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もう一人の差し金

 深夜遅く。


 城の者はほとんどの者が既に就寝している時間だ。


 本来ならば、このような時間に訪れるべきではない。


 しかし、言伝を頼まれた者からは、確かにこの時間に来るようにと言われた。


 本当に大丈夫なのだろうか。


 不安に駆られながらも彼は扉をノックした。

 コンコンと軽い音が響く。


「入れ」


 中から聞こえた短い返答。


 聞き間違える筈がない、この声。


 ガチャリとノブを回して扉を開くと、部屋の中には男が一人待っていた。


 柔らかく波打つ金髪に端正な顔立ち。


 ユリウス・アイゼン・ブラックウェル。

 この国の御当主様が。


「失礼致します」


 そう言って、そっと扉を閉じる。


 妙だと直ぐに感じ取る。


 あの男はどこにいる。


 いつも御当主様と一緒にいる、あのライザーとかいう男は。


「お呼びになられましたでしょうか」


 視線だけで部屋を見渡すが、やはりいない。


 御当主様お一人か?

 なぜ。


「ああ。其方に大事な用があってな。公には出来ぬ話ゆえ、こんな時間に呼んだのだ。許せ」


「いえ、謝られる必要など御座いません。して、用件とは何でしょうか」


 公には出来ぬ?

 それは、ライザーにも隠したいという事か?


「そう焦るな。まずはそこに腰掛けよ」


 正面の椅子を視線だけで勧められ、彼はそれに応じた。


「立花朱鳥の事は其方もよく知っておろう? 砂漠まで迎えに行った騎士団員なのだからな」


「はっ、勿論で御座います」


「あの立花朱鳥がいつも連れ歩いている猫の事なのだ」


 猫? ピクリと男の眉が動く。


 砂漠に迎えに行った時からあの女の傍にいた、あの黒猫の事か?


「あの黒猫の事でしょうか」


「そうだ。あの猫を殺して欲しい」


 猫を殺す?


 一体なんの話をしているのだ、御当主様は。


「あの猫を、でしょうか。

 しかし……確か立花朱鳥殿はサワナ領へ向かわれたのでは? 我が隊の隊長と部下も護衛で付いて行ったと記憶しているのですが」


「そうだ。城にいたままでは皆の目もあるゆえ、容易には殺せぬだろう。それ故に外に出した。その後の事をお前に頼みたいのだ」


「は……」


 猫を追って殺せばいいのか?

 なんの為に?


「理由を伺っても宜しいでしょうか」


「理由を聞く必要があるか? これは命令だぞ、ルドルフ」


 命令……御当主様の命令は絶対である。


 それなら疑問を挟む余地もなく、必ず殺せという事だ。


 しかし、どうにも腑に落ちない。


「質問をお許し下さい。その……ライザー殿には頼まれないので?」


 猫を殺す事など容易い筈ではないか。


 なぜわざわざ自分をこんな夜更けに呼んで頼むのだ。


「ライザーにも既に頼んでいる。

 だが、なかなか上手く運ばないようだからな。

 保険だよ。ライザーも上手くやるだろうが、早いに越した事はない。其方は其方で最善を尽くせば良い」


 ライザーも同じ事を頼まれている……


 しかし上手くいっていない。

 だから私が呼ばれた。


 それは、ライザーよりも私を頼みの綱にしたという事だろう。


 あの男、いつも偉そうにしておるくせに、情けない奴だ。


 ルドルフは薄らと口に笑みを浮かべた。


「私めにお任せ下さい。迅速にその任務全うしてご覧に入れましょう」


「頼んだぞ」


「御意」


 短い会話の後、ルドルフは執務室を後にした。


「猫か……」


 御当主様がなぜあの猫を殺したがるのかは分からないが、猫がいるならばあの女もいる。


 何度も自分に恥辱を味合わせたあの女。


 思い出すだけでも腹わたが煮えくり返りそうだ。


 今でも何度も思い出す、あの忌々しい台詞!


『ルドルフ。あなた、本当に失礼で愚かで情けなくて、器の小さいクソみたいな男ね!』


 おんな事を言われたのは初めてだった。


 忌々しい女め。


 巫女だのと祭り上げられているが、結局未だに承認もされていないただの小娘だ。


 それならば……猫と一緒に始末しても構わないのではないか?


 すっと、ルドルフの心に闇が舞い降りた。


 そうだ。なんと言う僥倖!


 娘は外に出た。猫も一緒にいる。


 どさくさに紛れて一緒に殺してしまえば良いではないか。 


 あんな娘が巫女なものか!


 きっと嘘を語っているに違いない。


 おから料理の権利? 課税だと?


 とんだ守銭奴だ。


 私が考えた通り、奴隷上がりに違いない。


 あんな娘が偉そうに巫女を気取るなど、許せるものか。


 ルドルフはその目にギラつく光を宿し、娘の姿を思い描き睨みつけた。


 殺してやる。

 これは、神々が私に与えた機会なのだ。


 早く手筈を整えなければ。

 あのライザーより先に必ず殺さなければならない。


 ルドルフは頭の中で算段を整え、足早にその場を立ち去った。


楽しんで頂けたでしょうか。

ちょっと面白い。先が気になるという方はぜひブクマお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] えっ!?  さらにそういう展開!? そういえばいたなぁ、こんな人。
[一言] ここへ来てルドルフ再登場。 ライザーとルドルフ、同じジャンルの人間かと思いきや、おから審査会と時間稼ぎの奔走で株を上げたライザーさん。言ってることは正論だったから悪い人ではないと思っていまし…
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