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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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【スクリュードライバー?】(1)

「なぁに、【スクリュードライバー】なら、氷を詰めて『ウォッタ』と『オレンジジュース』を混ぜるだけだ。誰でも出来るだろ」



 結局、俺はイソトマの提案に乗ることにしたのだった。

 あまり悩んで待たせてしまうのは良くないし、強硬に断っても場の雰囲気が悪くなる。

 それならばいっそ、経験と思ってやらせてみるのも、悪くはない。


 最初にお客さんに優しくされるというのは、後になっても忘れないものだ。

 この時でないと出来ない『失敗経験』も、後にネタになることだし。



「それじゃサリー。まずは──」

「おっとマスター。ちょっと良いか?」

「はい?」


 サリーに一連の流れを説明しようとしたところ、イソトマが待ったをかけた。


「せっかくだから、マスターは一切アドバイスしないってのはどうだ?」

「ほ、本気ですか?」


 俺は「本気ですか?」と尋ねたが、本音を言えばこうだ。

 正気ですか。

 だが、イソトマは既に少し酔いが回っているようで、がははと豪快に笑う。


「おうよ。その方が、面白そうだろ?」

「……まぁ、イソトマさんのご注文でしたら、仕方ないですが」


 既にイソトマの頭が『ポーション酔い』に支配されているのは分かった。

 俺が口出しをするのは、場を白けさせる効果しかないだろう。

 諦めて、俺はうずうずとしているサリーに向かって言った。


「サリー。道具だけは教えるから。好きにやってみな」

「分かりましたわ!」


 ウキウキと目を輝かせるサリーに、俺は道具とその使い方だけを教えてやる。

 そして材料まで出してやると、サリーは俺と、そしてイソトマに頷く。


 ちらりと周囲に目を向ければ、幾人もが、また何か面白いことをやっている、という目でこちらを見ていた。

 相変わらず、見世物小屋扱いされることに定評のある店だよ。ほんと。



「それでは、作らせて頂きますわ。材料は『ウォッタポーション』と『オレンジジュース』でしたわね?」

「そうだぜ! とびっきりのを頼む!」

「任せてくださいな!」



 どこからそんな自信が湧いてくるのか。

 イソトマの声にサリーは頷き、一つ大きく深呼吸した。

 そして、俺のいつもの作業を真似るように、まずはグラスを手に取った。


 のだが、



 彼女は思い切り、細長いグラスの『ふち』を持った。

 そしてそのまま、それを作業台へと置くのである。



 なんてことをするんだ!

 という俺の心の悲鳴は、呑み込んでいるので当然届く事はない。

 当たり前だが、グラスの縁は直接お客様の口に触れる部分である。手で触れないのは勿論のこと、何もなくとも乾いた清潔な布で軽く埃を払うのは当然だ。


 そんな俺の驚愕を置いておいて、サリーはさらに作業を進める。

 次はグラスに氷を敷き詰める番だ。

 サリーは意気揚々と、アイストングを握りしめる。


 グーで。


 馬鹿野郎か! それじゃあトングをひらけないだろうが!


 正しい持ち方を教えてはいないが、これではまるで初めて道具を持った子供だ。

 案の定、サリーはトングで氷を掴むことができない。氷の大きさまで、口を開けられないのだから当たり前だ。

 その状態で、しばらく悩んでいたかと思うと、


 あろうことか、手で氷を掴んだ。


「ばっ──」


 思わず叫びかけて、慌てて口を押さえた。

 サリーは少しだけばつが悪そうな顔で俺を見たが、固い笑顔で誤摩化し、作業に戻った。


 ……まぁ、これでグラスに氷は満たされた。

 そこから残る作業は二つ。

 材料を入れることと、混ぜること。


 サリーはまず『計る道具』とだけ教えたメジャーカップを手に持つ。


 メジャーカップは、円錐の頂点同士を繋げたような計量器具だ。

 画像のイメージとしては、砂時計をシャープにした感じだろうか。

 通常はその中央を、人差し指、中指、薬指の三本で持つのだが、


 サリーはその器具を、親指と人差し指で持った。


 ……もう何も言うまい。

 スマートさの欠片もないが、教えてないのだから仕方ない。

 最悪、分量が計れれば良いのだから、これ以上の失敗はあるまい。

 厳密な計り方は色々あるがそれは──



 ──ちょっと待て。



 俺がこれから先、いったい何を教えていくべきか迷っている最中。

 サリーはその右手にメジャーカップを持ち、


 その左手にオレンジジュースのボトルを持っていた。

 メジャーカップで、なぜかオレンジジュースの方を計ろうとしていたのだ。



「さ、サリー!」

「は、話しかけないでください! い、いま集中しているところなんですの!」



 口出し無用との指定を忘れて俺が声をかけるが、サリーはそれ以上にテンパった様子で叫び返した。

 も、もしかしてこいつ、実はめちゃくちゃ緊張しているのか?


 サリーはプルプルと震える指で、あろうことか『オレンジジュースを』45ml(正確には45mlではないが、今は良い)計り、グラスに注いだ。


 そこでふぅ、と一息を吐いて、

 そのグラスに『ウォッタポーション』をなみなみと注ぎ入れた。


 比重の関係で底の方がオレンジ色、上になるほど透明という、ある意味見事なグラデーションを描いていた。


 あえて説明するまでもないと思うが、

【スクリュードライバー】はウォッカ『を』オレンジジュース『で』割るカクテルだ。

 決して、ウォッカ『で』オレンジジュース『を』割るカクテルではない。


 俺は思わず、イソトマの表情を見る。

 彼はあんぐりと口を開けて、その作業の様子に血の気を引かせていた。

 そんな彼と、目が合った。

 たぶん、俺もおんなじような顔をしていることだろう。


「あ、あとは混ぜるだけですわね」


 まだ緊張した声の震えを保ちながら、サリーはバースプーンを手に取る。


 バースプーンとは、通常のスプーンよりも細長い、バー特有の器具だ。

 その先端には小さなスプーン、もう一方の先端にはフォークが付けられている。

 スプーン側はそのまま、かき混ぜたり、液体を掬ったり、液体を計ったりと色々な用途で使われる。

 フォーク側は、果実を潰すのに利用したり、少し邪道だがスプーンでは入りにくい氷の隙間を通して、液体をかき混ぜるのに使ったりする。


 さて、当然のごとくサリーはバースプーンの中央を握りしめる。

 持ちにくいと言いたげな顔をしながら、ガチャガチャと乱暴に液体をかき混ぜる。


 ……あー。ちょいちょい零れてるけど、もうどうでも良い事かな、これは。

 中の氷と液体が喧嘩しているけど、これももう、割とどうでも良いかなー。


 俺が諦観の気持ちでぼんやりと見つめている中、ついにそれは完成した様子だった。


「で、できましたわ! えっと【スクリュードライバー】でしたっけ? どうぞ!」


 本当にある程度だけ混ざった、オレンジジュースのウォッタポーション割りを差し出され、イソトマは苦い笑みを浮かべていた。


「お、おう、いただくぜ」

「はい、召し上がってください」


 すさまじく渋々とそのグラスを受け取ったイソトマ。

 彼はグラスを口に近づけた段階で軽く躊躇する。

 しかし、


 彼の目の前には、期待に染まったサリーの目がキラキラと輝いている。


 イソトマは意を決して、目を瞑ってからその液体を口に含んだ。

 彼の喉が、一瞬「うっ」と呻くように動いたのを、俺は決して見逃さない。

 少し時間が経ち、彼の喉が、口に含んだ液体をごくりと嚥下した。


「ま、まぁ、初めてにしちゃ、上出来なんじゃねえ……か?」

「本当ですの!?」

「……あ、まぁ、初めてにしちゃ」


 さて、その段階になって、俺はようやく動くことにした。

 口出し無用という約束だったが、サリーが作り、イソトマが飲んだ。

 この時点で、それは達成したと言っても良かろう。


「サリー。ちょっと良いか」

「あら、なんでしょうか?」


 俺が声をかけると、サリーは自信満々といった表情で、俺を見てくる。

 恨むぞイソトマさん。頼むから、勘違いだけはさせないでやってくれよ。

 それは優しさじゃなくて、甘さって言うんだ。


「……そろそろ、一度休憩に入れ。お前にも、この【スクリュードライバー】を作ってやる。カウンターの端に座って待ってろ」

「あら、良いんですの。実は私も、自分の作ったものがどんなものか、気になってましたの」

「あぁ、楽しみにしてな」


 言ってやると、サリーは「分かりましたわ」と答え、意気揚々とカウンターの内側から外へと向かっていった。

 指定したのは、俺の居る入り口側とは反対のほうの端だ。

 そこなら、俺の声は聞こえないだろう。

 フィルにも声をかけてやり、二人揃って外に出たのを確認したあと。

 俺はまず、イソトマに言った。


「止めなかった自分に全ての責任があります。申し訳ございません」

「……いや。悪いのは俺だ」


 イソトマは低い声で答えた。ついでに、酒は一向に進んでいない。

 彼の隣に座っている連れは、【ジン・トニック】をすでに半分近く飲んでいるのにだ。


 さてと。まずは、尻拭いからだろうか。


「イソトマさん。宜しければそのグラスを、一旦こちらでお預かりしても?」

「おう? それは、構わねえけど、捨てるのは……」

「いえいえ、そんな勿体無いことはしませんよ」


 俺がにこやかに答えると、イソトマは抵抗せずにグラスをこちらに寄越した。

 断りを入れてから、軽くバースプーンで味を見る。


 無造作に鼻に入り込んでくる『ウォッカ』的アルコール臭。

 口当たりが少しオレンジな以外は、やたらと攻撃的な刺激。

 混ざり合わずに、つぶつぶになって飛んでくる甘さと度数。

 後味は『ウォッカ』の中に、強引にオレンジが割り込んでくる感じだろうか。


 一言でいえば、不味い。


 俺は少し考え、そしてイソトマに尋ねた。



「イソトマさん。この不味い一杯を、飲める二杯にするのは問題ないでしょうか?」



 俺の提案に、イソトマは勢い良く顔を上げた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


諸事情で無理だと思ったのですが、思いの他早く切り上げられたので、遅れて更新させていただきます。

ギリギリ、毎日更新の範疇だと信じております。

推敲が足りていないと思われます。荒い文章で申し訳ありません。


※補足ですが、ちゃんと作れば作中の分量でも、そこまで不味くはなりません。

 ただ【スクリュードライバー】ではなくなるだけです。

※0920 誤字修正しました。

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