野盗の忠告
「オメェその話、誰に聞いた?」
背後からかけられた声に振り返る。柱に身をもたれて腕組みをしながら私を見つめる銀髪の男。求めた答えではなかったけれど、私はその答えを返す。
「誰にって、この猫本人からよ」
男はヤマトに視線を移し嫌そうに顔を歪めると、再び私に視線を私に戻した。
「猫が喋ったってゆーのか?」
「そうよ。この猫は話せるの」
そう答えると、しばしの沈黙が流れた。
まあ、そう言っても誰も信じないわよねと、私が内心ため息をついた時だった。
「……で、その話せる猫は何モンだ?」
ガシガシと頭を掻いてため息をつき、男がそう尋ねた。てっきり鼻で笑われるか、取り合ってもらえないと思っていたのに。
でもまあ疑ってるかもしれないけど、話が進むならそれでいい。
「この猫は導く者といって、化け猫……じゃなくて神様からの遣いで。えーと……なんだっけ」
頬をポリポリと掻いて腕の中のヤマトを見つめる。と、不意に辺りの空気が変わり、地の底から這い上がるような低い声が小屋に響き渡った。
__愚か者が。
呆れたような声色だ。私を見上げるヤマトの金色の瞳が大きく見開き、紅い眸がすっと立ち上がるのが見える。ごめんごめんと内心呟く私の耳に、ぽつりと呟く男の声が届く。
「この……声……」
銀髪の男はその蒼い瞳を大きく見開いてヤマトを凝視していた。
「なっ、なんだぁっ!?」
「うわあああッ神様! 仏様! 巫女様ッ! お助けぇぇぇっ!!」
突如耳に届いたヤマトの声に、隅で縮こまっていた野盗達は再び狂ったような悲鳴をあげる。
__我は神々よりこの地に遣わされた導く者。巫女を導き、神々の恩恵をその身に宿す手助けをする者なり。理解したのならば、即刻この者をここから解放せよ!
ヤマトは少し怒ったように最後は力を込めて言い放った。まさにそれは、悪魔の如き諸行とでも言うのか。全身粟立つような響きを持つ言葉に、思わず私までもゴクリと喉が鳴る。
「おっ、おかしら……」
「理解出来たかしら」
真っ青になってガタガタと震える連中の一人が、恐る恐る顔を上げて銀髪の男に視線を投げかける。
おかしらと呼ばれた男を見つめると、やはりそちらも顔が青い。男は私とヤマトを交互に見つめて静かに頷いた。
「分かった。もういい。俺らは邪魔をしねぇ。もうここから、出て行け」
そう言って顎で扉を指す男に私は両手首を突き出した。
「その前にこの縄、取ってくれない」
猿ぐつわは外されたものの、手足はまだ縛られたままなのだ。
「ああ……わりぃことしたな。……アスカ、つったか」
急に大人しくなったおかしらは縄を解きわざわざ小屋の扉も開けてくれた。開かれた扉を手首をさすりながらくぐり、呼ぶ声に振り返る。
「ええ。あなたは?」
「ザック」
「そう。じゃあザック。これからサワナで大きなイベントがあるの。絶対に邪魔しないでよね」
おから料理の公布を、こんな奴らにめちゃくちゃにされたらたまったもんじゃないと、釘を刺すことを忘れない。
「ああ。言ったろ、手は出さねぇよ。ただし、ひとつだけ忠告だ」
「忠告?」
扉に身体をもたれかけていたザックは、私の耳元に唇を寄せるとそっと囁いた。
その時ふっと鼻を掠めた香りが雨上がりの爽やかな空気に似ているなと、そんなことが頭をかすめる。
「気を付けろ。おまえも、その猫もだ」
それはやけに重く耳に響いた。
ヤマトを狙っていたのはこの連中で、もう手出しはしないと言っているのに、一体何に気を付けろと言うのか。首をひねりながらも私はうなずきを返す。
「分かったわ。忠告ありがとう。それじゃあね」
そういって私はヤマトと共に走り出した。今頃私たちを探しているだろう、オスカーさん達の元へと。




