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夜の帳に隠れる者

 ルドルフが去った後。


 ユリウスは一人、執務室で静かに笑みを浮かべていた。


 ライザーめ。予が気が付かないとでも思っているのか?


 丁度良いなどと言ってサワナの領主と共に朱鳥を城から出したが、わざとタイミングをずらして少人数で行動させた方が幾倍も仕事はやり易いのは明らかだ。


 なんせ護衛はたったの二人。


 サワナ領主の馬車に乗ったから手出しが出来ぬだと?


 そんな事は容易に想像が付くだろう。


 あれは、それを見越して同行させたに違いない。


 ライザーはあの猫を心底恐れていた。


 きっとこの命令に抵抗があるのだろう。


 ユリウスはあのルドルフとかいう男と立花朱鳥がシュテーゼン砂漠で揉めたという事も、焼け払われた集落での揉め事も耳に入れていた。


 そして出世欲が強い事も知っている。


 あの男なら躊躇いもなく任務を遂行してくれるだろう。


 窓から柔らかい月の光が降り注ぎ、薄らと笑みを浮かべたユリウスの身体を包み込んだ。








 ガラガラと車輪の音を響かせながら、馬車は夜道を走る。


 おから料理の公布が正式に発表され、男はいち早く近隣の町や村を訪れ商人達から多くの大豆を購入する事に成功していた。


 自分は、おから料理をこの国で一番最初に教わる事が出来た。


 あの娘さんは言った。


 どうか国民に広げて欲しいと。


 今はそれが自分に与えられた使命なのだと思える。


 あの「おから」の存在を知った時はどれほど驚愕し、愕然としたか。


 その事を知らなかった己を呪い、恨み、罵倒した。


 だが、あの娘さんは言ってくれた。


 誇れと。


 豆腐がなければおからは作れない。だから誇れと。


 今まで作って来た事も自慢すれば良いと、そう言ってくれた。


 どれほどあの言葉に救われただろうか。


 あの時の事を思い出して、薄っすらと男の目に涙が浮かんだ。


 あの後も娘さんはミズノ様やロウェル様と一緒に店を訪れては、私に料理を教えてくれたり、時にはキッシュというコックと一緒に今はどんな料理を作っているのか教えに来てくれた。


 私の日常の食事まで心配して大豆料理まで教えてくれた。


 なんと有難い事なのか。


 おから料理は各領地で無料で配布する事が決まったそうだ。


 さすがあの娘さんだと、男は馬に鞭を打ちながら涙を拭って笑う。


 ならば自分も頑張ろう。


 出来るだけ多くの人におから料理を広げる為に。


「しかし、だいぶ遅くなっちまったなあ」


 おからを提供する為にあちこちを回って大豆を手に入れたが、すっかり夜も更けてしまった。


 遠目に松明の明かりが見える。

 やっと関所に着いたか。


 男は関所前で馬車を止め、門番に挨拶をした。


「やあ。これはこれは皆さん、お疲れ様です」


 被っていた帽子を外し、そう声を掛ける。


「ああ。豆腐屋の爺さんじゃないか。随分と帰りが遅かったな。夜に外を歩くと野党や盗賊に狙われるぞ、気をつけろよ」


「ええ。急いで戻って来たんですが、すっかり遅くなっちまって。御心配下さり、有難う御座います」


 ぺこりと頭を下げて豆腐屋の爺は再び馬車を走らせた。


 人っこ一人いない城下町を真っすぐに走り抜け、店の前に到着すると馬車から降りた。


 あとはこの荷物を店の中に運ばなきゃならんな。


 荷台の幌を外し、荷物に手を伸ばした時だった。


「……だ……で」


 どこかで話声が聞こえた。


 爺は手を止め、辺りを見回した。


 誰もいない。


 しん、と静まった夜の城下町は人など歩かない。


 爺は首を傾げ、再び荷物に手を伸ばす。



「サワナ……」



 サワナ?


 今度ははっきりと聞こえた。


 爺は馬車を離れ、声が聞こえた方に向かって歩み寄った。


 確かこの辺りから聞こえたような……


 ふと、脇道の陰に黒い人影を捉えた。


 時間は既に深夜を回っている。


 こんな夜更けに外を出歩く人間がいるとは奇妙な事だと爺は思った。


 しかも誰かと話しているような感じだ。


 爺はゆっくりと人影に近づいた。


「そうだ。あと4、5日もすればサワナに到着するだろう。出て行ったのは公布の翌日だったからな」


「今から出て間に合うかあ?」


 建物に隠れて姿は見えないが、だいぶ話し方が違う。


 一人は身分のありそうな人間だ。


「相手は馬車だ。馬を走らせれば、間に合うだろう。いいか、忘れるな。殺すのは女と、女が飼っている黒い猫だ。決して間違えるな」



 ———殺す?


 突然聞こえた物騒な言葉に思わず息が止まり、

 ごくりと喉が鳴る。



「間違えるなって言うけどよ。女なんざ五万といるだろ。サワナなんかに行っっちまったら、見分けがつかねえぜ、騎士様よ」



 騎士様?

 相手は騎士なのか?


 なぜこんな場所にいるのだ。


 爺は恐れながらも相手の顔を見ようと、ゆっくりと静かに動いた。


 家屋の角からそっと覗いて見れば、汚れてぼろぼろになった衣服を纏い、筋肉隆々の男の背中が見えた。


 ユーラに残っている人間は少数だ。商売を営む爺にとって、知らない顔などない。


 だが見えた背中はその誰とも違っていた。 



 あれは、野盗?

 なぜ城下町に野盗がいるのだ。

 どうやってこの中に入ったのだ。



 首都であるユーラには関所がある。野盗など入れるはずもないのにと、爺は混乱した。



「ああ、それなら問題ない。

 女は黒髪に黒い瞳をしている17、8くらいの娘だ。あのような容姿は他にいないだろう。すぐに分かるはずだ」


「黒髪に黒い目ねえ。まあ、それなら判り易いな」


「成功したら報酬は弾んでやる。急げ。必ず殺すんだ。いいな」


「はいはい。ちなみにその女の名前は?」


「女の名は———」




 爺はがくがくと震えだす身体で必死に口を押えた。


 ガチガチと歯が鳴ってしまいそうになるのを震える手で必死に抑えて堪える。


 間もなくして、男達はその場から姿を消した。



 立花朱鳥(たちばなあすか)__



 それは、彼が最も恩義を感じている娘の名前だった。


「なんてことだ……」


 誰かに知らせなければ。

 早く、誰かに知らせなければ……!















この作品をご愛好下さり、ここまで読み進めて下さる読者の皆様。ありがとうございます。


この先の更新を楽しみにしてるよ!


という方がいましたら、ぜひブクマをして評価で称えて下さると作者のモチベに繋がり、更新速度が上がる事間違いないので、ぜひ宜しくお願いします。

( ̄∇ ̄*)ゞ

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― 新着の感想 ―
[一言] はわ〜ルドルフさん本気だ。 お爺さん見つかって斬られるかと思ってドキドキしました
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