ユーラ城の変化
夢を見ていた。
涼太の夢だった。真っ暗な私の部屋でテレビのリモコンを拾って、テーブルの上に置いたのを見て「ああそんなところにあったのね、ごめんね」と心の中で謝った。
その後、泣きそうな涼太の顔を見てどうしたの? と声をかけたけど声は届かなかった。あんな涼太の顔を見たのは久しぶりだ。
その後また涼太が出てきて今度は路地裏で怒っていた。あんなに感情を高ぶらせる涼太は初めて見たかもしれない。
涼太の目の前に私はいたのに全然気が付いてくれない。それが少し悲しかった。
だけど悲しくなったのはそれだけが原因じゃなかった。なぜだか涼太が少しだけ遠くなった気がしたからだ。離れてる時間じゃない、世界が違うからじゃない。
――絆が細くなってる……なぜか、そんなことを思った……
「ん……」
ふと目を覚ますと、見たことのない天井があった。天井……というか天蓋だ。横にはカーテンのようにベルベッドの幕がドレープを描きながら垂れていて、何度かぱちぱちと瞬きを繰り返した後、私はがばりと起き上がる。
「なに。どこよ、ここ」
えーと。何がどうなってるの? 私なにをしていたんだっけ?
「……忘れちゃった」
そろそろとベッドから起きて部屋を見回してみたけど、ベッド以外に見る物は何もなかったので早々に部屋を後にする。
「あれ?」
隣の部屋に移ると、見覚えのある部屋にでた。豪華なシャンデリアにロココ調の家具。真ん中にある長テーブル。そのテーブルを見た瞬間、お好み焼きを思いだす。
――目覚めたか。
「ヤマト。おはよう。ここってユリウスの部屋よね? なんで私ユリウスのベッドで寝て……はっ!」
ドアの前で体を長くして寝そべっていたヤマトが私に気付いてむくりと起き上がる。
だけど言葉途中で私はあることに思い至った。「目覚めたら男のベッドの中でした」はお約束中のお約束。しかもこれまたお約束通り記憶がない。と、いうことは……
私は愕然として呟く。
「私……ユリウスとやった……?」
__なにをだ。
「なにをって……あれを……」
__あれとはなんだ。
「だからセ……」
いやいや。
私は血の気が引いた顔で、首がもげて飛んでいくんじゃないかというほど高速で首を横に振る。ヤマトはそんな私を奇怪な生き物でも見るような目つきで見ていたけど知ったことではない。
ユリウスとそんな関係になったなんて冗談じゃない。
なんでそうなったか分からないけど、なかったことにしてもらおう。だいたい記憶がないのだ。それが一番おかしいじゃない。多分クスリか何か盛られたんだわ。
私をこの国の巫女にしたいからって、なんてゲスな男だろう。許すまじユリウス。
私はひとり憤り、ヤマトをギンッと睨みつけた。
「ユリウスはどこにいるの」
__知らぬ。ついさきほどまではここにいたが、なにやら城内であったようだな。
「文句言ってこなきゃ。ついでに慰謝料もらうわよ。行きましょうヤマト」
息巻いて転移陣に乗り込み、廊下に出るとヤマトが言った通りなにやらだいぶ騒がしい。ユリウスの部屋に続く転移陣の前にはいつも二名の『守扉』がいるんだけどその二人の姿も見当たらない。
「どこに行ったのかしら」
きょろきょろと辺りを見回して首をかしげながら廊下を進むと、少し進んだ先に人だかりが見えた。
人の合間を縫ってひょこっと顔をのぞかせると、青く光る転移陣が見える。その転移陣を囲んでみんながざわざわしているのだ。
「あれ? こんなとこに転移陣なんてあったかしら」
私が知る限り、転移陣は謁見の間とユリウスの部屋の前。その二ヶ所しかなかったはずだ。
「おいっ、あっちにもあるぞっ!」
「食堂前にも現れたって!」
騎士の一人が奥を指差して叫ぶと、人だかりはぞろぞろとそちらに移動して行った。
「転移陣が増えたわけ? なんで? それでこの転移陣はどこに繋がってるの?」
その様子を見ながらその場に残った侍女の一人をつかまえて問いかけると、侍女は不安そうに顔を曇らせながら言葉を返した。
「分かりません。行き先が分からない以上、安易に中に入るわけにも行きませんし」
「そんなこと言ったって、入らなきゃどこに行くか分からないじゃないの」
「それはそうなのですが……え。み、巫女様!? お目覚めになったのですか!? なぜお一人で……ミカン、ミカンは!? それよりも御当主様に知らせなくては……!」
私の顔を見た途端に目を丸くした侍女は、一人で口早にしゃべるとどこかにすっ飛んで行った。呆気に取られて彼女を見送り、私は再び転移陣に向き直る。
「入ってみよーっと」
何があったか知らないが、この城はバカが付くほど広いから移動するのが本当に大変なのだ。
かねてより、もっとあちこちに転移陣があればいいのにと思っていた私は、目を輝かせて新しい転移陣に飛び込んだ。
こぽり…とした水をくぐるような感覚。そして開けた視界の先には『女湯』の暖簾。
「おおおっ!! 凄い! 女湯にワープしたわ!!」
__ふむ。祭壇が復活したことで、この城にも影響が出たようだな。
「祭壇?」
何やら一人納得した様子のヤマトに首をかしげると、また奥の方で「こっちにもあるぞ!」と叫び声が聞こえて、私は目をらんらんと輝かせて猛ダッシュで駆け込み、周囲の人間が止める間もなく再び転移陣に飛び込んだ。
「……今度は食堂だわ。なにこれ面白い。忍者屋敷みたい」
「なっ……!? 巫女様!?」
「あそこの転移陣を通ると食堂で……あっちがお風呂……よし。全部回ろう」
突然転移陣から姿を現した私に驚いて腰を抜かす人々を尻目に、次から次へと新しい転移陣に飛び込んではワープを繰り返す。
あまりに面白くてすっかりユリウスのことを忘れて転移陣で遊んでいた私は、大勢の人間がまるで「もぐら叩き」のように現れる私を、必死に追いかけていたとは知るよしもなかったのである。
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