転向
「なかったことにしてちょうだい」
「そうもいかぬ」
「なぜ」
「もう起きてしまったからだ」
「わたしは覚えてないから大丈夫」
「既に周知の事実だ」
「なんですってええええっ!!」
転移陣で遊びまわった後、怒り心頭のミカンにめでたく捕獲された私は、ユリウスに呼び出しをくらって謁見の間へと赴いていた。
そして相変わらずのイケメンぷりを発揮するユリウスを見た瞬間に思い出したのだ。この男には誘拐、薬物投与、強姦罪の疑いがかかっていることを。
「できることなら我々とて隠したかったのだがな。あのように派手にやられては隠しようがない」
「は……派手……そ、そんなに……?」
「恥ずかしながら腰が抜けてしまったぞ」
「腰が、抜けた……」
私は顔面蒼白でぽつりとつぶやく。
確かにユリウスは線が細いけど、ひ弱ってイメージではない。当主は幼い頃から様々な鍛錬を積むのだとロウェル爺ちゃんも言っていたし。あの衣装の下には細いなりに鍛え上げられた肉体美があるはずなのだ。
そのユリウスが腰を抜かしたなんて……どれだけ激しく……
私の顔からどんどん血の気が引いていくのが分かる。
「周囲の者たちもみな同じであった。あのような行為は初めて目にしたのでな」
「みんなに見られて……たの!?」
「もちろんその場の全員が見ていた」
「どんな羞恥プレイ!!」
ついに耐え切れなくなった私は顔を両手で覆い隠し、その場にうずくまった。
「羞恥プレイとはなんだ」
不審なものでも見るような目つきでライザーが問いかける。私はこの場でライザー君に羞恥プレイのなんたるかを説明しなければいけないんだろうか。
アホか。辞書で調べてきなさい。
「そのように恥じることではないであろう。そなたは実に素晴らしいことを成し遂げたのだからな」
「何が素晴らしいことよ。私にとっては何も素晴らしくないわ」
「そなたからしてみればそうかもしれないが、我が国にとっては悲願とも言えるべき大事が叶ったのだ」
「そうでしょうね。ええ、そうでしょうよ」
私はげんなりしながら相槌を打つ。
オスカーさんやテオを見れば分かる。この城の人間は既成事実なんて作ったら、結婚だのなんだのってすぐに言い出しそうじゃない。
当主が女と既成事実を作れば、それすなわち結婚である。
悲願……という程のことではない気がするけど、この国の人間からしてみれば踊り狂うほど喜ばしいことなのだろう。
「ついてはアスカ。そなたに頼みがある」
はら。きたきた。
「結婚はしないわよ」
すっと立ち上がってユリウスを見つめ、キッパリと言い切ると、ユリウスもライザーも驚いたようにそろって目を丸くした。
「この国の騎士道精神を否定するわけじゃないのよ? もちろん女性を抱くことに責任を持つのはとても大事なことだけど、世の中にはケースバイケースって言葉があって……」
「待て」
__お主は何を言っているのだ。
「納得できない気持ちは分かるわ。だけど、無理やりそんなことをして既成事実を作るのはどうかと思うのよ。そこはお互い了承の上でするのが当然だし……」
「話を聞くのだ、アスカ」
「いえ。あなたこそ聞いてちょうだい。確かに領主の妻っていうのは、羽振りもよくなりそうだし、なんといっても食事代を払わなくて済むのが一番の利点よね。その部分は心惹かれなくもないわ。だけど、食事代を稼ぐためにあなたに嫁ぐわけにはいかないの。むしろ、犯罪的な行為をした代償として慰謝料を……」
「く……っ、くくくくくっ」
目を丸くして私の話を聞いていたユリウスが突然、堪え切れないように笑いだした。その傍らではライザーが額に手を当てて首を横に振り、大きくため息をついている。
――これってどんな反応?
その二人の様子にポカンとしていると、腹を抱えて本格的に笑い始めたユリウスを尻目に、いち早く立ち直ったライザーが冷ややかな眼差しを私に向けた。
「立花朱鳥。そなたが何を勘違いしているのか想像するに容易いが、それは間違っている。そなたが行ったのは、この敷地内にある神殿の復活の儀だ。決して御当主様との契りごとではない」
「へっ……?」
……というわけで。笑い転げるユリウスをジト目でにらみつけながら、ライザーから事のあらましを聞いた私は、顔を真っ赤にして何度も頭を下げたのだった。
「それで話を戻すが。オスカーからも報告はあったが、そなたが旅の途中で精霊の恩恵を受け、なおかつ竫浄の神の加護を受けたというのは事実か」
「ええ。そうよ」
「ならば明日にでも精霊の泉へ旅立って欲しい。御当主様が仰りたかったのは、そのことについてなのだ」
「ずいぶんと急ね」
「神殿が開いた今、もはやぐずぐずしている余裕はなくなった。一刻も早くセノーリアにおもむき承認を得てもらわねばならん」
「それは構わないわ。だけど、おから料理とお好み焼き屋さんの出店準備をしてからよ。それが終わればすぐに行くわ」
「いいだろう」
その後、いつまでも笑いの止まらないユリウスを小さくにらみつけて、私は謁見の間を後にした。
やっと精霊の泉へ行ける。そこで恩恵を受けられればセノーリアで千年巫女に会って、巫女の力を底上げしてもらえばいい。
やっと神様探しの一歩を踏み出せる。そう思った私の気分は晴れやかなものだった。
だけどその裏で、牢屋に閉じ込められたザックたちや、私を危険な目にさらした責任を取って辞表を提出しているオスカーさんとテオがいたことを、私はまだ知らなかった——
みなさん、こんにちは!
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