お墓参り
「そうか。ここがトキ君のシスターが眠る場所なんだね……」
トキと初めて出会ってから早一ヶ月。
再び訪れた集落はあの惨状の痛みを時の中に眠らせ、雑草が生い茂る緑の中に埋もれるように佇んでいた。
もうあの鼻につくような臭いも、生々しい傷跡も見えない。
廃墟と化した集落の中、穏やかな風に包まれて私たちは馬を進める。そして真っすぐ進んだその先、少し開けたその場所で心痛な面持ちをしたでナルシストが馬車を止める。
そこには背丈の短い雑草が生い茂る、こんもりと盛り上がった墳墓がある。
トキのお姉さんが眠る場所、そして集落のみんなが眠る場所だ。
この世界では本来、棺にいれて埋葬するのが形式らしい。
だけどそれもお金があればこそ。お金がないものは棺を買うことすらできず、たいがいは野ざらしで野犬や獣に食わせられるんだとか。
それを聞いた時は想像して吐くかと思った。
だからトキ君のお姉さんや集落の連中は、埋葬してもらって幸運だったよとナルシストは語ったけど、獣に遺体食べられちゃったらどうすればいいの?
お墓参りにも行けないし供物だって捧げられないし、人生相談も愚痴も報告だってできないじゃない。
涼太はよくご両親の眠るお墓に行く。仕事のことや私のこと、現状報告なんかしに行くのだ。基本的には一人で行くことが多いけど、お墓参りをした後はどことなくスッキリした顔をしていることが多い。
心のよりどころっていうのか、返事はなくてもそういう場所って必要だと思うのよね。亡くなったからといって家族には変わりないのだし。
そう思って大豆料理で国にお金が入ったら、墓標を立てる給付金でも国民に出せばいいんじゃないかしらとぼやいたら、それに対してオスカーさんもラーミルさんもザックまでもが、金が手に入ったら誰も墓標なんか立てない、生活費にあてるだけだと言い切った。
本当にどこまで貧乏大国なのかしらここは。知れば知るほど腹の立つ貧乏国だ。
ここにいる第四騎士団はあの時、埋葬を手伝ってくれた騎士たちだ。相変わらずヤマトのご機嫌をうかがっているルドルフは置いておいて、騎士たちも改めて墳墓を目にして感慨深いものがあったのだろう。
被害者であるトキを始め、みんな一様に神妙な面持ちでお墓の前に降り立つ。けれど私といえばしかめっ面でむくれたままだった。
墓標も立てられない、埋葬すらろくにできない。神社仏閣のような格安でひとまとめに面倒みてくれるようなところ、ないのかしら。
だけど首都ユーラにでさえ、そんな建物は目にしなかった。きっとないのだろう。
「はあ……」
ヤマトが足元にすり寄り、特大のため息をもらした私を見上げている。
―――そのようなため息をついて、何を考えているのだ。
「神社仏閣が……」
―――なんなのだそれは。
「いえ……なんでもないわ」
ヤマトに神社仏閣がないと愚痴ったところで何も変わらない。この猫は化け猫だけどお金は出せない化け猫なのだ。すべてはお金あっての物種ですよねーっと。
「アスカ」
ふと呼ばれて視線を向ければトキが花束を手に私を振り返り、私を待っていた。
ああ、そうだった。今はしっかりお墓参りしなくちゃね。私も花束を手に馬から降り立つ。
ヴァルファ森林を抜ける前、お墓参りには花を添えなければ! という私の熱い希望により、狂ったナルシストの高らかな笑い声を聞きながら、屈強な男達がそろいもそろってお花摘みに専念するという、なかなかシュールな光景を目にすることになった。
だけどそのおかげで墓前には山ほどの花が添えられている。
言うまでもないがお花が一番似合っていたのはナルシスト、次いでオスカーさん。一番似合っていなかったのはルドルフだ。ルドルフが花束を手にした時なんか、骸骨顔がよりいっそう際立って、そのままあの世に連れて行かれるんじゃないかと思った。
そして私の手にはもう一つ、「お供え物」がある。
宿屋街で分けてもらったきな粉と作り立ての砂糖と水を混ぜて作ったもの。形はいびつだけど、一応「落雁」のつもり。
急ごしらえの落雁とお花、そして水があれば立派なお墓参りといえるんじゃないだろうか。
私はトキの隣に並び立つとお墓に水をまき、お花と落雁を供えて手を合わせる。トキも私にならって手を合わせそっと目を閉じた。
その動作を初めて見たナルシストは不思議そうに見ていたけれど、騎士たちは二度目なので大して気に留める様子もなく、胸に手を当てて黙とうする。
場に静かなる時間が訪れる。
さわさわと草が凪ぐ音、小鳥たちのさえずりや羽ばたき。降り注ぐ温かな日差し。髪の毛をなびかせる暖かな風。そのすべてを五感で感じとる。
―――トキのお姉さん。トキは元気に過ごしています。乗馬もできるようになったし、計算だって早いし暗記も得意だし将来有望株です。どうか、安心してください。それと、集落のみんながあの世で幸せに暮らしていますように……
―――あ、あと小食だったけれど最近はよく食べるようになりました。前に比べて肉付きも良くなったし、暇があれば騎士の寄宿舎に出入りもしているようですが、意図は分かりません。
―――それとトキの食事代をライザーに請求されています。なんとかならないでしょうか。手っ取り早くお金が入る方法を教えて下さい。おから料理店とお好み焼き屋さんが商売繁盛しますように。あと呉服店の繁盛と金持ちがたくさんユーラに来ますように。
―――あとは、なんとかユリウスのご飯係から解放されたいです。それとナルシストをサワナに返して下さい。えーと他には……あっそうだ。納豆が無事できあがりますように。私は毎日納豆ご飯が食べたいです!
―――それと神社仏閣を誰かが作ってくれますよーに!
切実な願い事を内心大声で言い切った私は、すっきりした表情を浮かべて満足気に顔を上げる。
それと同時に正面から轟っと音を鳴らして突風が起きた。思わずその風圧に身体がよろけ、目を細める。
だけど同時に、ぞわりとしたものが背筋を襲う。その風は今まで周囲に満ちていた穏やかなものとは違い、生暖かくて身体をはうような感覚を覚えさせる。
ばたばたと髪の毛や衣服があおられる音に混じって、後方では甲高い馬の鳴き声が次々と鳴り響き、必死に蹄を蹴り上げて暴れ出す。馬の瞳に浮かぶもの、それは怯えだ。
穏やかだったその場の空気が一瞬で不穏なものへと変わるのを、その場の誰もが感じ取る。
そして、不意に世界から太陽が消えた―――
「な……なんだ、あれは!?」
「うわあああああっ!!」
それは、墳墓から蠢くように湧き上がる。
太陽の日差しを一瞬で呑み込み、暗い……暗い闇が墳墓と空を覆い尽くした―――
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