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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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85/505

犯人の影

 俺たちの発表が終わり、三十分程度の審査時間が入った。

 その間、俺とスイ、そしてライと戻ってきたベルガモが『スイのポーション屋』の控え室に待機していた。


「それで、ベルガモはどこに行ってたんだ?」

「それがさ、あの騎士様に連れられて、領主様の別荘まで走ったんだよ」

「……やっぱりそうなのか」


 俺は、セラロイから渡された『パルフェタムール』の瓶を見た。

 ヴィオラから聞いた噂だ。

『この街の領主は『スミレのポーション』を楽しんでいる』

 それを考えれば、領主の家でそのポーションを見つけ出すというのは、有り得そうな話だった。


「しかし、良く手に入ったな?」

「ああ。俺たちが屋敷に付いたら騎士様が入っていってさ、すぐにあの領主の娘さんが出てきたんだよ。『今から父の部屋に案内します』ってさ」

「それで?」

「そんで『スミレの香りがする筈だから、どこにあるのか見つけ出して欲しい』ってさ。で、本棚から香りがするもんだからちょっと探ったら仕掛けがあって、裏に大量に入ってたんだ」


 どうやら、このポーションは領主から無許可でくすねてきたものだったらしい。


「で、娘さん曰く『ヴィオラが足止めをしている間に会場に直接乗り込む』ってんで、俺はそれに付き添っただけだ」

「だからヴィオラが居ないのか」

「屋敷でなんとか誤摩化してるんじゃないのか?」


 それは不憫に、と思いつつ俺はまず、ベルガモに礼を言うことにした。


「ベルガモ。ありがとう。お前がいなかったら、さっきのような評価は貰えなかった」

「気にしないでくれよ! むしろ少しでも恩返しができたんなら嬉しいぜ!」


 ベルガモの嬉々とした表情に、俺も少しだけ嬉しくなった。

 この場に、ヴィオラとベルガモの二人が居なかったら、この状況は切り抜けられなかったはずだ。

 そして、それを思うと、必然的にもう一つの懸念事項が浮かんでくる。


「……『コアントロー』を盗んだ犯人は、いったい誰なんだろうな」


 俺が言うと、場の空気が少しだけ固まったのが分かった。

 スイは言わずもがな、ライも恐らくギヌラを疑っている。

 だが、ベルガモだけが、少し違う表情を浮かべた。


「ベルガモ?」

「……そうなんだよ。俺、一つだけ思い出したことがあるんだ」

「思い出した?」


 その言葉の意味を尋ねると、ベルガモは険しい表情を浮かべる。


「この部屋に漂っている匂い。さっき色々な人間の匂いがあるから犯人は特定できないって言っただろ?」

「だからコアントローの匂いを探ってた、って言ってたな」

「でも、明らかに一つ異質な香りがあるんだ。そして、俺はその香りの主を思い出した」


 ベルガモは、すっと表情を暗くして、その答えを述べた。


「俺に、総の店を紹介した女。あの女の匂いが、何故かこの部屋に残っている」


 その言葉が何を指すのか、不意に思う。

 ベルガモをそそのかした謎の女。

 そいつが、この件に関わっている可能性があるってことなのか。



「お、おい。居るか?」



 そのとき、怯えるような声とともにノックの音がした。

 誰かは分かる。ギヌラの声だ。

 俺は、なんとなく嫌な気持ちになりながらも、ドアを少しだけ開けた。


「なんのようだ?」

「う、疑いを晴らしに来たんだ! ぼ、僕は何もやってない! だから!」

「……なんでそんなに焦ってるんだ」


 ギヌラがえらくきょどっているので不審に思う。

 しかし、その理由はすぐに分かった。

 ギヌラは、ビクビクと怯えながら一つのボトルを差し出した。


「こ、これをお前達に返せって言われたんだ! ぼ、僕は本当に知らないんだぞ!」


 その差し出された手。

 そこには『コアントロー』のボトルが握られていた。


「やっぱりあなたが犯人っ!?」


 直後、恐ろしい怒気を発しながら、スイが呪文を唱えようとする。


「スイ! 落ち着け! まずは話を聞こう!」


 俺はそんなスイをなんとか抑えて、仕方なくギヌラを招き入れた。



「それで、誰に言われてきたんだ?」

「……分からない」

「あんた舐めてんの!?」


 ようやく話が始まったところだが、ギヌラの返答にライが噛み付く。

 しかしギヌラは焦燥した様子で言った。


「本当に分からないんだ! 僕はあの女が何者なのか知らない!」

「あの女?」

「そうだ。白い髪の毛の、恐ろしく美人な女だ。そいつがさっき、僕にそれを渡して言ったんだよ、『返しておいてくれ』って」


 白い髪の女。その単語は、今は聞き逃す訳にはいかなくなっている。

 ただの偶然と切り捨てることもできるが、先程のベルガモの話と繋げて考えるのは、短絡的すぎるだろうか?


「そいつとは、知り合いなのか?」

「と、とんでもない! 会ったのは今日で二度目だ!」

「二度目? 一度目はいつなんだ?」

「…………」


 嫌みはペラペラと喋る口を黙らせるギヌラ。

 だが、覚悟を決めたように、彼はゆっくりとそれを話し出した。


「予選会が終わって僕の『ポーション』が通ったと連絡があったすぐ後。その女は僕の前に現れた。そして君達もまた予選会を通過したと伝えてきた」

「……それで?」

「その後に、言ったんだ。『君はまた『カクテル』に負けるかもしれない。私が勝たせてやろうか?』って」


 それは、どうにもこの件と繋がっている気がしてならない発言だった。

 それを聞いたライが、再び激昂してギヌラに掴み掛かる。


「それであんたはその提案に乗ったってわけ!? 合鍵を作ってその女に渡したの!?」

「し、してない! 僕はそのとき断ったんだ!」


 ギヌラは懸命に首を振りながら返した。

 その時を思い出すように、冷や汗をかきながら答える。


「僕は、その女が怖かった。その誘いに乗ったら魂でも取られるんじゃないかと思ったくらいだ。それに、僕は自分の『ポーション』には自信がある。そんなことをしなくても君達ごときに負けるつもりはない」

「私達もあんたごときに負けるつもりはないけどね!」

「とにかくだ!」


 ライの言い返しを大声で遮りながら、ギヌラが言った。


「それで終わりにしても良かったけど、そのまま何かがあったら気分が悪い。だから親切にお前達に教えてやろうと、僕は店に向かったんだ」

「まさか、あの時……?」

「そうだよ! それなのにユウギリ、君が追い返したんだ!」


 俺の記憶の中で、ギヌラと不自然に出会ったときのことが思い起こされる。

 彼はそのとき、何故か『自分は何もやってない』と言いながら消えていった。

 どうでも良い事と処理してしまっていた。あの時、もっと気をつけるべきだったのか。


「は、話は分かっただろ!? 僕は何もやってない! 潔白だ!」


 そして、時間は今日へと戻ってくる。


「総、信じるの?」

「…………」


 スイに尋ねられて、俺は少し思う。

 ギヌラの言い分には、矛盾したところは特にない。

 そして先程の話は、ギヌラの反応とも合致している。

 となると。


「ベルガモ。この部屋に、ギヌラの匂いは残っていたか?」

「残ってなかった。その男は、さっき初めてこの部屋に入ったと思うぜ」

「……そうか」


 ギヌラへと視線を戻す。

 彼は、なおも変わらずにビクビクと震えている様子だった。

 俺は少しだけ頭を下げて、言った。


「悪かった、いくらお前が出禁になったクソ野郎でも、証拠も無く疑ってすまない」

「本当だよっ! これだからお前ら貧乏人は心が狭くて嫌なんだよ!」

「…………」


 こちらが下手に出た途端、調子に乗る輩だな。

 この一ヶ月で『ポーション』の修行はできたが、人格の矯正までは出来なかったか。


「とにかく、僕はもう関係ないからな。精々、僕のポーションが最優秀賞を取るのを、指をくわえて見ているといい」


 そう捨て台詞を残し、ギヌラは俺たちに背を向けて部屋を出ようとした。

 それによって、初めて背中が見える。

 そこに、手紙がくっついているのが分かった。


「ギヌラ。ちょっと待ってくれ」

「な、なんだよ?」

「いや、そのまま帰ったらかっこ悪いぞ」


 言いながら俺は手紙をはがす。

 それは簡素な作りのメッセージカードだった。

 皆に見えるように中央に持ってきたそれには、綺麗な文字でこう書かれていた。


『これからの活躍にも期待しているよ』


 それが犯人の言葉と思うと、少し苛立った。

 なんの目的があるんだ。まさか愉快犯か何かなのだろうか。

 そんな思いに、同意を求めて視線を上げる。


 だが、俺以外の全員は、困惑の表情を浮かべているのだった。


「みんな、どうしたんだ?」

「総、それ、なんて書いてあるの?」

「え?」


 言われてから、俺は改めて文面を見た。

 そして気付いたのだった。



 そのメッセージは、何故か『日本語』で書かれているということに。


ここまで読んで下さってありがとうございます。


今日は二章完結まで二時間おきに四回投稿する予定です。

その三話目です。

四話で完結させるのに、少し詰め込み気味になっております。

最後の更新は二十四時頃の予定ですので、よろしければご覧になってください。


※0901 誤字修正しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお!! こんな展開が待っていたとは(^o^)
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