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息をひそめた者

「一体なんの事だか分からんな」


 表情を表に出さないように注意しながら、ルドルフは素知らぬ振りを通した。


 だが、心は動揺している。


 この男は一体何者だ。


 なぜ、立花朱鳥のことを知り、抹殺の計画ののとを知っている?


 問いただしたい事は山ほどあれど、聞く訳にいかない。


 それは、自供するのと同意だからだ。


「知らねぇって?

 あっそう。答えられる訳ねぇよな」


 銀髪の男は投げ捨てるようにそう言うと、興味を失せたようにルドルフに背を向けた。


 その背を睨み付け、ルドルフは腰に差した鞘に手をかける。


 __この男は危険だ。


 本能が、そう告げていた。


 オスカーがこの男に見向きもしなかったこと、野盗に剣を刺していたこと、それらの状況だけを見ればこの男は敵ではないのだろう。


 だがつい先だってここに到着したばかりの自分が、この男が味方かどうか知る由などない。

 見た目はそこらの野盗と変わり映えしない風貌なのだ。


 領主の屋敷に侵入し暴行と殺戮を行った野盗の一人として見間違えたとでも言えば、きっと周囲は納得するだろう。


 ()るなら、今しかない。


 床に転がる野盗の死体を避けながら階段へと向かうその男の背後にゆっくりと近付く。


 玄関ホールには負傷した他の野盗と、騎士がまだ残っていたが、どういうわけか、野盗の怪我を気にして介抱している騎士までいた。


 その一方で虫の息ほどの野盗は縄をかけられ拘束されている者もいる。


 介抱される野盗と、拘束される野盗。


 双方は歪み合いながら罵声を浴びせ、騎士が仲介に入るその様を横目で見ながら、ルドルフは目の前に捉えた男の背中に鋭い視線を突き刺した。


 完全に沈静化されてしまってからでは、殺せなくなる。


 そっと音を立てず、鞘から剣を少し抜き出した時だった。


 銀髪の男が歩み寄った階段のふもとから、突如ガチャリとドアノブが回る音がして、そこから一人の男がそっと顔を半分出し、周りをキョロキョロと見渡した。


「なんだよ、てめぇ。そんな所にいやがったのか」


 銀髪の男が呆れ顔で目を丸くして、階段下の収納庫から顔を出した男を見つめ、天を仰いでそう言った。


「おっ、お(かしら)ああああっ!!」


 銀髪の男を見るなり顔を輝かせ、収納庫から顔を出したその男は、筋肉竜骨のむさ苦しい風貌のわりに、女のような情けない声を出して収納庫から飛び出し、勢い良く銀髪の男に抱き付いた。


「抱きつくんじゃねぇっ!俺は男に抱きつかれる趣味はねえんだよっ!」


「す、すみません。あまりにも嬉しくて、つい」


 グイグイと手で押し退けられたむさ苦しいその野盗は、申し訳なさそうに頭を掻いてそう謝った。


「それより、あいつは」


 鬱陶しそうに男を見やり、そう問いかけると、へらへらとした笑みを浮かべて階段下の収納庫を指差す。


「その中にいらっしゃいます」


 言葉を改めて恭しい物言いをした野盗の態度に、少し離れた位置でルドルフは不審げに眉を寄せて様子を見守ることにした。


 階段下の収納庫。


 盲点だったのか、この男は騒動の中ずっとここに潜んでいたのだ。

 バーグラーにも気付かれず、騎士にも気付かれず。


 だが、他の野盗が死闘を繰り広げていたというのに、それを見捨ててひとりで逃げ隠れた仲間を、銀髪の男は責める様子もない。


 お(かしら)、あの男はそう呼んだ。


 バーグラー一味の(かしら)は、当然バーグラーだ。

 ならば、この男はまた違う野盗の(かしら)ということになる。


 ともすればそれは、自分が仕掛けた野盗とは違う一派。


 つまり__


「ライザーの手の者か……」


 答えを導き出し、ルドルフは歯がみした。

 まさか領主宅で互いの手の者が剣を交える事になるとは。

 なぜそんな事になった。


 だが、問題はそこではない。


 ライザーが仕掛けた手の者ならば、狙いはひとつ。

 御当主様の命による、あの猫の抹殺だ。


 それを先にさせてはならない。


 自分が差し向けた野盗は逃げてしまった。

 だがこいつらはまだ中にいる。

 そのことに焦燥感を募らせたルドルフの耳に(かしら)の声が届いた。


「こん中にいんのか?」


「へい。言われた通り、ちゃんとお守りしやしたぜ」


 身体つきに似合わぬ柔らかな笑みを浮かべた男がそう言って収納庫の扉を大きく開き、中を覗き込む。


「お猫様、出てきてくだせぇ。

 もう安全でさぁ」


 猫。

 その言葉に思わずルドルフは開かれた収納庫の入り口を凝視した。


 すると収納庫から、漆黒の毛で覆われた細い足がゆっくりと現れ、一歩一歩進み出る。


 全身を漆黒の毛で覆い、その瞳に金色の輝きを宿すその猫は、見間違えることなく、ルドルフが探し求める立花朱鳥の飼い猫だった。


「よくやったじゃねぇか」


 その猫の姿を目にし、(かしら)はニヤリとした笑みを浮かべた。








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