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神域の最奥地

「いったい何事だっ!」


「ただ今確認中です!」



 鳴り止まぬ地響きは、ユーラ城や騎士の寄宿舎や厩舎、訓練場、その他敷地内に居住区を置く大臣閣僚の家屋をも揺さぶり続けている。



 城内は滅多に起きぬ大地震に騒然として慌てふためき、あちこちで悲鳴が湧き起こっていた。



「失礼致します! この地震はユーラ城敷地内にのみ起こっている模様! 城下町に異変は確認できず! またつい先ほどラーミル様率いる御一行が門を通過されたとのご報告も……」


「ラーミルが帰ってきた? ではアスカも……巫女は! アスカは無事かっ!」


「それが……アスカ殿は地震と共に意識を失われ、現在医療班が対応に当たっているとのことです」


「なんだと!」



 汗だくになりながら執務室に駆け込んできた側近の報告に、ユリウスは目を見開いた。



「意識を失ったとはどういうことだ!」


「原因は不明です。門柱を通過された直後に急に青ざめられ気を失ったとしか……」


「今すぐ案内せよ! アスカはどこにいる!」


「アスカ殿は現在、医療棟に運ばれそこで……」


「失礼致します!」



 側近の言葉をさえぎり、開かれたドアから新たに騎士の一人が姿を現した。その顔は小刻みに震えて見るも明らかに青ざめており、何か悪いことが起きたことを予感させるものだった。



 その騎士の様子に目を見張ったユリウスの傍で、ライザーが神経質に眉を動かし、落ち着き払った声音で問いかける。



「落ち着け。どうしたのだ」


「はっ……その、お取り込み中のところ失礼致しました」



 青ざめたまま額には脂汗を垂らし、騎士は一呼吸つくと口を開いた。



「震源地が判明致しました」



 ユリウスの瞳が鋭い光を発し、騎士を睨みつける。それはライザーも同様だ。なんせアイゼン国に至っては、地震というものが起きたためしがなかったからだ。



「どこだ」



 騎士が青ざめるほどの重要な場所……城以外にユリウスもライザーも見当がつかない。だが、確かに城は揺れているが震源地というほどのものだろうか。


 それならば、報告よりも先に退避を促すのではないか。



 二人がまさに同じタイミングで同様の思考に入った時だった。



「『神殿』です」



 騎士の言葉に、その場の誰もが言葉を失う。


 場に沈黙が訪れ、そばらく経ったのち、その静寂を打ち消したのはライザーの声だった。



「神殿……だと?」


「はっ、見張りの騎士から報告が入っております。この地鳴りは神殿の扉が開いたために起きたものだと」


「それは事実か。神殿の扉は、もう長いこと閉ざされたままなのだぞ。なぜ急に開くのだ」


「そこまでは分かりかねます」



 再びその場に沈黙が訪れる。なぜこのようなことが突然起きたのか。いくら考えようとも、答えなど誰も持ち合わせない。



『神殿』


 それは、このユーラ城敷地内の最奥に位置し、もう何百年と閉ざされた未知の領域であった。



 過去の文献によれば、時見の巫女が現存していた頃、彼女は従者と共にその神殿に住まい、様々な恩恵をこの地に与える儀式を行ったとも、稲作や酪農を行っていたとも、実に様々な事柄が伝えられている。



 だが、そのどれもが長年閉ざされた扉により外部からの侵入を頑なに拒否していたため、真相は不確かなものであった。



 神殿の扉が閉ざされたのは、時見の巫女が亡くなり、この地から恩恵が失われ荒廃の道を辿っていたある日のこと。



 誰も住まぬ神殿の扉がひとりでに動き出し、閉じたという。



 閉ざされた扉は、いくら人手を集めて押し開けようとしても不動であり、ならば外壁からと侵入を果たそうと試みたが、目に見えぬ障壁に阻まれ、それも叶わなかった。



 それ以来、神殿の門に見張りだけを置き、見守ってきていたのだ。



 その扉が今日、開いた。



「何かの節目だったのでしょうか……」



 騎士の不安げな言葉にユリウスは首を横に振る。



「違うな。扉が閉ざされたのは今から三百年以上前だ。日付も異なる。時期は関係ないだろう」



 ユリウスは思案する。今日、何かが変わったのだ。神殿が開いたのは、なぜだ。何かを受け入れるためか。何を受け入れる。神殿が受け入れるものといえば……



「巫女か……?」



 ぽつりと呟いたユリウスの耳にバタバタと駆けてくる足音が届く。



「失礼致します!」


「今度は何だ」



 眉を寄せてドアを振り向いたライザーがその人物を捉え、少し驚いたように目を見張った。



「ラーミル・メルギッシュでございます。ただいま立花朱鳥殿と共に帰還致しました」


「……ご苦労。アスカ殿は意識を失われたと聞いたが、その後どうだ」


「意識は無事戻ったのですが……様子が少しおかしいのです」


「おかしいとは」



 アスカの名前に反応し、ユリウスの青い瞳がラーミルに鋭く突き刺さる。一介の兵士ならば、その威圧にすくみ上がってしまっただろう。



 だがラーミルはその威圧に気負いすることはなかった。それ以上の焦りが彼の中にはあったからだ。


 あれはラーミルが知る()()()()()()()



「何度も繰り返すのです。行かねばならぬ、と」


「どこへだ」


「分かりません。しかしながら医療棟を飛び出し、現在護衛を連れて目的の場所へ向かわれております」


「なんだと?」



 それを聞いたユリウスは跳ねるように窓へ駆け寄った。窓からは敷地内がほぼ見渡せる。その一角に数十名の騎士を伴って先頭を行くアスカの姿を捉え、ユリウスは呆然と呟く。



「あの方角は……」



 アスカは城の玄関口とは全く別の方向へ歩みを進めている。東の噴水を抜けてガゼボを通り過ぎ、行き止まりになっている道の更に奥へと突き進む。あの奥にあるのは、ただ一つ。



 ユリウスは血相を変えて振り返った。



「ライザーとラーミルは予に付き従え! それとロウェルに急ぎ神殿に来るよう申し伝えよ! 参るぞ!」

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