が受けた恩恵は神々に還元されるもの。


そなたが身に宿した恩恵はこの神域を通してアイゼン神へと還元され、アイゼン神は力を取り戻すのです。そしてその影響は当然この神域にも及ぶ」



 神域。確かにヤマトもそんなことをいってたっけ。だからアイゼン神が造ったクリスタルの欠片を持っていなければ門を通過することはできないって。



 わたしが恩恵を受ければ神々に還元されるって話も聞いた。元の世界に帰してくれるわけでもないのに、わたしが努力して手に入れた恩恵が自動的に神の手に渡るなんて納得いかないってあのときは思ったけど。



「この神域にも影響するっていったわよね。例えばどんなふうに?」


「例えばこの城の要所要所に設けられている転移陣。そなたは実に楽しそうにあちこち飛び回っていましたが、あれらの転移陣が復活したのもその影響です」


「え? あれはあなたが神殿の祭壇を復活させたからじゃ……」


「いいえ。妾の力を上乗せしたことによって神殿内の恩恵に影響があったのは確かです。そのために神殿と城を繋ぐ転移陣も再稼働したわけですが、その他の転移陣はそなたの恩恵による影響なのですよ」


「そうだったの」



 驚きだわ。あれは全部シュナンツェの力によるものだと思っていたし。


 恩恵を受けるとそんなことが起きるのね。じゃあ、沢山恩恵を受けることができればこの城はもっと住みやすくなるんじゃないかしら。


 アイゼン神がこの城に施した力で現在わかっているのはお風呂と転移陣だけだけど、恩恵を補充すれば他にも何か動き出すかもしれない。ほんとに忍者屋敷みたいだわ。



 ん? お風呂? そうよ! 転移陣に影響があったのならお風呂にだって影響がでるはずじゃないの!



 ここに来て初めての日。この浴室内のシャワーの栓を全部ひねって絶望したあの日以来、わたしはシャワーを素通りして毎日タライでお湯をすくって体を洗ってきた。だけど。だけど、もしかしたら! もしかしたら!


 わたしはくるっと湯船に背を向けて入り口付近に設置しているシャワーへ向かってずかずかと大股で歩み寄った。



 水垢ひとつない新品みたいなシャワーヘッドと椅子。


 そのひとつを手に取ってシャワーヘッドをのぞき込んでみる。当然水滴ひとつついてない。わたしはゴクリと唾を飲みこみ、今度は恐る恐る栓に手を伸ばす。古いタイプの栓で蛇口の栓みたいにひねるやつ。


 それをゆっくりと回してみる。すると――


 ぽた……ぽた……



「んおおおおおおおおっ!?」



 シャワーヘッドから細かい水の粒が浮き上がった! 零れた水が手を濡らし、次第に温かくなってお湯へと変わる。感動のあまりわたしの目に涙が浮かんだ。


 わたしはさらに栓を回す。シャワーヘッドから放出されるお湯は徐々に水量と勢いを増して、ついに音を立てて床に噴射された。跳ね返るお湯がわたしの足もとを濡らし始める。


水圧文句なし! 温度調整はできないかもしれないけど、いままでより少し熱くなってる気がする。これなら冬が来ても寒くない。



「やった……やったわ! シャワー復活よおおおおっ!!」



 その後わたしは十台あるシャワーの栓を全て全開にひねって、シャワー祭りを狂気の喜びで楽しんだ。女湯から聞こえてきた奇怪な笑い声が城内に轟いたのはいうまでもないこと。


 同時刻。一匹の猫がとある魔方陣の前で足を止めた。


 城内の魔方陣が再稼働したことにより、各魔方陣には守衛が配置されることとなった。その魔方陣の前にも当然守衛がいたわけだが、その猫が魔方陣に踏みこむ様子を守衛はただ黙って見守るに留めた。


 本来守衛が守るその魔方陣は限られた人間しか通過を許されておらず、ネズミ一匹通すなというのが命令であった。


 しかし守衛はその猫を追い払わなかった。なぜならば決してその猫に手出ししてはならないと、この城の全員が周知していたからである。


 


 


 


 


 


 

 


 


 

 


 


  


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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝! シャワー復活!! ばんざーい!!
[良い点] シャワー祭りw 全部のシャワー栓をひねる所がまた笑笑 覗きに来たら更新されてて嬉しいですー! 同時刻の描写……なにやら、素敵です。
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