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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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サリーの意外性

 イソトマが来てから、店は少しずつ賑わい始めた。


 食堂のほうはボチボチと席が埋まり、俺はテーブルに飲み物が行き渡るまで忙しく作業していた。

 作業中であっても、カウンターに座ってくれるお客さんの対応も決して忘れない。

 そんな中で、常連さん──特に昨日も顔を出してくれていた人に対しては、あえて兄妹を分けてあてがってみた。


 言い換えれば、意識的に二人を引き離してみたということでもある。

 兄妹仲が良いのは悪いことではないが、あまり内々で固まってしまうのは良くない。

 さりげなくだが、蛇口に近いスイ側にフィルを、そして作業台のある俺側にサリーを置いてみた。


 今はあらかたの作業を終え、ようやく落ち着いたところだ。

 さて、二人の様子はどうだろうか。


 俺はまず、若い女性客二人と会話をしているフィルに目をやってみた。



「ねぇ、フィル君。私達、どっちが綺麗?」

「ねね、正直に言ってくれていいから」


 二十代くらいの綺麗なお姉さん二人が、いささか答えにくい質問を飛ばしていた。

 少し酔っぱらってくると、こういうことを言ってくる二人組である。

 俺の場合は、いつも双方を適度に褒めて流すところだが、フィルはどうだろう。

 銀髪の美少年は、それに困った顔で答えるのだ。


「そ、そんな、僕には選べませんよ。お二人ともとっても綺麗で、その、どっちの方が綺麗なんて、僕には、その……でも、選ばないと、ダメなんですか?」

「「可愛ぃぃいい!」」


 そんな誠実かつ控えめな答えに、女性二人が声を合わせていた。

 フィルはなおも困ったような苦笑いを浮かべているのだが、それが尚更に、お姉様方の琴線に触れているようだ。


「もう! そんな正直に言うところが可愛い! マスターとは大違い!」

「そうそう。あの人、適当に褒めるだけ褒めて、答えを言わないではぐらかすんだから」

「あ、あはは」


 女性二人のそんな言葉に押されて、フィルはさらに困った顔でいる。

 だが、その状態からも、どんどんと二人の会話は進む。


「この前もマスターったら『そうですね、ではまずお二人の髪の毛が、それぞれどう素晴らしいか説明させてください』とか言って……」

「それで当たり前のように『カクテル』で例え出して……」

「気付いたら、一杯飲まされてるのよね!」


 どうやらフィルは、女性同士の会話の勢いから弾き出されてしまった様子だ。

 困ったように、笑いながらただそこに棒立ちになってしまっている。


 そんなフィルをフォローするように、スイがさりげなく口を挟んだ。


「本当。総は突っ込まれるとスルリと逃げるんですよね。ズルいことに」

「「そうそう!」」

「その点、このフィル君はなんでも真剣に答えてくれますよ。ただ、まだ慣れてないから、あんまり弄りすぎないで下さいね」

「え、す、スイさん!?」


 その言葉のあと、女性二人の視線は再びフィルへと向いた。

 フィルは更に困った顔をしつつも、自分から質問を投げ掛けたりと、会話するために頑張っている様子だった。


 ……俺が一方的に悪者になっている気がするが、問題ないか。

 燃料を入れてからのフィルは、控えめながらによくやっている。

 中々に気がつくし、天然なのか相手を喜ばせるようなことも割と言う。

 酒(という名のポーション)に関しても『許容量』と『ペース』あたりが身に付けば、燃料の補給も含めて教えてあげると良いだろう。

 順当に育ってくれれば、問題はなさそうだ。




 フィルに関してはそういった結論を下しつつ、俺はそっと、近くの妹の方へ視線を戻した。



「でなぁ! この前なんか、地面にスライムが埋まってやがってよ」

「そうそう! 小さい奴だったから良かったですけど、あわや『集団魔力欠乏症』になるところでしたね」

「そ、そんなことがあるんですの!?」


 イソトマと、遅れて来た彼の同僚。共に三十から四十程度の元気のいい中年だ。

 その二人の話を、目を輝かせながら熱心に聞いているサリーの姿があった。


「そうだぜ? なんせこの辺りは気候も穏やかだし、魔力も豊富だからな」

「たまに、地面に埋まってる魔石なんかに取り付いて、自然発生したりするんですよ」

「そ、そうなのですね。知りませんでした」


 驚いたことに、サリーは素直に人の話を聞く事ができる少女だった。


 俺の中のイメージでは、彼女はどちらかと言えば喋りたがりに見えた。

 基本的に、会話というものは『喋っている人間』の方が楽しい。

 もちろん聞く方が好きという人も居るだろうが、あくまで一般的な話だ。


 そしてサリーは、言っちゃ悪いが、我がままだ。

 そういう人間は、得てして人の話を聞かずに、一方的に喋ったりする事が多い。


 だが、そんな俺の予想に反して、サリーはイソトマ達の話を聞いているのだ。

 記憶喪失ゆえか色々な知識が欠落しており、イソトマが話す何でも無いようなことにも、少し大袈裟に反応してみせている。

 そうやって楽しそうに話を聞かれると、話している方も悪い気はしないものだ。

 結果的に、俺がそれほどフォローすることもなく、彼女は和気あいあいと会話を弾ませているのである。


「なぁマスター! この子、会った当初のあんたみてえだな」


 俺が見ている事に気付いたのか、イソトマは笑いながら俺へと声をかけた。


「……え、僕ですか?」

「ああ。この世界のことを全然知らなかったから、いちいち教えるのが楽しかったよ」


 言われて、俺はこの中年男性から、色々な知識を得たことを思い出した。


「はい。その節はいろいろと、くだらないことを教えて頂いて、ありがとうございます」

「何がくだらないことだ、このやろ」

「イソトマさんから教わったこと、生活には関係ないことばかりじゃないですか」

「それは否定しねぇな」


 がはは、とイソトマが笑い、俺も自分の軽い冗談を笑って流す。

 ついでに、彼から教わったことは確かに日常生活では役に立たないことばかりだ。

 だが、この世界を知るのには大いに役立った。

 俺のこの世界の知識の大部分は、この場でお客さんに教えて貰ったといっても過言ではない。


「ま、このお嬢ちゃんも、俺らみたいなオッサンの話をいちいち面白がってくれるからよ。意外と可愛いところも、あるんじゃねぇか」


 そんな彼の言葉にも、きっと俺と同じような驚きが含まれていることは分かった。

 イソトマは当然、昨日のサリーを見ている。彼女の生意気な性格も知っている。

 そんな彼女のイメージからすると、今日のサリーは思っていたのと大分違うだろう。


 イソトマから目を離して、俺はサリーへと目を向けた。

 すると彼女は、俺の様子を窺うようにこちらに目線を合わせる。

 俺が逸らさずに見つめ続けると、その瞳が、わずかだけ不安そうに揺れた。


「な、なんですの? 言われた通りにやっている筈です」

「いや、別に怒ってるわけじゃない」

「じゃ、じゃあなんですか?」


 俺は表情を柔らかく崩して、少しだけ茶化すように言った。


「思ってたより、やるじゃん。その調子でいけば、すぐカクテルの事も教えてやれるかもな」


 言ったあと、俺はまた彼女の様子を窺ってみる。

 彼女は最初、俺から褒められたというのが理解できていないようだった。

 だが、次第に意味が染み込んで来たようで、バッと表情を輝かせて言った。


「ほ、本当!?」

「敬語。減点一」

「あんまりですわ!」


 あんまりなのはそっちだ。褒めた直後にマイナスを稼ぎやがって。

 俺が意地悪をしたみたいになって、サリーが少しだけ凹んでいた。


「まぁまぁマスター。まだ初日だろ?」

「そうですよマスターさん。あんまり厳しくしてやんなさんなって」


 そんな少女を見かねたのか、二人の中年が揃って俺をなだめに入った。

 昨日も思ったんだが、この年代の男共は、なんかサリーに甘くないか? 気のせい?


 まぁいいか。

 俺は会話が途切れたタイミングとみて、尋ねた。


「それで、お二人は、お次どう致します?」


 会話に夢中になっていた二人だ。手元のグラスは空になって少し時間が経っていた。

 帰るにも良い頃合いだが、先程の盛り上がりを見るに、もう少しだけ飲んでいくだろう。

 その思惑通りに、イソトマの連れがまず注文した。


「そうですね。それでは私は……【ジン・トニック】で」

「かしこまりました。イソトマさんは?」


 丁寧に注文を受けたあとに、俺はイソトマへと目を向ける。

 だが、彼は何か悪戯を思いついた子供の顔をしていた。

 そんな彼の視線が、一瞬、サリーに向いた。

 そして、表情を変えないまま、イソトマは俺に尋ねる。


「なぁ、マスター。さっきの話しぶりからすると、サリー嬢ちゃんはまだ、カクテルを作ったことがないんだろ?」

「……まぁ、そうですね」

「じゃあ、変な注文しても良いか?」


 嫌な予感がした。

 いや、それはもはや確信に近かった。



「せっかくだ。経験のためにも、このお嬢ちゃんに【スクリュードライバー】を作って貰っていいか?」



 俺は、あー、と頭を抱えたくなる思いで、悩む。


「本気ですか?」

「ダメか? 今はちょうど手が空いてるみたいだし、お嬢ちゃんも作ってみたいだろ?」


 そう、イソトマが話を振ると、


「つ、作りたいです!」


 今度は敬語を忘れなかったサリーが、目をキラキラと輝かせながら主張していた。



 言いたいことは、山ほどあるのだが、

 お客さんの要望を断る理由が、はっきりと存在していないのもまた事実だった。


 あー。どうすっかなぁ。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


申し訳ありません。

明日も諸事情で更新できない恐れがあります。

なんとかなったら予約を入れるつもりですが、今も少し間に合っておりませんので……

二十二時丁度に更新がなかったら察していただけると幸いです。


その場合でも、書き溜めのある『カクテルマジック』の方は更新されますので、

もの凄くお暇でしたら覗いていただけると幸いです。


露骨な宣伝している暇に書きます。すみません。頑張ります。


※0917 少しあとがき書き直しました。

※0918 誤字修正しました。

※0919 誤字修正しました。

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