野盗の問いかけ
……えっ?
一瞬の間。
私は誰かの肩に担ぎ上げられた。口には猿ぐつわ。手足も瞬時に拘束される。必殺仕事人かっ! とでも言いたくなる早技だった。
なにっ!?
私を担いだ誰かが足早にパレードから遠ざかる。
後ろの騒動に驚いて振り返ったままのトキはこちらに気付いていない。どんどんトキの後ろ姿が小さくなっていく……
__アスカっ!!
唯一、抱き上げようとしていたヤマトだけが異変に気付き、追いかけて来ているのが見えた。
「うむーっ、うーっ!」
ヤマトっ!
そう叫びたいのに、口を塞がれて上手く言葉が出ない。
「うーっ!! むむむーっ!!」
なんなのあんた達、誰っ! 放してっ、放しなさいよっ!
手足をバタバタと動かし、叩いたり殴ったり引っ掻いてみたりしたけど、私を担いだ男はびくともしない。
人攫いっ!? これって、人攫いよね。私どこかに売られるの? 待ってぇ、待って! お金稼ぐ前に売られるとか冗談じゃないわよっ!
私はこれからおから料理でガッポリ稼ぐ予定なのよっ。売られたらどうなるの? それこそルドルフが言ったように、奴隷とかになるの? 冗談じゃないわ。そしたら神様探せなくなるじゃないのよ!
いやああああっ!
放せぇえええっ!
降ろせぇええっ!
私を担ぎ上げた男は右へ左へとグングンと道を進み、ナルシストパレードの歓声が遠くに聞こえた頃、突如、バタンッという大きな音と共に視界から光が消え失せ、私の身体はドサッと放り投げられた。
全身を打ち付けるも、こんもりと盛られた藁の上に投げられたようで、それほど痛みはなかったが。
女の子なんだからもう少し丁寧に扱ってよねっと内心で悪態をつきながら、もぞもぞとみのむしのような動きで上体を起こし、ぐるりとあたりを見回すとそこは小さな小屋の中だった。
でも問題なのは場所ではなく……剣やら斧やら武器を手に取った小汚い恰好をした男達が、私の周りをぐるりと取り囲んで見下ろしていることだ。
そのすべての視線を一身に浴びて、思わず引きつりながら私は後ろへあとずさる。だけど、瞬時に気を取り直した私は男達を睨みつけた。
「むーむむむーむむーむむむーっ!」
『あなた達なんなの!? なんの用があるわけっ!?』
猿ぐつわを噛ませられたまま私は必死にうなり声をあげる。
見るからに物騒な男達に囲まれているが、残念なことに私は怯えて押し黙るような女ではない。ぐぬぬぬっと私は男達を睨みつけた。
「ああ、クッソ! いってぇ。顔引っ掻きやがって、このじゃじゃ馬!」
私を放り投げた男が悪態をつきながら苛立たし気に頬をさすり、頭にかぶっていたバンダナを取り払う。そこから目を見張るような綺麗な銀色の髪がサラリと零れ落ち、私の目はこぼれそうなほど大きく見開かれた。
―――この男……!!
「んむーっ!! むむむむむーっ!!」
『おまえっ! 猫泥棒っ!!』
「ああ? 何言ってっかわかんねぇよ」
面倒くさそうに頭をがしがしと掻いて私の目の前にしゃがみこみ、顔を突き出した男のコバルトブルーの瞳が私を睨みつける。
「なあ、俺らはオメェにちっと聞きてぇことがあんだよ。それに素直に答えてくれりゃあ、すぐに解放してやる。だから騒がずに話を聞け。いいな。約束するなら黙ってうなずけ」
聞きたいこと? そのために拉致したっていうの?
それなら普通に尋ねられた方がまだ、素直に受け答えできるというもだ。それにすぐに解放するっていうのも信用できない。だけどいつまでも猿ぐつわを噛まされてたんじゃ、話も出来ないし騒ぎ声もあげられない。とりあえずお口だけでも解放してもらわねば。
私は段取りをつけて心を決めると黙ってうなずいた。男はそんな私を胡散臭そうに睨みつけ、くいっと私の顎を指先で持ち上げた。
「いいか。猿ぐつわ外した途端に騒いでみろよ。俺らは女子供を痛ぶることになんの躊躇もねぇ。下手すりゃここで死ぬハメになるだろうぜ。そこんとこ、よーく考えるんだな」
凄みを効かせた声であからさまな脅しを向けたこの男に、むかっ腹が立つ。
女子供を痛ぶるですって? やれるものならやってみなさいよ。モデルの仕事があれば仕事に差しつけるから、なんとか穏便に済まそうと考えたかもしれない。だけどここでは関係ない。顔より命が大事だ。
「分かったのかよ」
ふつふつと湧き上がる苛立ちを抑えながらこくりとうなずくと、銀髪の男は私の後ろにいる仲間に顎で指図をした。するとゴツイ男の手が何度か頭に触れて、するりと猿ぐつわが外される。
やっと解放されたお口で言いたいことは山ほどあるけれど、まずはその要件とやらを聞かないと話が進まない。だからなんとか罵詈雑言を呑み込んだ。
「騒いだりしないわ。さっさと用件を済ませなさいよ。私に聞きたいことってなんなの」
この猫泥棒が。ヤマトならずっと追いかけて来ていたじゃないの。さっきから、小屋の扉を懸命にカリカリと引っ掻く音が聞こえている。捕まえたいならさっさと捕まえればいいのに。でも男は扉を見向きもしない。
「俺らが聞きたいのは、テメェの正体だ」
「私の正体?」
「オメェ、何モンだ?」
「立花朱鳥ですけど」
「名前なんかどうでもいーんだよ! そうじゃなくてだな……」
男は困ったように顔をしかめると、わしわしっとその綺麗な髪をかき上げた。だけど顔をしかめたのは私も同じこと。この人達は一体何が聞きたいわけ。
「あのですね、お嬢さん」
言いよどんだ男と、眉を寄せて睨みつける私。そんな私達の間におずおずと震える声でそう切り出したのは、ぐるりと私を取り囲んでいる男の一人だった。
スキンヘッドなのかはたまた素の禿げなのか、イマイチ判別のつかないつるつる頭にムキムキの筋肉質な身体つき。なのに怯えるような小さな声で「お嬢さん」と声をかえたこの男に私の視線は移動する。
「はい、なんですか」
「実は俺ら見ちゃったんです。あの源泉の泉でお嬢さんが泉を沸かしたところ……」
げっ、マジ? 誰にも見られていないと思っていたのに、まさか野盗に目撃されていたなんて。未承認の巫女がいると知れ渡れば狙われると言ったのはオスカーさんだ。
まさか私を攫ってこの力を野盗の悪事に利用するつもり? それとも売り払う? 可能性は山ほどあるけど正解は分からない。とりあえず私は注意深く相手の出方を見ることにした。
「……それで?」
「あれは……精霊様の恩恵で間違いねぇですか?」
その問いかけに私は沈黙を返すのだった。




