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安心する場所

 __本当に大丈夫なのか。



 タッタッタッタッ!


 逃げるように道を走る私の横を同じスピードで駆けながら、ヤマトが私に問いかける。



「へいき……よっ!」



 ったく、どこまで遠い所に連れて来られたのかしら。



 辺りを大豆畑で囲まれ、ぽつりぽつりとボロ小屋が見えるあぜ道を、私達は息を切らしながら走り続ける。




 __結局、あの者らは何をしたかったのだ。



「私が巫女なのかという確認と、あなたが何者なのか知りたかったみたいね」



 __我らのことは、あの城の者達しか知らぬはずだが。



「源泉の泉で精霊を使ったのを見たと言ってたわ。それで興味が出たんじゃないかしら」



 はあっはあっと息が切れる。だけど足を休めるつもりはない。こんな知らない所まで連れて来られて、ヤマトが傍にいて安心だけど早くみんなと会いたかった。



 __我を拐おうとしたのは、あのザックと名乗った男だ。それは源泉の泉に行く前のことであったろう。ならば、キッカケはそこではない。



「そう言われれば、そうね……」



 走るとぎゅるぎゅるっとお腹が鳴った。



「お腹空いた……」



 __商店街に赴けば食べ物もあるだろう。それよりも、最後にあの男が言った言葉、忘れるでないぞ。



「気を付けろ、ってこと?」



 __そうだ。どことなしか、嫌な予感がする。



 予感ねぇ……化け猫には予知機能も備わってるのかしら。



「ヤマトも気を付けるのよ、ザックが言ってたでしょう」



 __我のことは心配いらぬ。



 でしょうね、と内心呟く。最悪、威圧でもかけまくって空飛んで逃げればいいのだ。



 空飛ぶ黒猫……一見可愛らしいファンタジーに聞こえるが、ヤマトがやったら全世界が震撼するに違いない。



 はぁはぁと息を荒くしながらひたすらあぜ道を走り抜け、私達はようやく商店街にたどり着いた。



「みんなはどこかしら」



 きょろきょろと周りを見渡してみたが、すでにナルシスパレードの賑わいは消え失せ、普段と変わらぬサワナの活気だけが商店街に満ちていて、ナルシストやオスカーさん達の姿を捉えることはできなかった。



「とりあえず、モルモットの屋敷に戻りましょうか」



 あそこに戻ればきっとみんなとも合流できる。そう考えて歩みを進めようとした時だった。



「アスカ!!」



 聞き覚えのある呼び声に思わず振り返ると、オスカーさんが艶やかな黒髪を風になびかせ、こっちに向かって駆け寄って来るところだった。



「オスカーさん! 良かった、すぐ会え……」



 嬉しさのあまり笑顔になった私の言葉は途中で途切れた。駆け寄ったオスカーさんが力強く私を抱きしめたから。


 息が詰まるほど強く抱きしめられて、驚いた私は思わず言葉を失った。



「良かった……」



 オスカーさんの安堵した声がが吐息と共にすぐそばで聞こえる。



 私の背中に回された腕とオスカーさんの体温に包まれて、じんわりと心が温かくなるのを感じる。突然のことに少し驚いたけれど、心を満たしたのは安堵と喜びだった。



 ぎゅっと力を込められて少しだけ息苦しい。でも、もっと強く抱き締めて欲しいとも思ってしまう。その欲求をなんとか振り払い、私は顔をあげる。



「ごめんなさい。でも、無事ですから」



 オスカーさんは私の肩に触れてそっと身体を離し、不安そうに揺れるその瞳を私に向けた。その透き通るような瞳に見つめられると、心が吸い寄せられて思わず瞳が離せくなる。



「あっという間に取り囲まれてしまったのだ。なんとか抜け出した時にはお前を見失っていた。どこにいたのだ」



 どこに……その問いかけに私はどう答えるか少し悩んだ。



 野盗に囚われたと素直に言っても良いけど、もう手は出さないと言ってたし、あんなにヤマトに怯えていたんだもの。もう心配いらないわよね。



「人混みでヤマトを見失っちゃって、探してたらはぐれちゃったんです」



 __言わぬつもりか。




 真実に対する問いかけは、私にしか聞こえない。だって余計な心配はかけたくないじゃない。



 オスカーさんは私の足元にいるヤマトを見つめてホッとため息をついた。



「見つかったようで何よりだ。ヤマトを狙っていた野盗もいたことだし、我々ももっと注意しておくべきだった。すまない」



 申し訳なさそうにそっと瞳を伏せたオスカーさんに、私は心で語りかける。



 教えてあげたい。あの野盗達はヤマトに怯えて拝んでいましたから。神様だとか崇めてましたから。ガクブルで震えあがってましたから。



「そんなこと……無事だったんですから大丈夫ですよ。それよりも、ナルシストのファンはどこに消えたんですか? テオやトキは?」



「あの後、アスカがはぐれたと知って場を治めたのはナルシス様だ。彼が一声かけると皆いなくなってな。騎士団も真っ青の統率ぶりだったぞ」



 そう言ってふっと笑うオスカーさん。なんとまあ。素晴らしいファン達だ。私は場を収めたナルシストよりもナルシストファンを尊敬した。



「テオはトキと一緒におまえを探している。ナルシス様も探されているはずだが……」



「じゃあ、早くみんなと合流しましょう。午後には挨拶しなきゃいけないし、そろそろ準備もしないと」



「そうだな。では行こう」



 オスカーさんの柔らかな視線が私に降り注ぐ。そんなオスカーさんの隣はいつも穏やかで居心地がいい。私は元気よく返事をして笑顔でオスカーさんの隣に立った。




 しばらくオスカーさんと商店街を歩き回るとテオとトキを見つけた。



「「アスカっ!!」」



 私を見つけた二人が駆け寄って来る。テオよりも体の小さなトキが最初に私に飛びついて、その細い腕でぎゅうと抱き付いた。



「トキ……ごめ……」



「ごめんっ! 俺がアスカと一緒に行くって言ったのに見失うなんて。後ろの騒動にビックリして思わず手を放しちゃったんだ……振り返ったらもうアスカがいなくて……」



「あれは……」



 本当に必殺仕事人も真っ青な早業で。そう言いたいのをグッと堪える。



 私を見上げたトキの目に涙が浮かんでいるのを見て、ぎゅっと胸が苦しくなる。凄く心配かけちゃった。ザックのこと何発かぶん殴ってくれば良かったわ。



 トキの涙を見て、いまさらふつふつと怒りが込み上げる。



「――あの騒動でヤマトが驚いちゃって逃げちゃったのよ。それで慌てて追いかけたら迷っちゃって」



 __また我を悪者にする気か。



 じろりと視線を向けるヤマトに私は心で謝った。ごめんよ、ヤマトさん。あとでモルモットの屋敷からジャーキーもらってくるからね。



「ヤマト……無事なの?」


「ええ。無事よ。私もね。だから泣かないで、トキ」



 心配そうに足元にいるヤマトに視線を落としたトキの頭をなでる。サラサラとした髪が指の間をくすぐり、トキは安心したようにほっと息をついて再び私の胸に顔を埋めた。



「おい、トキ……あんまり抱き付くなよ」



 黙って見ていたテオが顔をしかめてそう言うと、トキはゆっくりと身体を離した。



「テオも心配かけてごめんなさい」



 向き直ってそう謝ると、テオ表情を曇らせた。れは怒っているような悲しんでいるような、複雑な感情が入り混じったもので、ああまたテオは自分のことを責めてしまっているのだと私は気付く。



「テオ……」


「ごめん。俺達はアスカを護るためにここにいるのに、見失ってしまうなんて。騎士失格だよな」


「あんな大人数にもみくちゃにされたんだもの、仕方ないじゃない」


「まさか俺達にまで女の子達が襲いかかるなんて思わなかったんだ」


「そうね」


「俺も隊長も身体中触られてさ、服まで取られそうになったんだぜ。女の子って怖いよな」



 申し訳なさそうに項垂れたテオの顔が、あの時のことを思い出したのか徐々の青ざめる。テオの中で女の子はか弱く護るものから怖いものへと認識が変化したようだった。



「サワナの女の子は積極的なのね」


「マジで、取って食われるかと思った」



 あらあら。襲うとか食われるとか、テオはそんな言葉苦手なはずなのに。そんなことを気に留める余裕もないほど怖かったのかしら。



 私はテオの傍に歩み寄り、そっと腕を伸ばして抱きしめた。



「な……」


「大丈夫よ、テオ。あんな魑魅魍魎からは私が護ってあげるわ」



 安心させるつもりで抱きしめたのに、私の腕の中で石のように固まったテオは顔を真っ赤にすると、どんっと私を突き飛ばした。



「な、な、な、何言ってんだよっ!? 護るのは俺の仕事だろっ!! 女の子を護るのは男の役目だっ!!」



 カアッと首まで真っ赤にしてそう叫び、テオはぐるっと後ろを向いてうつむいてしまった。



「アスカ、テオが死んじゃうよ……」



 複雑そうな顔でテオを見つめるトキが、私の傍でボソッとそう呟いた。





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[一言] 私氏死亡・死因・キュン死に
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