お土産
「モルモットさん、あのお土産があったでしょう? ナルシストも気にいると思うんですけど」
「おっ、そうでしたな。ナルシス。ほら戻ってこい」
モルモットは私にベタついて離れないナルシストをハウス! とばかりに自分の隣の席に呼び戻した。
「うん……? なんでしょう。父上」
「これは城へ参った際にアスカ殿から皆に渡された土産物だ。ユーラにしか売っておらんもので大変貴重なのだ。これをお前にやろう」
そう言って差し出したのは和柄の扇子。
赤と銀細工のコントラストが目を引く、派手な色合いのものだ。
「これは……? 素晴らしい。なんて美しい物なんだろう。僕にピッタリじゃないか。アスカ、これを僕のために?」
「ええ。おから料理を広げるための無料配布には、領主様のお力添えが必要です。これから尽力して頂かなければなりません。これは、そのお礼の気持ちです」
そう。私が呉服屋の女将に頼んだものは、のぼり旗だけではなかった。むしろ、こちらがメイン。
おから審査会でも公布式でも私は着物を着て散々アピールをした。着物は『ユーラ限定』のものであると領主達の頭にはしっかり叩き込まれたはずだ。
だが「聞く」のと「見る」のでは雲台の差がある。帰宅した領主が着物がいかに素晴らしいものだったと語っても、それは土産話にしかならない。
さすがに着物を一着ずつプレゼントするわけにいかなかったので、布地を使った小物をプレゼントすることにした。
ただしターゲットは領主ではなく、その家族だ。
ナルシストが派手好きだというデータは最初からロウェル爺ちゃんに聞いて知っていた。
各領主の息子、または娘。またはその奥方。彼らの好みを知りうる限り教えてもらって作った。
もちろん心象を良くしてもらうためでもある。だけど本当の目的は富裕層をユーラにおびき出すためだ。
今後の展望を考えた時、やはりお金を落とす人がいなければ、いくらおから料理の店を開こうが儲けは出ない。
このタイミングで『着物』についてアピールを行い、ユーラに足を運ばせる。上手くいけば奥様ネットワークで繋がる他の富裕層も呼び込める寸法だ。
「感激だよ! こんなに僕の趣味を分かってくれるなんて! やはり君は僕の運命の……」
「奥様。奥様にもお土産があります。こちらをどうぞ」
「あ、あら。わたくしにもあるのですか? まあ、それは?」
「日傘です。日差しは美貌の天敵でしょう? この国はいつも天気が良いですから、奥様にはいつも美しくいてもらいたくて作らせたのです。これも着物の生地を加工して作らせた物で、本来ならばユーラにしかない物なのですよ」
モルモットの隣で静かに様子を見ていた夫人に、にっこりと笑いかける。
さらっとユーラ限定の希少価値をアピールしつつ、それをあなたにあげるよという特別視。
大概の金持ちは「ありきたり」が嫌いだ。
誰も持っていないもの、珍しいものが大好きな傾向が強い。
何度も言うが、すべてはおから料理のため。それすなわち、私のためである。
「まああ! とても素敵な日傘ですこと。ナルシスの柄とも似ているけれど、こちらの方が色味が柔らかくて女性らしいわね。なんて気の利くお嬢様でしょう。これから使わせて頂くわね」
ナルシストのイチャイチャ攻撃を皿のような目で見ていた夫人の目が和らいだ。
女の人はプレゼント、オシャレ、弱いもんねぇ。
これでつかみはOKかな。
「明日、領民を集めておから料理配布の準備を始めます。その時にアスカ殿に立ち会って頂き、皆に声をかけてやって頂きたい。よろしいですかな?」
「もちろんです。その為に来ましたから。私も協力は惜しみませんよ」
「それはありがたいことですな。それまでは我が屋敷にてごゆるりとお過ごし下さい」
モルモット夫婦がそろって笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます。奥様も色々と忙しくなるかもしれませんが、どうか無理をなさらずに。モルモットさんは実に頼りになるお方ですから、私も安心して任せられるというものです」
「アスカ。こうみえても僕も頼りになる男だよ。一見この美しさのおかげで軟弱者に見られがちなん……」
「ええ。うちの主人に任せておけば何も問題ありませんわ。こうみえても、やり手の領主ですの。それも、わたくしが支えてやらなければなりませんけれど。ほほほほほ」
「まあ、仲がよろしいんですね。羨ましいです。うふふふ」
「アスカ、僕たちも仲良く……」
__その男の顔を引っ掻いてやろうか?
ヤマトの声がいつにも増して怒気に満ちていた。




