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魔法使いASUKA

「かってえな、おい!!」

「切るのと剥くのじゃ大違いだぜ」

「文句言わずにやれ!」



 がやがやとヴァルファ森林に男達の声が響き渡る。



「どういうことなのだ?」とオスカーさんに問われたものの、まだ確信の持てなかった私はどう答えたものか思い悩み。



「神の啓示です」とハッタリをこいた。



 頭の中ではヤマトさんが神の名を嘘偽りに使うとは何事か! とぷんすか怒っていらっしゃったけど、聞かなかったことにする。



 ザックは疑わし気な視線を私に向けていたけれど、散々旅の途中で炎の精霊や時雨の精霊の恩恵を受けて来たラーミルさんや騎士達は、ありがたいことにそのハッタリを鵜呑みにしてくれた。



 そして「神の啓示」を信じた彼ら(一部を除く)はそろって地面に腰を下ろし、小刀を片手に正体不明のその木の皮を剥ぐことに専念しているのである。ファイト。



 だがそれは容易なことではなかったらしく、悪戦苦闘をしているご様子。それでもそこは腕に自信のある騎士と野盗。野盗の一人が皮を剥いでみせると闘争心に火が付いたのか、競り合うように必死の形相で皮を剥き始めた。



 うんうん、くだらないことで競い合うことってあるよね……モデル業界では誰が新作モデルのカバンをいち早く手に入れるのか、よく競っていたものだ。遠い記憶に思いを馳せる私の目の前で、次々と皮を剥かれる正体不明の幹達。



 すべてが丸裸になったら次は切り刻む。いつの間にか騎士と野盗グループに分けられた男達は、どちらが早く全ての幹を細切れにするか競い合っていた。実に楽しそうで何よりである。



 軍配は騎士の皆様にあがった。数がいるから当然だと野盗が抗議していたけど、どうでもよろしい。



 細切れになった幹をさらに細かく刻んで布で包み、絞る。これで何も出なければ終わり……と思っていたのだが。



「あ? なんか出てきたぜ。なんだよ、こりゃあ」



 顔を真っ赤にしながら布を絞るザックが眉を寄せる。布からはポタポタと何かの液体が滲み出てしたたり落ちている。私はそっとそれに指を伸ばして舐めてみた。



「甘い……」



 たった数滴で口内に広がる濃密な甘み。なかなか消えないその口内の甘さに私は愕然とする。間違いない、これは。



「『サトウキビ』だ……」



「あ? なんだって?」



 確かアイゼンでは砂糖は貴重なものだったはずだ。それなのになぜサトウキビもどきがこんな所にほったらかしにされているのだろう。



「ラーミルさん。お伺いしたいことがるんですけど、この国にも確か砂糖はありますよね? どうやって製造されているかご存知ですか?」



「私もそれほど詳しく知っている訳ではありませんが……アイゼンの北方には「レイラン」と呼ばれる糖度の豊富な果実が生る地域があるのです。人工的な栽培は難しく毎年小量しか採れませんが、それを煮詰めて粉末状にしたものが砂糖になると記憶しています」



 果物。まさかのまさかだった。この国の砂糖の原料が果物だったなんて。まさに目からうろこ。じゃあまだ誰もこの「サトウキビもどき」の存在に気付いていないってことじゃない。いや、気付いていたのが一人いる。野盗の中でこの木をうまいと言った男だ。



「それならこれは、アイゼンを大きく救う代物になるかもしれません」



 私の目がぎらりと輝く。高値で取引される砂糖。それを手にしたらどうなる? おから料理だけじゃない。甘味が作り放題!! 私はスイーツが大好きだ! しばらく食べていないスイーツ! 食べたい食べたい食べたい! 私の頭の中ではすでに様々なスイーツが手に手を取り踊り狂っている。



 瞳の中に目に見えぬケーキを映し、私は声高らかに叫んだ。



「ザックよ! 鍋をもて!」


「何様だよ、おめぇはよ」


「アスカ様よ!!」


「はいはい」



 うんざりしたようなザックには目もくれず、騎士や盗賊達がそろって体育座りで不思議そうに見守る中、力自慢の彼らにたっぷり絞ってもらった汁を準備された三つの鍋に薄く注ぎ、私は落ちていた枝を手に取りぶんぶんと振り回しながら魔法の呪文を唱える。



「いでよ炎の精霊ユトゥリーナヴ!! この鍋の液体をからっからに乾燥させてちょうだい!!」



 空気を読んで魔法の杖(拾った枝)から飛び出してくれた炎の精霊に内心拍手を送る私。



「あいつはつくづくやることが残念だよな……」

「精霊をあのようなことに使うなど……」

「巫女様……」

「この前は自分の髪の毛乾かしてたよ」

「便利で結構じゃないか! 僕も精霊に髪を乾かしてもらっているんだよ! どうだい、このサラサラな髪!」

「ここ、焦げてるぜ。あいつ、いつもニヤニヤしながらおめぇの頭乾かしてやがるからな」

「なにぃ~~~~~~っ!?」



 何やら外野が騒がしいが、まとめてスルーだ。



 ノリに乗ってぶんっと杖を一振りすると、きらきらと赤い火の粉の軌跡を描きながら精霊たちは杖を離れ、鍋へと飛び立った。私の気分は完全にシンデレラの魔法使いである。



 鍋に降り立った精霊たちがふう……と赤い吐息を吹きかければ、あら素敵。からっからの何かの出来上がり。



 その様子を見つめる者達の視線は実にバラバラだった。げんなりとした表情を浮かべる者、拍手喝采を送る者、涙を浮かべて感激す者、何かをヤマトに訴える者。眉を寄せて難しい顔をする……オスカーさんなどなど。



 その一切合切をシカトして私は鍋に歩み寄り、野盗に借りたハンマー片手に振り下ろす。



 ガンガンガンガン!



 こんちくしょう! こんちくしょう! まだか! もっとか! これでもかっ!



 ガンガンガンガン!



 ナルシストめっ! ライザーめっ! バーグラーのバカやろおおおおっ!!



 一心不乱にハンマーで鍋を打ち付ける私を見る一同の視線が、そろいもそろってイタイ子を見る残念なものへと変わる。



 そうしてなんだかとても気分がすっきりした頃、鍋の中の塊はザラメよりはやや細かい小粒状態と変化した。それを一つまみ、口の中に放り込めば……



 私は口の中に広がるその味を心ゆくまでじっくりと味わい、うーん! と目を閉じて涙を浮かべる。ついに……ついに……



「できた! 砂糖!!」



「なんだと!?」

「砂糖だって!?」

「まさか!」


「砂糖だあああああ??」



 それまで不審な顔つきで私の奇行を見守ってい騎士達が、驚愕の声をあげて立ち上がる。最後に素っ頓狂な声をあげたのはザックだった。



今宵は怒涛の二話投稿。

作者の大好きな朱鳥節が炸裂するお時間となりました。


やっぱりこーゆーノリが書いてて楽しいな( *´艸`)


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