精霊の共同作業
第四騎士団総勢二十四名、ザック一味総勢十三名、合計三十七名プラスαという大所帯となって、今日も青空のもと私達はユーラに向けて旅をする。
大勢の騎士に囲まれる一台の馬車。その中に乗っているのはいずこの姫か、要人か。
だけどそこに入り混じる、粗悪な衣類を身に着けた男達を見ると、すれ違う者はみな首をかしげた。
そんな不可解な視線を周囲から向けられているとはつゆ知らず―――
「違うわよ。もちょっとこう……さっとよ、さっと!」
「知るか。まだ調整がうまくいかねえんだよ」
「宿屋街の時みたいな感じでいいのよ、あれもあなたの仕業だったんでしょう?」
「そうだけどよ……だあっ、めんどくせえ!」
「諦めちゃダメよ、ザック!」
向かい合わせに座る私とザックの間には床に置かれた横長の藁包。
ともすれば、ぽいっと捨てられてしまいそうなそれを、私達はむむむと睨みつけた。
そして再び馬車の上が青白く輝き、一瞬の間を置いて……ダーッと滝のような雨が降る。
「ザック!!」
何度目かの大雨に私はスパルタ教師のごとく、握りしめていたタオルですぱんっとザックの頭を引っ叩いた。
気持ち的にはすぱん! だったけど実際は、ぽすっとした情けない音しか出ないのだけど。
一体、何をやっているのかって?
ザックに水涼の神の恩恵が備わったことを聞いた私は、すぐさまこのことを思いついた。
私が持つ炎の精霊とザックの持つ時雨の精霊。この二つが合わされば私が待ち望んだ『湿気』が作れるんじゃないかと。
高温多湿。それこそが私が追い求める『納豆』に必要不可欠な環境なのだ。なにせアイゼンには雨が降らない。湿度とは無縁の土地といってもいい。
それで私は食事どきにモルモットからもらった大豆を茹でてもらって、ゴッソリともらってきた藁でなんとかかんとか大豆を包み込んだのだ。
そう。私は思い出した。藁包の納豆が私の世界にあったこと。
初めはパックに入った納豆をイメージしてたからすっかり失念してたのだけど、ザックに捕えられた時の藁が身体中にくっついてるのを見た時、これだ! と思ったのだ。
そしてお母さんが時代劇に出演した時、こんな小話を聞いた。はじめての納豆は、藁の中に保存していた大豆からできた……と。
だからお城で見かけることがなかった藁を、不思議そうな顔をするモルモットを華麗にスルーしてたんと馬車に積ませてもらった。
そして試行錯誤しながら藁包を作り、茹でた大豆を包み、その中に高温の湿度をキープすべくザックと調整を繰り返して試行錯誤しているのだが、これがなかなか上手くいかない。
炎の精霊はほどよい温かさを生み出してくれてるのだが、ザックの精霊といったら滝のような大雨しか作り出してくれないのだ。
「君! 何度言ったら分かるんだい!? いい加減にやめてくれないか! おかげで全身ずぶ濡れだよ!」
幌をまくり上げて怒鳴り込んで来たのはナルシストだ。自慢の髪もフリフリの服もびっしょりと濡れて、普段の余裕はどこかに吹き飛んでしまったらしい。
私とミカンが荷台に乗ることになったので、ナルシストは御者台へと移動してもらったのだけど、操縦席である御者台には気持ちばかりの屋根しかない。
もろに大雨を全身に浴びてしまったナルシストから、ザックは素知らぬ顔で視線をそむけた。
もともと雨など滅多に降らないアイゼンで、降水対策など考える必要もなかったのかもしれないけど。
これで何度目だったかしら……三……四回……? その度に幌をまくり上げては怒鳴り込むナルシスに、またかという視線を向ける私達。
「綺麗になって良かったじゃない、ナルシスト。今夜はアレに入らなくても済むわね」
「君は何を言っているんだい!? 綺麗好きの僕がアレを知って入らないわけがないだろう!? 今夜も我が家自慢の高級ソープで全身を磨くとも!」
「じゃあ大目に見ろよ、俺の力がなきゃ入れねぇんだからな」
「ぐっ……! 仕方ない、ここは大目に見てあげるよ。ただし今夜は長めに頼むよ!!」
アレ———すなわち……
「最高だねっ!! 実に素晴らしい!! 考えついたアスカは天才だよ!!」
太陽が地平線に飲み込まれ、代わりに淡い光を放つ月が空を照らす時間。何もない草原のど真ん中でナルシストの歓喜の悲鳴が鳴り響く。
ご機嫌、全裸のナルシストの頭上には青白い光と紅い光が入り混じった薄い膜が出来上がり、ほのかに温められた水がザーザーと降り注いでいた。
そう、これは。
その名も『精霊コラボ簡易温水シャワー』
水量の調節が上手くいかないザックも、何度も練習を重ね範囲を狭めることには成功した。
私の炎の精霊は優秀なので、練習しなくてもこの程度と伝えればその通り動いてくれるし。
そして二つの精霊に頼み込んで協力してもらい、出来上がったこの簡易温水シャワー。
私に炎の精霊の恩恵が備わったことを知った時の、ラーミルさんや騎士の驚きようといったら歓喜に狂ったかのような凄まじいものだったけど、慣れとは恐ろしいもので。
初めは恐れ多いと言って遠慮していた騎士達は、そんなことを屁とも気にしないナルシストが毎晩独りで気持ちよさそうにシャワーを浴びているのを見て、遠慮しがちに入るようになった。
場所を選ばず身体を洗い流せるこの便利機能はいまや、小汚い野盗達にも綺麗好きの騎士達にも絶賛大好評中である。
初めは野盗を警戒していた騎士達も『何度も精霊を動かすと精霊が疲れる』と適当なことを言ったら、野盗と一緒に浴びることを渋々了承してくれた。
女性は私とミカンだけなので、男性陣がシャワーを浴びている最中はテントの中で待機。
ご丁寧に石鹸まで持ち合わせていたのは、さすがにナルシストだけだったが、それでも日頃の汚れを洗い流せるのはみな嬉しいようだ。
そういえばあのルドルフも、よほどシャワーが気に入ったのかサワナを出てからというもの、私のことを『巫女様』なんて呼ぶようになった。
性奴隷扱いしてすれ違うたびに鼻を鳴らして睨みをきかせてたくせに、急に巫女様なんて呼ぶものだから、どこかに頭でもぶつけたのかと思ったわ。
さらに不気味なことに、「巫女様の身体のお加減はいかがですか」とか「ヤマト様のお体は大丈夫ですか」とか「ヤマト様のご機嫌はいかがですか」とか私一割ヤマト九割の割合でなぜかヤマトをとても気遣うようになった。
ルドルフが気遣わしげにヤマトを見るたび、ヤマトは視線だけをルドルフに向けて何も答えなかったけど。
そんなこんなで、何日かの裸の付き合いをした騎士達と野盗達もけっこう打ち解けてきたように思える。
何よりも、わざわざ宿に行かなくも毎日シャワーを浴びれる! そのことを誰よりも喜んでいるのは私だった。
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