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無力〜涼太編〜

 何時間も動かない車の列に埋もれながら、涼太は車窓から車の脇を通り過ぎる通行人を眺めていた。



 そんな涼太の横顔をブレーキを踏みっぱなしにしながら圭一はのぞき見る。何を考えているのか、その表情からは読み取れない。



 ――時間の無駄。



 あれはどういう意味なのか。  



 一何が涼太に起きたのだろう。あれほど朱鳥ちゃんのことを心配していたのに、なぜ急にそんなことを……



 その問いかけに涼太は「ただなんとなく」と返した。そんな根拠も理由もないあやふやな答えに、和美も圭一も納得できるはずがない。



 結局、当初の予定通り避難所に指定してあった総合体育館に向かい捜索することにしたのだが。



 次から次へと避難民が押し寄せてごった返す体育館で長時間に渡り必死の捜索を行ったが、有力な目撃情報も手に入らず朱鳥ちゃんを見つけることもできずに終わるという、さんざんな結果となった。



 その間―――涼太といえば体育館の中に入ることさえせずに、入口で何かを思案するように腕を組みじっと佇むばかりで、業を煮やした和美に尻を叩かれて捜索に駆り出されるという始末。



 誰よりも彼女の安否を気にかけていた涼太の行動とはとても思えない。



 どこかでぷつりと電池が切れたような涼太の行動は、二人の胸の中に大きな違和感として根を下ろし、時間が経つごとにじわじわと広がっていくようだった。



 アクセルとブレーキを幾度となく切り替えて、たった数メートルの進行を何十何百と繰り返し、ようやく立花麗花さんがいるスタジオへと到着した頃、頭上から降り注ぐ焼け付くような太陽の日差しに三人は目を細めた。



「やっと着いたわね……」



 パーキングに車を止めると、ぐったりしたように和美は呟いた。交互に運転を代わっていた圭一の顔にも疲労の色は濃く滲み出している。



 半日近く運転で気を張っていたのだから当然のことだったが、いち早く車を降りた涼太の顔色はアスカのアパートを出た頃と何も変わらずに涼しいものだ。



 ぐったりとして座席に座ったままの二人に構わずに、つかつかとスタジオに歩みを進める涼太の姿に焦った二人はあわてて車を飛び出した。



「ちょっと待ってよ涼太君!」



 フラフラとする身体で涼太を追いかけ、肩を並べた三人はスタジオへと踏み込んだ。



 さすが最新の耐震施設とでも言うべきか、スタジオの中は通電しており空調も効いているようだ。少し寒気を覚えるほどの涼しい風が屋内を満たしている。



 外の熱気から解放されて、生き返るような想いに和美は安堵の息を吐いた。



「まだ余震もあるからエレベーターは危険だ。階段で行こう」



 入口付近にあった見取り図に指をはわせ、涼太は非常用階段の位置を確認する。



 その傍らで必死に外部と連絡を取ろうと携帯で何度も電話を試みているスタッフに目を留めた圭一は、そのスタッフから麗花の居所を聞き出すことに成功した。



 早足で階段を一気に駆け上がり目的の階に到着すると、右手奥の部屋の前に『立花麗花様』の札が掛けられてあるのが目に入る。



 その扉の前で立ち止まった涼太の顔に影が落ちる。じっと扉を見つめて口を結び、何かに堪えるようにこぶしを握りしめた涼太の肩に、圭一はそっと手を置いた。



 涼太と朱鳥ちゃん、そして麗花さん。



 この三人が家族同然の絆で結ばれていることは圭一も理解している。



 そして涼太が朱鳥ちゃんを気にかけているのは、幼なじみという関係もあるだろうが、なかなか朱鳥ちゃんとの時間が取れない麗花さんのためであることも理解していた。



 だからこそきっと、この結果を伝えるのは涼太にとって辛く厳しいものなのだろうと圭一は思案する。



 だが伝えないわけにはいかない。そう答えを出したように涼太の手が動き、コンコンというノック音が扉を打ち鳴らした。



 中から返事は返ってこなかった。



 だがその変わり―――



「涼ちゃんっ!!」



 バンッと大きな音を立てて開いた扉から一人の女性が姿を現し、勢い良く涼太の胸に飛び込んだ。



 緩やかなウェーブのかかった亜麻色の髪は腰ほどまであり、ふわりと風になびけば仄かに甘い香りが漂った。



 涼太は少しだけ驚いた顔をしたが、直後に少しだけ悲しそうな顔をして麗花さんを抱きとめた。



「麗花さん……」



「涼ちゃん! 無事で良かった!」



「うん……だけど朱鳥は……見つけられなかった。ごめん……」



 泣きそうな顔をして絞り出すようにそう告げた涼太の顔を、麗花さんは少し困ったように眉を下げて見上げ、そっと両手で包み込んだ。



 長い睫毛の下にある黒曜石のように澄んだその瞳は、朱鳥ちゃんと本当に瓜二つだ。



 薄桃色に濡れる唇が小さく開き、彼女の声は蜜のような滑らかをもって耳に届いた。



「そんな顔しないの。大丈夫。私ね……思うのよ。涼ちゃんが無事なら、きっとあの子も無事だって。私はそう信じているわ」



「俺も……そう信じてる」



「ふふ。そうでしょう? あの子が地震くらいでなんとかなるはずないもの」



 朱鳥ちゃんは活発な印象のある子だが、母親の麗花さんはどことなく儚げで可憐な印象を持つ人だ。



 守ってあげたくなる人、というのはこういう人を指すのだろう。見かけのわりに行動的だし、活発なのだと朱鳥ちゃんは良く言っていたが。



 今にも朱鳥ちゃんの安否を気に病んで、泣き崩れてしまうのではないかと思えた麗花さんは、気丈にも涼太を気遣いそんな言葉を口にした。



 少女のように可憐な風貌の持ち主であるが、やはり母親というのか実は芯の強い人なのかもしれない。



「さあ中に入って。ニュースで色々流れてるわ。まだしばらくは動けないと思うし、疲れたでしょう? 休むといいわ」



 涼太の手を引っ張り部屋の中へと誘う麗花さんの後に続いて圭一も和美も中へと足を踏み入れた。



 その後、何度も麗花さんに頭を下げる和美の姿や、責任者と打ち合わせに奔走する圭一を横目で見ながら、涼太はずっとテレビにかじりついていた。



 幹線道路道路もダメ、新幹線もダメ、航空もダメ。全ての交通手段はほぼ断たれた状態で回復のめども立たない。



 だが、涼太には行かなければならない場所がある。できるだけ早く、行かなければならない場所が。



 今は一刻も早く交通手段が回復するのを待つしかない。そうと分かっていても焦りは募る。



 涼太はポケットにしまいこんだアスカの携帯をぎゅっと握りしめた——

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