野盗の嘆き、攻めるナル
「な、なあ。この依頼、やっぱやめにしねえか?」
「あれは神様の遣いかなんかだぜ。あんなこと、ふつーの人間にゃあ、できねぇ」
「泉に恩恵が戻ったって、すげぇ噂になってる。あれは恩恵なんだよ」
「でも……恩恵って、巫女様にしか出来ねぇんだろ。じゃあ、あの女が巫女様ってことなのかよ」
「まさか。この国に巫女様なんてもう現れねぇよ。何年いねぇと思ってんだ」
源泉の泉で朱鳥達の後を追い、炎の精霊の恩恵を偶然、目の当たりにしてしまった野盗達はこうして話もまとまらず、しかし猫を見失うわけにもいかず、遠巻きに領主一行を追いかけながら結局サワナまで来てしまっていた。
朱鳥達が領主宅に入って行くのを商店街の一角からこっそりとのぞき、肩を寄せ合ってコソコソと話し合う野盗達。そんな仲間の会話を銀髪の男――ザックはただ黙って聞いていた。
巫女。
このアイゼンにはもうずっと現れていない。
長く巫女が出現しなかったこの国の土地は荒れて、作物は育たず豚や鷄すらも痩せ細った。
ザックは元々は農家の生まれだった。家族は多くて下には八人の兄弟姉妹がいた。
両親の手伝いをしながら試行錯誤を繰り返しなんとか作物を育てようとしたが、作物はついに芽さえも出さなくなり、ついに数頭いた家畜さえも売っぱらった。
先の見通しもたたず、追い詰められてぎりぎりの生活を送る家族の表情は暗いものだった。
そんな日々を送りながらも、状況を理解できない幼い兄弟は無邪気な笑顔をザックに向けた。その笑顔だけがザックの唯一の心の救いだったのだ。
一番下の妹はそんな世界の中で生まれ、母さんは栄養不足のためか全然、乳が出ないと毎日なげいていた。そんなある日、まだ生まれて数か月しかたっていなかった末の妹の、ただでさえ小さなその呼吸がいつの間にか止まっていることにザックは気が付いた。
それから俺たちはバラバラになった。それぞれが生きる道を探すために。家族なんて甘い括りの中で生きれるほど、この世界は優しくなかった。
だが……あの女がもし、本当に巫女だとしたら。
憎しみさえいだいてしまいそうなこの世界が、少しは俺たちに優しくなってくれるじゃねぇかと、そう思ってしまう。
その女が飼っている猫。依頼はその猫だ。
だけど引っかかる。一体なぜ、あの猫が標的なのか。
あの依頼主は猫以外に手出しは不要だと言った。世の中にはおかしな依頼に多額の金を払うヤツはごまんといる。
だから当初は気に留めもしなかったが、もしあの依頼主があの女が巫女だと知っていたとしたらどうだ。
「なあ、おかしら。結局、俺たちはどうすりゃあいいんだよ」
頭を抱えた仲間の一人がザックに助けを求めた。仲間の視線を一手集めながら、困ったようにぽりぽりと頭をかきながらザックは答える。
「あの女が巫女かどうかは分からねぇが……今回の依頼には期限が決められてねぇ。焦らねえで、じっくりやりゃあいいさ」
しばらくは様子を見るか。
そもそもあの女、何しにサワナまで来たんだ?
ザックが時間稼ぎのために適当にそう言うと、困り果てていた仲間達の顔が一斉に明るくなる。
「そうか。そうだったな! じゃあ、ずっとやらなくたって別にいいじゃねぇか!」
「バカかよ、おめぇ。ずっとやらなかったら、金が貰えねぇだろうが」
「いやぁ、だってあんなん見ちまったらよぉ。あの猫も、なんかあんじゃねぇかって思っちまうだろ」
「ありゃあ、ただの猫だろ。別にあの女をやれって言われてるわけじゃねぇんだからよ」
「そうだけどよ……罰当たりな気がしてよ……」
「テメェはホントに肝がちいせぇな」
ガハハハッと笑う仲間達の声を聞きながらザックは思案する。
とはいっても、いつまでもうだうだと様子を見ている訳にもいかない。多少の危険は伴うが、今回の依頼はよく見定める必要がありそうだと。
◇
「その黒髪、実に珍しいね。艶々して君の白い肌をより引き立てるようだよ……。触ってみてもいいかい?」
「ナルシスト。ダメよ。髪は女の命。触れていいのは恋人だけよ」
「アスカ……君、恋人はいるのかい?」
二人でソファに腰掛け、ピタリと私にくっ付きながらうっとりとしたような瞳を向けて、指先で私の髪にそっと触れるナルシスト。
何をイチャイチャしてるのかって? バカこいてんじゃないわよ。
わたしの額にはもう何本もの青筋が浮かび上がっていた。
ナルシストの指先を絡め取り、きゅっと手を握りしめる。
青筋を立てた笑顔を向けながらグググッと力を込めて押し返す。
「ふふふ。どうかしら」
グググ、と押し戻された。
「いないなら、僕が立候補してもいいかい?」
グググッ
「あはは。丁重にお断りするわ」
グググッ
「なぜだい? 僕はこんなに美しいのに」
グググッ
「そんなに美しいからよ。私だけのモノになんて出来ないでしょう?」
にっこり笑って答えると、向かいのソファでその様子を見ていたモルモットが笑い声をあげた。
「はっはっはっ、なんと。これほど我が息子とアスカ殿の気が合うとは。さすが美男美女。お互いに惹かれ合う運命だったのですな。どうです、ぜひ我が息子と婚約でも……」
「お黙りモルモット」
キッとモルモットを睨んで言い放つ。
余計なこと言うんじゃないわよ。
あの後、なせが私はナルシストに気に入られた。
ナルシスト一番のお気に入りパーツはこの黒髪と黒目だ。
珍しいモノ大好きナルシストらしいといえば、らしい。
護衛任務としてついて来ているオスカーさんとテオは私たちの後ろに立ち、黙って様子を見守っていてくれているのだが、たまにカチャッと剣を握る音が聞こえる。
私の隣に立つミカンは顔を赤く染め、トキはヤマトを折れそうなほどに抱きしめて、渋い顔をしてナルシストを睨んでいた。
「父上! それはとてもよい案です。アスカならば、私にも劣らない美貌の持ち主。私と並び立っても見劣りしません。アスカ、さあ、そういうわけだから……」
「下がりなさい、ナルシスト。私があなたに見劣りしないですって? あなたが私に劣るわよ。もう少し自分を磨いてから出向いていらっしゃい」
なにがそういうわけだから、よ。
そんなことを言いつつ、私のあごにすっと手を伸ばして顔を近づけたナルシストの顔を両手で押し戻す。
「ああ、そんなことを言われたのは初めてだよ。君は僕に新たな世界を見せてくれる女性だ……」
キモくてドン引きである。
新たな世界ってなに。
いいから、メイドにご主人様って呼ばせてトリップしてなさい。
恍惚とした表情を浮かべるナルシストに引きつった顔を向けて、私はモルモットに本題を提示した。
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