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蘇る神殿

 ユリウスは見た。


 生れてはじめて開いた神殿の扉。そして開かれた扉の奥に広がる楽園ともいうべき、豊かな風景を。


 生れてからこの方ずっと、様々な文献を読み漁って来た。


 時見の巫女がいた時代に神殿では大豆や稲作を育てていたと。家畜まで育て神に祈りを捧げていたとも文献には実に様々な事柄が記されていた。


 それが余すことなく全て事実であったのだと思い知る。


 そして彼女が立つあの舞台。


 あれこそが時見の巫女が神々より加護を授かり、恩恵をこの地に与えるために祈りを捧げたとされる祭壇であると、ユリウスはすぐさま理解する。



「いったい何をするつもりなのだ、アスカ」



 ぽつりと呟いたユリウスの声は彼女には届かない。


 また、額に汗を浮かせて息も荒く追いかけて来たロウェルは、開かれた扉の前で熱くなる目頭を押さえて声を殺して涙した。



 まさか自分の命が尽きる前に、こんな奇跡ともいうべき出来事に立ち会えるなどど、思いもしなかったからだ。



 ロウェルは同じアイゼン国とは思えぬほどの豊かな楽園に驚き、夢心地で中央を走る通りを行く。


 この楽園についての謎は数えきれないほどある。その全てを解き明かしたい。それは神殿に足を踏み入れたその瞬間からロウェルの夢となる。



 その後には騎士の手を借りてやってきたミズノの姿がある。


 アスカが無事に帰って来たと聞いて涙するほど喜んだミズノだったが、その後に続いた騎士の報告により部屋を飛び出した。


 ミズノはただアスカの無事を確かめたかった。


 確かに神殿内部の光景には驚いたが、それほどミズノの興味を引くものではない。


 さらに言うならば長きに渡ってこの荒廃した土地で生きてきたミズノにとって、今さら巫女が来ようと神殿が開こうとどうでも良かったのだ。


 着物を乱して走り続け肩で荒く息をして、悠々と辺りを見渡しながら目を輝かせるロウェルのすぐ傍を通り過ぎてやっと、正面に見えた祭壇の上にアスカの姿を捉える。



「巫女ど……」



 巫女殿! そう叫ぼうとしたミズノは最後まで言葉を繋げなかった。


 突然、吹き荒れた突風がアスカの身体を包み込み、腰ほどまである彼女の髪を真上に向かってなびかせたかと思えば、すっと差し出した手にどこから現れたのか、見慣れぬ豪華な細工を施した銀色の杖が現れたのだ。



「な……なんじゃあれは……」



 ミズノやロウェル、舞台前で足を止めたユリウスは驚きに目を見張る。


 間近でアスカの姿を捉えたユリウスには、アスカの夜色の瞳が透明度を増していき、紫色に変わるのをハッキリと目にすることができた。


 それだけではない。真上になびくアスカの黒髪が時折チカチカと点滅するように銀色に変化する。



「な、何が起ころうとしているのだ」



 笑ったり怒ったり、常に表情の変化が目まぐるしいアスカだが、舞台上に立つ彼女の顔からはなんの感情も読み取れない。


 生気を映さぬ瞳に不気味なほど無表情な顔で、アスカは掲げた杖をトンッと祭壇に打ち付けた。



『アイゼン神よ。ここにこい願う。妾の願いを聞き届けよ。永劫の時の中で失われしその御力。このシュナンツェ・エル・リベラルの名を以て復活の糧とし、祈りを捧げ奉らんことを願いたもう』



 風に乗ってこの広大な神殿内部の隅々にまで響き渡ったその声は、果たしてアスカのものだったのか。


 アスカの声でもあり、また何か別のものが語ったような不思議な声色で、彼女は願いを捧げる。


 彼女の願いに呼応する声はなかった。


 だが、その変わり――



 彼女の立つ祭壇が一際強く光を放ち始め、足元をほのかに照らす程度だった青白い発光が、爆発的な勢いで祭壇を突き抜け、天をつらぬかんと空に向けて立ち上がる。



「なんだっ!?」



 その場にいた全員が悲鳴にも似た驚きの声をあげる。


 そんな中、アスカの前でじっと彼女の様子を見つめていたヤマトが紅いオーラを身にまとってふわりと宙に浮かび上がった。




『エルディア エル ルドリデア……』




 それは聞き慣れない言葉だった。青白い光の柱の中でアスカの声とヤマトの声が二重になって響き渡る。



 すると辺りを囲む野菜畑や大豆畑からポツリポツリと白光を伴う小さな結晶のようなものが次々と浮かび上がり始めた。



 アスカとヤマトが紡ぐその言葉は、どこか遠い国の歌ではないのだろうか。


 旋律がとても美しい音の羅列に、その場にいる誰もが耳をすまし聴き入った。



 今や神殿内部の全域が田畑や建物に至る所まで光り輝き、白き結晶を浮かび上がらせる。


 それはまるでおとぎ話か夢の世界に入り込んだような、幻想的な光景だ。



 そうしてしばらくの間、そんな夢のような光景に身を置いていた彼らだったが、次第に光は薄まっていき、ついには消え失せてからやっと、ハッと我に返って壇上のアスカに視線を向けた。



 アスカを包んでいた風はいつの間にか綺麗にかき消え、壇上から天に突き抜けた光の柱はすっと嘘のように消えた。


 だが壇上の床はまだ強く光り輝いている。


 そうしてゆっくりと目を閉じたアスカは突然力を失って、その場に倒れ込んだ。



「——アスカッ!」

「巫女様っ!」



 バダバタと壇上の者たちがアスカに駆け寄って行く様子を見ながら、神殿の『復活の儀』の全貌を目にしたロウェルとミズノ、そしてユリウスは魂が抜けたように全員その場で膝を折って、崩れ落ちたのだった。


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