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交錯する想い

皆さんこんにちは。

楽しんでいって貰えると幸いです。

「ヤマトっ!!」


 ハッとして振り返るとヤマトの姿が見当たらない。


 あちらこちらで野盗達は斬り合い、その中にはオスカーさんやテオの姿も見えた。


 玄関口でミカンやトキは身を屈めてうずくまり、ナルシストや奥様も尻餅をついたまま、後ずさって男共の殺し合いから距離を取ろうとしている。


「ヤマトッ! どこなのっ!?」


「こらこら。動くんじゃねぇよ。ったく、めんどくせぇ事になりゃーがったぜ」


 バーグラーは遠巻きに斬り合いを見ながらそう言うと、ひょいっと私を肩に担ぎ上げた。


 体格の大きなバーグラーの肩に乗せられて、一気に視線が高くなり目眩を覚える。


「アスカ様っ!」


 遠くから細いミカンの悲鳴が聞こえたけど、それどころではなかった。


 私はジタバタともがきながら、バーグラーの頭を叩き、背中を叩き、足で何度もお腹を蹴ってなんとか降りようと奮闘する。


「ちょっと! 離しなさいよっ!」


「いてぇな……そんなに降りたきゃ降ろしてやるからよ」


 バーグラーはそう言って、呆気なく私をストンと床に降ろした。


けれど。


降り立った途端、私の腰ほどの太さがある二の腕がグンッと音を立てて唸り、直後にゴフッ!という肉が押し込まれる衝撃が腹部を貫いた。


「カハッ……」


 余りの衝撃に目の前が白くなる。


 刺し貫かれたような痛みが腹から背中へと突き抜けて、酸素が身体に回らなくなり、その白い世界の中で私の意識は徐々に薄くなり、闇の中へと沈んでいった。


「アスカ様っ!」


「おいっ! てめぇらは、ここでそいつら殺しとけ。一人も残すんじゃねぇぞ」


 ザックの仲間が増えたところで、総数ならばバーグラー達の方が上だ。


 優位なのは変わらない。


 戦い勇む連中に一言そう声をかけて、バーグラーは意識を手放したアスカを再び肩に担ぎ上げ、歩き出す。


「……っ! 待てっ、アスカっ!」


 何人もの野盗に囲まれ、それを軽やかに剣で捌きながらオスカーは叫んだ。


 味方が増えたのは何よりだが、やはり数が圧倒的に違う。


 新たに加わった男達とフォローし合いながら野盗達を倒すのが精一杯で、アスカの元へと進む事が出来ない。


「わりぃね、騎士様よ。貰ってくぜ」


 そんなオスカーをバーグラーは嘲笑い、玄関へと向かった。

 

「アスカ……! きっ、君っ! そのお嬢さんを離したまえっ!」


「ああ?」


 不意に後ろからかけられた声にバーグラーは振り返った。


 そこには長い金髪の髪を掻き上げながら、ゆっくりと立ち上がる男がいた。


 足元にいる女は領主の妻か。


顔を青ざめ小刻みに唇を震えさせたままバーグラーの機嫌を伺うように、チラチラと何度も視線を送りながら、ナルシスの足にしがみついて離れようとしないその女を、バーグラーは一瞥する。


「おやめなさいっ、ナルシス!」


 だがナルシスはそんな彼女を眉を下げて見つめ、再びバーグラーに視線を向け直した。


 アスカを肩に担いだまま、バーグラーはそんなナルシスに視線を移す。


「おめぇは確か領主の息子だったか」


「そうだ。ナルシスという。そのお嬢さんを解放したまえ」


「言いたいことは、それだけかい」


 凛とした目の力を取り戻し、ナルシスはおくびれる事なくハッキリとバーグラーに言葉を投げた。


 ナルシスが武器を持っていない事だけを確認すると、バーグラーはつまらなさそうに背を背け、そう言い捨てて再びその場を後にしようとする。


 そんなバーグラーの背中に向かってナルシスは慌てて身を乗り出し、声を張り上げた。


「まっ、待ちたまえよっ! 彼女をどこに連れて行くつもりなんだい!?」


「てめぇにゃ、関係ねぇだろうが。あんまりぎゃあぎゃあ騒ぐと、斬るぜ」


「……っ!」


 鬱陶しそうに眼を吊り上げ、振り返ったバーグラーの瞳には有無を言わせぬ怒りが満ちていた。


 表情は強張り、ぎらついて血走った瞳は真っ直ぐにナルシスを捉え射貫く。


 ナルシスはずっと領主の跡取りとして教育を受けて来た。


 行政業務などをメインに学習して来た為、武芸の心得は殆ど皆無だ。


 力でこられると敵わない事を本人も良く分かっている。


 体格の良い無骨な男に睨まれたナルシスは、己の不甲斐なさに歯噛みしながらも押し黙るしかなかった。


「ふん、最初から黙ってりゃいいんだよ」


 首を下げて項垂れたナルシスを鼻で笑い、バーグラーは再び歩き出す。


 玄関を抜け人もまばらな通りに出ると、そこにはこちらに歩み寄って来る黒服の一団がいた。


 目の先に現れた一団を目にし、バーグラーは思いっきり顔を顰めて舌打ちする。その制服には見覚えがあったからだ。


「今度は騎士様じゃねえかよ、一体なんだっつーんだ」


 だが、騎士と言っても10人程度しかいないように見える。

 

バーグラーは慌てて屋敷へと駆け込むと、中の連中に向かって叫んだ。


「おいっ! 騎士が来てやがる! 10人ほど表に出て来いっ!」


「騎士だと!?」


 目を見開き、その言葉に反応したのはオスカーだった。 


 なぜ騎士がここに来たのか、何も知らせれていないオスカーは一瞬混乱したが、すぐさま増援が来た事に心躍らせた。


 加勢してくれている野盗は、それほど腕があるわけでもなさそうだ。


 人数が増えたことによって戦いやすくなったが、力の差は時間がかかるほど明らかになり始めている。


 その中でも一際目を引く動きをしているのは、先陣を切って飛び掛かったあのザックという男だった。


 騎士の型通りの動きとは違い、軽やか且つ滑らかな立ち回りで寄ってかかる野盗共を斬り倒していく。


 互いに目の前の敵と刃を合わせつつ、バーグラーのセリフを聞いたザックがオスカーに鋭い視線を投げかけた。


「増援かっ!?」


「わからん! 私は何も聞いていない!」


「ちっ、敵じゃねえだろうなあっ!?」


 そう言いながらも目の前の男を一閃し、身体を捻って後方の男に斬りかかる。


「騎士だと言っただろう! 敵なはずがない!」


 オスカーも目先の男に身を屈めて足蹴を喰らわせ、態勢を崩した男を突き刺す。


「知るかっ、おめえらは信用できねえんだよっ!」


 そう言いながらも周りを見渡すと、襲い掛かって来ていた野盗の数が減っている。


 即座に外に出て騎士の対応に入ったようだ。


 だがそれでも屋敷内にいる野盗の人数は大分多く、オスカーもザックも後を追う事が出来ない。


「くそっ、あの猫はどこ行ったんだよっ!!」


 ザックの叫びに反応出来る者は、その場に誰一人としていなかった__




「これは一体どうなっているのだ……」


 ラーミルは混乱する頭で呆然と目の前の敵を見つめる。


 サワナに到着してみれば大豆畑は燃えており、なんとか被害を食い止めようと動く領民達の輪を掻い潜りながらも、騎士として放って置くことも出来ず、半数以上は消火活動に協力するように現地に置いて来た。


 そこで出会った領主に立花朱鳥の居場所を尋ねたところ、自宅に戻っているのでは、ということだった。


 それで混乱する人だかりの合間を縫って教えられた通り領主宅へ向かってみれば、中からぞろぞろと野盗が出てきて、今領主宅を目の前に彼らと対峙する事となっている。


 戸惑いを隠せないまま、武器を手にじりじりと距離を縮めて来る野盗に対し、ラーミルは鞘から剣を抜いて構えた。


 その後方ではルドルフとバーグラーの視線が静かに交わされていた。


 バーグラーの肩に担がれている着物姿の女、あれは間違いなく立花朱鳥だ。


 まさか、こんなタイミングで鉢合わせしてしまうとは……


 だが、とルドルフは考える。


 騎士は人数を欠いているし、警護に付いていたオスカーの姿も見えない。


 屋敷内からも騒音が聞こえる事から、中でも戦闘が行われているのだろう。


 ならば混乱に乗じるのは難しい事ではないかもしれないな……


 視線を交わすバーグラーと殆ど同時に互いに口角を吊り上げ、薄く笑う。


 バーグラーも算段を整えたようだ。


 意を決したようにラーミルに視線を向け、目元を緩めながら笑いかける。


「よう、騎士様よ。俺らはちぃと忙しいんだわ。そこ通らせてくれねえかい」


「何を言う。我らはその娘を保護しに参ったのだ。今すぐ解放せよ!」


 ラーミルのその言葉にルドルフは、やはりと得心がいった。


 自分の予想は間違っていなかったのだ。ここは一芝居打ちつつ、立花朱鳥を連れ去る手助けをしなければ。


「そいつぁ、出来ねえ相談だ。ちぃと急いでるもんでね……わりぃんだが通らせてもらうぜ」


 バーグラーの最後の言葉を合図に野盗共は騎士に向かって飛び出し、男達の気合の入った叫び声と剣戟の音が木霊するその最中。


 互いから決して視線を離さずに真っすぐ相手へと立ち向かった、バーグラーとルドルフの剣が交わった__












最後までお付き合い下さりありがとうございます。

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