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窮地に現れたもの

 口の中に滲んだ血の味が不味い。

 両頬が熱を持ったようにじんじんと痛み、いつまで経っても痛みが引かない。


 目に浮かんだ涙が、堪えきれずに零れ落ちたのを、バーグラーはにやにやとした目つきで楽しそうに見ていた。


「良い子にしろよ。せっかく別嬪さんなんだからよ。あんまり打ったら、ブサイクになっちまうだろうが」


 頬の傷を撫でながら、そう言うバーグラーを頬の痛みに堪えながら睨みつけた。


「勝手なこと言わないで。打たなきゃいいじゃないの」


「テメェが噛みつくからだろうが。大人しくしてりゃ、それなりに可愛がってやるよ。まあ、泣き喚かない女なんぞ抱いても面白くもなんともねぇがな」


 思わず平手打ちをしてやりたくて、腕を振るおうとしたけど、ガシャンと重い鎖の音を鳴らしただけで、わたしの手首はほとんど動かすことが出来なかった。


 バーグラーの両手がわたしの顔に伸びて、ゴツゴツとしたその手でわたしの頬を挟むように撫でると、すっとその手を首筋へと這わせて着物の襟の中へとその手を突っ込み、荒々しく襟元を左右に大きく押し開いた。


「いやっ……!」


 胸元が大きく開けて白い肌が露わになり、危うく双方の膨らみも全て曝け出される所だった。


 ギリギリの所を着物がかろうじて隠すような形になり、バーグラーに対して耐えがたい怒りと羞恥を覚えながらも、全部が曝け出されなかったことに内心ホッとする。


「なんなんだ、この服は。どうやって脱がせりゃいいんだ」


 帯紐をグイグイと力づくで手前に引っ張ろうとするけど、腰で幾重に折り畳まれて結ばれた紐は引っ張ったくらいで簡単には外せない。


 しっかりと帯紐が結ばれていたおかげで、着物は簡単に着崩れず、そのことに苛立ったバーグラーがじろじろとわたしの身体を見渡した。


 この世界の衣類は基本的には洋服だから、着物の脱がせ方など、バーグラーに分かるはずもない。


 また少し時間が稼げそうだと、ホッとしながらどうすればいいのか懸命に考える。


 このままでは、バーグラーに犯されるのは時間の問題でしかない。


 何かバーグラーの気を引けるもの、交換条件を出せるもの。何か、何か!


 あちこち触りながら着物の作りを確かめるバーグラーの動きを視線で追いながら必死に頭を回してみたけど、そもそもバーグラーとはモルモットの屋敷で会ったのが初めてなんだもの、そんなもの思いつくわけもなかった。


「ちっ……面倒だな。まあ、用があるのは()()()だけだからな、そっちの方は簡単に開けそうだ。ほらよ!」


 そう言うとバーグラーは裾を手荒く押し広げた。


 さらけ出された太ももを目尻を下げながら、いやらしい目付きで舐めるように見ると、黒ずんで汚れた手で太ももを荒々しく撫で回し始めた。


「いやっ! やめてっ! 触らないでっ!」


 ゴツゴツとした肌触りと、時折太ももを揉まれる感覚に背筋が凍りついて恐怖に顔が引きつり、悲鳴のような上擦った声が喉をついて出た。


「もっと泣き喚けよ。その顔そそるぜ、お嬢ちゃんよ」


 ギラついた目をわたしに向けで舌なめずりをすると、太ももを撫で回すバーグラーの手が、なぞるようにゆっくりと上へ向かって這い上がる。


 止めたくても止められない。

 わたしはここで、この男に犯されるの?

 嘘でしょう?


 ——誰か、助けて!!


 恐怖と怒りで感情は昂り、涙が溢れた瞳をギュッと固くつぶって、バーグラーの手がよもや股の間へと到達する、そんな感覚に身構えた時だった。


 __器の子。

 __ねぇ、器の子。何か困ってるの?

 __器の子、大丈夫かい?

 __大丈夫かい?


 そんな声が脳裏に響いたのは。


 思わず固くつぶった目を開く。

 目の前には迫り来るバーグラーの顔があった。


 __僕達を呼んでごらん、器の子。

 __僕達は君の味方だよ。

 __味方だよ。


 悩む余地なんかなかった。

 涙で濡れた目でバーグラーを睨み付けながら、端が切れて痛む口を小さく動かした。


「わたしを助けて。……炎の精霊、ユトゥリーナヴ」


 途端にわたしの全身からキラキラと紅い煌めきが発せられ、足元から竜巻のように湧き上がる。


「な……なんだ!?」


 それに驚いたバーグラーが目を見開いて後ろに飛び退き、大声を上げた。


 紅い煌めきは宙に立ち上がると、幾つかの塊となって次第に精霊の姿へと具現化する。


 全身を燃える炎で包み込んだ小さな精霊達は、炎の軌跡を描きながら、わたしの周りを踊るように飛び回る。


「な……精霊!?」


 狭い小屋の中を飛び回る炎の精霊を、視線で追いかけながら驚愕の声を上げ、地面に放っていた大鉈を拾い上げると、威嚇するように精霊達に向かってぶんぶんと音を鳴らしながら振り回し始めたバーグラーの姿は、今までの横暴な様子とは打って変わってとても滑稽だった。


 __君をこんな風にしたのは誰だい、器の子。

 __許せないね。

 __許せないね。


「あいつよ」


 そんなバーグラーを真っ直ぐに見つめてそう言うと、蜂のように飛び回っていた精霊達がわたしの前に固まるとピタリと動きを止め、その燃える視線を一様にバーグラーへと向ける。


 __器の子を狙う愚か者は、おまえか。

 __愚か者はおまえか。

 __許さないよ。

 __許さないよ……


 途端に精霊達は炎の塊となって、バーグラーへと向けて怒涛の如く襲いかかった__







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