その者、現れる
__アスカ! どこにいる!
いくらアスカの意識の源を探ろうとも、距離があり過ぎるためか届かない。
ヤマトは燃ゆる大豆畑とザックを残して再び大広場を抜け、行き交う人の合間を縫うように駆け出していた。
逃げ惑う人間や消火活動へと向かう人間の動きは統一性がなく、その雑踏の中で何度か踏みつけられたり蹴られたりしながらも、なんとか一番の密集地帯を抜け出し、家屋の塀を登り屋根の上へとたどり着く。
その屋根の上からヤマトはぐるりとサワナを見渡した。
縦に伸びる商店街を挟み、東には燃える大豆畑、北にはモルモットの屋敷が見えた。
西にはアスカがザックに捕えられた時の小屋がある。
南の方角に何があるかは分からないが、先ずは西の小屋の辺りを確認してみるかと、ヤマトは屋根を駆け出した。
人の群れの中を縫いながら走るよりは、屋根伝いに走った方が速い。
連なる屋根を駆け抜けて飛び越え、全速力で駆け抜けるヤマトの元へ、いつの間にかキラキラと紅い炎を身に纏う精霊が並行するように飛び回る。
ヤマトの金色の瞳が大きく見開かれ、自分と速度を同じくして飛行するソレに向かって叫んだ。
__主ら! アスカの精霊か!!
駆ける足を止めずに横目で精霊を睨み付けるヤマトの叫びに反して、精霊たちは楽しそうな笑い声をあげながら飛び回る。
どこに行くの?
ねえねえ、そんなに急いでどこに行くの?
僕達も行きたいなあ!
競争する? ねえねえ!
__なぜここに居る! アスカはどうしたのだ!
器の子はね、いじめられていたんだよ。
僕達が退治してあげたんだよ。
偉いでしょう? 褒めてよ。
褒めて! 褒めて!
__いじめられていただと!? アスカはどこだ!
こっちだよ。
こっちだよ。
早く来て。間に合わなくなっちゃうよ。
間に合わなくなっちゃうよ……
__今すぐに案内せよ!!
吠えるように叫んだヤマトの声に応じるように、一体の精霊が輪の中から飛び出した。
猛スピードで突き進む炎の精霊の後をヤマトは追いかける。屋根伝いに全速力で駆け抜けて家屋を飛び降り、道なき道を走り抜ける。
人々の目に留まらぬほどのスピードで精霊を猛追するヤマトの身体からは、ルドルフに切られた傷が開いて血が滴り落ち、草や地面にその跡を残した。
だがヤマトはスピードを緩めない。
商店街や燃ゆる大豆畑が背後に小さく見え始めた頃、背の高い木々が連なる林の中へと精霊は吸い込まれるように姿を消した。
ヤマトは精霊を見失わないように、更に速さを増して追いかける。
しばらく木々を縫うように進むと、木漏れ日が溢れるその中に、ぽつりと開けた場所があり、数件の小屋が固まっているのが見えた。
その周辺を斧や剣を携えた数人の野盗が動き回っているのを捉え、ヤマトは前を行く精霊に向かって吠えた。
金色の瞳は大きく見開かれ、紅く燃える瞳孔は縦に伸びた。周辺の空気がその圧を変え、木々が恐怖に鳴くようにざわめく。鳥達は逃げるように一斉に空へと飛び立った。
__数多の人間の命を奪いし愚か者ども! その制裁を受けるが良い! 我が名——に於いて命ずる! 行け、炎の精霊よ! 奴らを燃やし尽くせ!
途端に先行する炎の精霊の瞳がルビーのような煌めきから神々しいほどの金色へとその色を変えた。身に纏う炎が一回り膨らんで勢いを増す。
いつもは無邪気な精霊の表情はそのなりを打ち消し、目は大きく見開かれてつり上がり、好戦的なものへと変化する。
飛翔スピードを一気に加速させた精霊の姿を捉えることは、人間には不可能だった。
すれ違う者達を次から次へと火だるまにしながら、精霊は怒涛の勢いで飛び回る。
「なんだ!? ぎゃあああ」
一瞬のうちに火だるまと化した野盗達は、あちこちでのたうち回りながら絶叫を上げ、場は騒然とした。
炎に焼かれ我を忘れて助けを求め、空き小屋へと逃げ込んだ野盗の身体から炎が飛び火し、周囲の小屋に炎を移す。
点在する小屋のあちこちから炎が上がり、一面が紅く染め上がる中、ヤマトは叫び続けた。
__アスカ! どこにいる! アスカ!!
意識を研ぎ澄まし、集中して呼びかける。
狂ったように笑う精霊の甲高い声が周囲に響き渡る中、ヤマトの耳に微かに届いた声。
__ヤマ……ト
消えそうなほど弱いその声は、アスカの潜在意識だった。手綱を引き寄せるように、確かに届いたその声の元へとヤマトは全速力で駆け出した。
意識が途切れる間際なのか、今まで聞いた事もないアスカの小さな声にヤマトは恐怖を感じた。
燃え盛る小屋や野盗の合間を走り抜け、たどり着いたその小屋の扉は閉ざされており、外部からの侵入を頑なに拒んでいた。
だが脆い木材で出来たその小屋の壁や屋根の隙間から細い炎が時折顔を覗かせ、黒い煙を吐き出している。中で炎が上がっている事は、すぐに分かった。
ガリガリと爪を立てて扉を押し上げようとしても、ギイギイと軋む音を鳴らすだけで扉は開かない。
__アスカ!!
その声に応じるように、甲高い音を立てて小屋の窓を打ち破り、炎が轟音を立てて飛び出した。
その炎の勢いに驚き、思わずその場から飛び退いたヤマトは、再び視線を扉に戻し睨み付けた。
金色の瞳をすっと閉じてその場に座り込んだヤマトの身体を紅いベールが包み込む。ゆらゆらと揺れるそのベールは次第にその大きさを増しながら縦に伸び上がる。
ヤマトの身体の何倍もの大きさに伸びたそのベールに小さな黒猫の姿は飲み込まれ、霞んで見える小さな影は、成長するようにベールと同じ高さまで伸びた。
そうして紅いベールの揺らめきが徐々にその光を失い、儚く消え失せたその場に、熱風に煽られて黒髪をなびかせる、一人の青年が姿を現した。
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