ミカン、語る
「アスカっ!!無事だったのかい?
怪我はないかい?どれ、僕によく顔を見せてごらん」
オスカーさん達と合流した私達は、ミカンとナルシストが待機してるというモルモットの屋敷に戻った。
餌をお預けにされた犬みたいに、玄関先でウロウロしていたフリフリナルシストが、プラチナブランドの髪を左右に靡かせて、キラキラと紅いピアスを日の光に反射させながら走り寄って来る。
わたしは引きつった顔で一歩引いて身構えた。
そのわたしの前にテオとトキが並んで立ち塞がるも、ナルシストはクルクルッと軽やかに回転しながら二人の間をすり抜けて、わたしの元へと到着し、ギュッと抱き締めた。
「おいっ、今のなんだよっ!」
「凄いね……俺少し感動した」
「感動する場面かよっ!」
テオがトキの肩をグラグラと揺すって噛み付いているのを横目に、わたしは引きつった笑いをナルシストに向けた。
妨害作戦失敗なり……
「ああっ!僕の愛しいアスカ!
心配で胸が張り裂ける思いだったよ!
怪我はないかい?
本当に無事なんだねっ?」
そう言ってわたしの顔を両手で挟み込み、右にグイッと顔を向けて左にグイッと顔を向けて、頭の天辺からジロジロと見渡した。
その度に首がゴキッゴキッと鳴ってもげるかと思った。
そんなナルシストが私の髪を触りながら、首を傾げる。
「おや、なんだいこれは。
藁なんか頭に差して。
君の艶やかな黒髪が台無しだよ」
んげっ!
わたしの髪の毛から藁を摘み上げ、人差し指と親指でするりと引っこ抜き、ポイッと捨てながら眉を寄せた。
「藁?」
その横でオスカーさんが眉を顰め、難しそうな顔をするのが見えた。
あわわ、ヤバイ!
「あれ、こんな所にも藁が付いてるよ。
藁の上で昼寝でもしてたのかい?」
服の端に食い込んだ藁を目敏く見つけ、またポイッと取り払う。
まるで毛繕いをする鳥のように、あっちも、こっちも、とポイッポイッと藁を放り投げる。
「おい、アスカなんだよ、それ。
どこにいたんだ?」
テオがわたしに駆け寄り、足元に落ちた藁を見て、胡散臭そうな視線を送る。
「ヤマトが……」
__またか。
「ヤマトが、小屋に隠れちゃって。
ちょっと遊んで来ちゃったの、ははっ!」
参ったねーっ!とペシっと額を叩いて笑う。
その腕をナルシストがすっと目を細めて見つめていた事に、わたしは気が付かなかった。
「ヤマトがあ?
そいつ、そんな猫っぽいことすんのかよ?」
__何やら納得いかぬ。
テオの中ではヤマトは素晴らしきかな化け猫様なのだ。
おそらく普通の猫と一緒にするなと言いたいのだろう。
そういう意味だと思うけど、ヤマトは納得いかないようだった。
猫には猫の矜恃があるのね、きっと。
「それはそうとして、アスカも少し汚れてしまったし、お風呂に入ったらどうだい?
この後は挨拶もあるんだよ。
着替えとかもするんだろう?」
サラリとわたしの髪の毛を弄んで、ナルシストがウィンクする。
首筋にぞわりととしたものを感じ、一歩下がるとミカンがつかつかと進み出てわたし達の間に割り込んだ。
「さようでございます。
アスカ様はこの後の準備がありますので、私たちはこれで失礼致します」
ペコリと頭を下げて、わたしの手首を掴み、有無を言わさずに屋敷へと連れ去った。
ナルシストは瞬きを繰り返してそんなミカンを見つめ、クスリと唇に手を当てて笑いを堪える。
「あの子、よほど僕のことが好きなんだね」
その言葉を聞いた三人は一様に顔を顰め、
「ねぇだろ」
「ないよ」
「違うな」
冷たい眼差しを送り、否定した。
「ミカンっ!ミカンってば。
何をそんなに怒ってるのよ」
ぐんぐんと進むミカンを慌てて追いかけながら、目を吊り上げて怖い顔をしているミカンにビクつく。
そう問いかけると、ピタリ、と足を止めてわたしに向き直り、ガシッと肩を掴んだ。
「アスカ様。
わたしは見たのです」
真剣な目をわたしに真っ直ぐに見つめて、語りかけるように言葉を発する。
何その、ホラーの語り手のような話し方は。
思わず口がヒクッと引きつった。
「あの夜……」
夜、ですか。
やはりホラーでしょうか。
「たまたま、ナルシス様の部屋の前を通ったときでした……」
ナルシストの部屋には近寄らない方がいいと思う……
「どこからからともなく、笑い声が聞こえて来たのです。
深夜も更けた頃、屋敷に響く笑い声に気付き、赴いた先がナルシス様のお部屋でした」
「ミカン、それはやってはいけないことよ」
「部屋の入り口が少し開いていたので、何事かと思い覗いて見たのです」
「さぞ、おぞましい光景だったでしょうね」
「そこには、木で出来た人型の人形を抱きしめて、ブンブンと振り回しながら、アスカ様の名前を呼んで頬を染めるナルシス様がいらっしゃいました」
「…………あの、それ以上は……」
「人形にはメイドの作業着を着せ、白いハイソックスを履かせ、チラチラとスカートをまくってはハァハァと荒い息を吐いて、頭部にはフリフリのブリムを付けて、人形の耳元で、ア・ス・カ・と呼んで一人で身悶えておいででした」
「いやああああああッ!!」
わたしは頬を挟んで絶叫した。
ミカンの真剣な目つきは変わらない。
「それだけではありません」
まだあるの?
え、なんでホラーなの?
誰かこの子を止めて。
わたしは涙目だった。
「その後、ナルシス様が許せないことを言ったのです。
アスカ様はお綺麗ですから、世の男達を狂わせるのは当然の事だとわたしは思います」
狂わせるってミカン。
そんな悪女みたいな言い方しなくたって。
わたしは心の中で泣いた。
「けれど、あのナルシス様は、こう言ったのです。
『ああ!君はなんて美しいんだろう。
その艶やかな黒髪!透き通った漆黒の瞳!
食べたくなるような紅い唇、撫で回したくなる白い肌!
その色気も申し分ない!
僕とまさに、同レベル!!』」
ガクッと、わたしは項垂れた。
うん、まあ、その辺りかなぁとは思ってたけどね。
それのどこに、ミカンを怒らせる要素があるのか、わたしには分からないけども。
ただうんざりして脱力感を味わうだけの話だ。
「それで、何を怒っているのよ、ミカン」
はあっと大きくため息をついてミカンに視線を向けると、俯いてプルプルと打ち震えているところだった。
「み、ミカン……?」
恐る恐る声をかけると、くわっと目を見開いて顔を上げ、怒涛の如く話し始めた。
「同レベルですよっ!?
同レベルっ!!信じられませんっ!!
どこをどう見てもアスカ様の方がお綺麗ですし、色気もありますし、服の着こなしも完璧ですし、化粧なんかしたら、誰にも負けませんっ!
それなのに、男であるナルシス様がアスカ様と同レベルだなんて……許せません!」
__我にはこの娘が言っている意味が分からぬ。
わたしもだよ、ヤマトさん。
ぷんぷんっ!と怒っているミカンが、再びわたしの肩をガシッとつかみ、グッと顔を近づけて言う。
「宜しいですか、アスカ様。
午後の挨拶の時には絶対にナルシス様には負けられません。
キチンと着物もお持ちしましたし、完璧に仕上げてみせます。
その為にもまず、その藁がくっ付いたお身体を洗いましょう。
さ、行きますよ!」
そう言ってまたわたしの手首をつかみ、屋敷内へと入っていく。
わたしはため息をついてミカンを追いかけた。
アスカ達が屋敷へと戻り、オスカー達は警備をする為辺りを巡回していた。
その様子をバーグラー達は物陰から窺う。
頬にある刀傷を摩りながら、にやり、と嗤う。
「あれだな」
「居場所を突き止めるのは簡単でしたね、親分。
あそこにいる領主の息子も有名ですし、昼間に騒動もあったみてぇです」
情報収集に駆り出された子分のひとりが、声をひそめて話す。
「ああ、ちぃとタイミングが悪かったようだな。
ザックなんかと会わなきゃ良かったぜ。
だが……」
あれは、嘘だな。
あいつは感情を隠すのが上手いが、子分共は下手すぎる。
黒髪の女を知っているかと聞いた時、バーグラーはザックではなくその後ろの子分を見ていた。
明らかに動揺している顔だった。
だが……帰り足のようだったし、まあ、問題ねぇ。
「なんでも、午後から領主主催の大きな集会があるそうじゃねぇか。
その隙をついて、女をかっ拐う。
見た限り護衛は今のところ二人だ。
俺らの人数なら問題にならねぇだろう」
スリスリと、頬の傷を撫でて、バーグラーは目をギラつかせる。
「親分、どうするおつもりで?」
「そうだな……ひと騒動起こすとするか」
そう言ってバーグラーは、にやりとした笑みを見張りの騎士に向けた。
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