野盗の錯乱
あれが精霊の力かどうか。一体それを知ってどうするつもりなのだろう。そもそもこの人達の狙いは私ではなくヤマトだったはずだ。だいたい「巫女」として私を攫ったのならこんな問いかけは不要だ。問答無用で売り払うか強制的に利用するはず。
それにこの怯えよう……私はちらりと周りの連中にも視線を流す。
最初見た時には、その小汚い顔立ちや武器を構えた凶悪そうな風貌に危機を感じたけれど、今改めてまじまじと見てみれば私の答えを固唾を呑んで見守る男達の顔には、どことなしか不安の色が浮かんでいるように見える。
その様子を見てイマイチ目論見がつかめなかった私は、素直に答えてみることにした。
「そうよ」
そう答えた瞬間、男達は驚愕に顔を青ざめて後ろに飛び退いた。
「ほら見ろよっ! だから言ったじゃねぇか!」
「巫女様にこんなことして、バチが当たるぞっ」
……へっ? バチ?
顔を青ざめ、口々にわめきながら逃げるように私から距離を取る屈強な男達。
どんな反応が返ってくるのか身構えていた私は、口をぽかんと開けておもいっきり間の抜けた顔をした。
「オメェら、ちょっと黙れ」
銀髪の男はそんな連中を呆れ顔で見渡して、大きくため息をつくと再び私に視線を向ける。その目は連中に向けたものとはまた別の、呆れが滲んだものだった。
「あのな、お嬢さんよ。精霊の恩恵を使えるのは巫女様になれる人間だけだ。それは知ってるか?」
「知ってるわ、耳にタコが出来るくらい聞いたもの」
「それじゃあ、精霊を使えるオメェは何モンだって話なんだよ」
「あなたバカなの? 今自分で答えを言ったじゃないの」
呆れたのは私の方だ。ぽかんとしたままそう返すと、男の目つきが怒りを帯びたように鋭さを増す。
「……つまり?」
「私は巫女の器ってことよ。まだ承認はされていないけど」
つまりこの人攫い達は、私が巫女かどうか確認するために私を連れ去ったということなのだろう。やはり売り払うのが目的? だけど……
私はいまだに部屋の隅で肌を寄せ合い怯える野盗達に視線を移す。
……じゃあなんで怯えるの? 私の眉間のシワは増える一方だった。
「巫女の器……つまり、巫女様になれるってこったな?」
「まあ……そういうことね」
なるつもりはないけれど。なれるか、なれないかという問いなら答えはイエスだ。
「おかしら! もうやめようぜ、解放してやろう! こんなこと、やっちゃいけねぇ!」
「そうだ! やっと……やっと現れたんだ! それを俺たちの手で潰しちゃなんねぇ!」
なんのことだか皆目見当もつかないが、遠まきに見守っていた連中がそろって解放を勧め始める。さらに私の眉間のシワは濃くなった。
「騒ぐなって言ってんだろ! こいつが静かにしてんのに、テメェらがギャアギャア騒いでんじゃねぇよ!」
確かにその通りだ。私はせっかく解放を勧めてくれた連中に残念な視線を向ける。
「他に聞きたいことは? もうないなら解放してくれないかしら」
ドア越しからずっとヤマトの爪音がしている。そろそろ爪が剥がれてしまうかもしれない。
「聞きてぇことは他にもある。おい、入れてやれ」
男がそういうと、連中の一人が転がるように飛び出してドアを開けた。
__アスカ!! 無事かっ!!
「ヤマト! 平気よ。心配いらないわ」
__この者達は、一体何者だ。
「知らない。人攫いよ」
飛び込んできたヤマトを抱きとめそう言った途端、ヤマトの全身の毛が逆立ち、その身体をいつか見た煌々とした紅いベールがぶわりと覆い始める。
ヤマトを中心に空気に圧がかかり始めたのを感じて、私はあわてて止めに入る。
「待って! 話せばなんとかなりそうなの!」
それを聞いたヤマトの身体が落ち着きを取り戻し、私はほっと安堵の息を吐く。だけど……耳に届いたのは安堵とは程遠い、野盗達の叫び声だった。
「おっ、おい……今の見たかよ……」
「あの猫、いま光ったよな」
「うわああああっ!!」
その声に振り返れば、屈強な男共はみなガタガタと震えながら小屋の隅に固まり、顔を真っ青にして怯えた表情をこちらに向けていた。その中には手を擦り合わせて拝んでいる人もいる。
「神様だ! あの猫は神様なんだよ! 巫女様と一緒にいるんだ! ぜってぇそうだ」
拝み屋と化した野盗がそう叫ぶと、一同みなそろって床に頭を打ち付けその場に土下座した。
「ちょ、ちょっと……」
一体なんなの? ヤマトが化け猫だって知っててコレクションにしようとしたんじゃないの? この異常な怯えようはなに? 困惑する私に構わず手をすり合わせながら何度も頭を下げる野盗達。私の口元がひくりとひきつった。
「あああ巫女様! 神様! お許し下さい! お許し下さい!」
「あ、あのね……確かにこの猫は普通の猫じゃないけど、別に神様ってわけじゃ……」
「うわあああ! 喋ったぁぁぁあっ!」
おい。
人間、錯乱すると何もかもが異常に見えるのだろうか。
「あの、ちょっと落ち着いて……」
「ぎゃあああああっ!!」
ピキッ
「ちょっと黙りなさい、あなた達!! 黙らないと、この猫頭の上に乗せるわよっ!!」
むんずとヤマトを掲げてそう言い放つと、しんと嘘のように場は静まり返った。
__おい。
ヤマトが何かモノ申したいようだけど、ここはスルーさせて頂く。
「この猫を頭の上に乗せられたくないなら私の質問に答えなさい。あなた達、この猫を狙ってたでしょう? なぜ狙っているの?」
そう問いかけると、野盗達の顔がさらに青ざめる。もうこのまま、あの世にいってしまうんじゃないかというほど青ざめた。
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