おニャンコ様命名の儀
「さすがにそんな変な猫いねーよ。ものを知らないってこえーな。おいお前、なんか喋ってみろよ」
ツンツンと指先でおニャンコ様を突っつくテオは虫をいじって遊ぶ小学生みたいだった。身をよじりながら嫌そうな視線を向けるおニャンコ様。
――我の声はお主にしか聞こえぬ、愚か者め。
おニャンコ様にディスられた。それならそうと早めにいって欲しい。そんな化け猫ルール知らないわよ。わたしは顔をしかめながら通訳する。
「他の人には聞こえないらしいわ」
そういうと、テオはつまんねぇとボヤいて頭の後ろで手を組んだ。
「お前の世界じゃ猫と話せんのか? すげーな」
「話せるわけないでしょ、そんな特殊能力ないわよ」
「じゃあ、なんでお前は話せるんだよ」
「知らないわよ。この世界にきたら声が聞こえたんだもの」
「ふーん。なんかもう神々の加護でも受けたのかな? 猫の神様なんて聞いたことないけどな! そいつ名前なんていうんだ?」
名前? そういえば名前とかあるのかしら。
はてとおニャンコ様を見つめると、いいたいことが伝わったのか、ちらりと視線を向けた。
――名はお主が決めるがよい。
「名前ないの?」
――我が名はひとの耳には届かぬ故。
「名前、ないんだって」
ひとの耳には届かないってどういうこと?
よくわからないけど名前決めていいみたい。
「じゃあ、お前決めてやれば? そいつ喋るんだろ? 名前ないと呼ぶとき不便だろ?」
「おニャンコ様って呼んでた」
それを聞いたテオは嫌そうに顔を歪め、げぇっと漏らした。
「お前……それ名前のつもりかよ。様付ければいいってもんじゃねーだろ」
呆れ顔だ。確かに名前って言われると微妙な呼び名かもしれないけど……うーん、そうだなぁ。
おニャンコ様からも名付けの許可は出てるし、ここはいっちょ名前を考えようか。
新たに名付けをするべく、わたしはじーっと股の間に座るおニャンコ様を見つめた。
猫……黒猫……黒猫の……
「ヤマト」
それしかでてこなかった。
彼の有名宅急便から命名。
神様のもとへ届けてくれるんだしちょうどいいんじゃないかしら。
我ながらナイスネーミング。
「ヤマト? いーんじゃねぇ? てか、そいつ雄なのな!」
宅配便から由来してるとは知らないテオはどこか楽しそうな笑みを浮かべた。
だけどそれを聞いて再び首をひねる。
「え。知らない」
「知らないってお前。女の子だったらどーすんだよ」
まじまじとヤマトを見つめて顔をしかめるテオ。確かに思い付きでいってみたけど、どうなのかしら。わたしもつられるようにヤマトに視線を移すと、思わぬ答えが返ってきた。
――我に性別はない。
それを聞いて思わず顔がひきつった。
猫なのに性別ないってどーゆーことよ。
突然ヤマトが不気味な存在に思えてしまって、思わず股の間にいるソレをつかんでテオに向かって放り投げた。
悲鳴を上げなかっただけ偉いと褒めて欲しい。
――おいっ!? 何をするのだ! この愚か者!!
「危ねえ! お前なんてことするんだよ! 可哀想だろ!」
宙に放り出されたヤマトを危うげにキャッチして胸に抱えると、テオは非難がましくわたしを睨みつけた。
「だって性別ないとかいうんだもの。不気味じゃない」
鳥肌が立ったかと思ったわ。
体をさすりながらそういうと、テオはへぇと小さく漏らしてヤマトの顔をのぞき込んだ。
「ヤマト、お前性別ねぇの? 本当に神様なんじゃないのか? 猫神」
「猫神って……ヤマトは化け猫なんだってば。妖怪の一種よ」
わたしも散々、涼太にモデルのくせにネーミングセンスが悪いといわれ続けているけど、テオのセンスからもわたしと同レベルのものをひしひしと感じる。
たくさん神様がいるこの世界にはもしかしたら猫神もいるかもしれないけど、猫神からの加護ってどんなのよ。
わらわらと猫が寄ってくるとか? ネズミを捕る探知機能が貰えるとか? どっちにしろいらない。
「化け猫ー? なんだよそれ」
「猫の寿命を超えて生きる猫のことよ」
「すっげぇじゃん!!」
目をキラキラと輝かせてヤマトを見つめるテオは、まるでカッコイイ玩具でも手に入れた少年みたいな笑顔をみせた。
「お前もっとヤマトのこと大切にしろよ。すんげぇ長生きしてんだろ? 死んだらどうするんだよ」
「死んだら困る」
大事そうにヤマトを抱えてなでつけながら、テオは「なぁ?」とヤマトに問いかけていた。わたしは眉間にしわを寄せて渋々返す。
「だろ? 性別がないならどっちでもイイんじゃねぇ? 男にしとけよ、な!」
「なんで男なのよ、女でもいいじゃないの」
むすっとしながらそう答えると、テオはポカンと口を開けて信じられないものを見るような目つきを向けた。
「だってヤマトだぞ! 男だろ!」
「いやよ、女の子にする」
「ヤマトが可哀想だろ!」
そんなこんなで、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、わたし達はついに砂漠地帯を抜けたのだった。
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