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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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本当に助けたかった人

「そうなんです。この新製品ですが、なんと我々の開発した新技術がですね──」

「……うん。なるほど」


 とあるブースにて、饒舌に語る女性店員の言葉に、スイは興味深そうに相槌を打つ。

 そんな様子を、近くで退屈そうに見ているのがライ。

 少し離れたところで見守っているのが、俺とベルガモだ。


「なぁ、ベルガモ。言ってる意味分かるか?」

「さっぱり」


 俺の質問に、清々しいくらいの即答であった。

 ついでに、スイが聞いている内容は、彼らが開発したという『ポーション着色技術』についてである。



 その店は、ぱっとブースを見回したときに気になっていた場所だ。

 何度も確認してきたことだが、この世界において『ポーション』の立ち位置は『薬』だ。

 その『薬』であるところの『ポーション』に色を着けるというのは、中々に思い切った行動だったに違いない。

 彼らは、そうしてできた色とりどりのポーションを、展示しているのだ。


 さっと辺りを見回した段階で、俺は彼らのポーションに目を付けていた。自由に見て回ってみようと言ったときから、ここに来ようと決めた。

 彼らのその独自の発想は、やはりこの世界ではあまり認められないようだ。俺たち以外に集まっている人間はいない。

 だから、俺たちが寄って行ったところ、とても嬉しそうに商品の説明をしてくれた。

 しかも、ダメ元で着色の方法を尋ねたら、あっさりと教えてくれたのである。


 問題があったとすれば、その魔法的な手段が俺には全く理解できないことだ。

 そんなわけで、俺は早々にスイにバトンタッチをして、こうして後ろからその様子を見守っているのである。



 そんな様子を眺めている横では、ベルガモが所在なさげにキョロキョロと周りを見ていた。


「どうした? 何か気になるものでもあるのか?」

「え? いや……」


 気になって尋ねると、ベルガモはやや落ち着かない調子で答えた。


「気になるモノっていうよりは、気になることが」

「それは?」

「その……俺は本当に、ここに来て良かったのか? その、仲間みたいにさ」


 その質問の意図を、俺が掴むには少し言葉が足りなかった。


「どういう意味だ?」

「だから、その、俺はアンタらの厚意で見逃して貰ってるけど……犯罪者だろ? その俺を、信頼してくれるのは嬉しいけどさ。俺はその信頼を受け取って、良いのかよ?」

「ほう、信頼を裏切りたいのか?」

「い、いや! そんなわけじゃないって!」


 俺が冗談っぽく尋ねてみると、ベルガモは慌てて否定した。

 そんな彼を笑って流してしまうのは簡単だ。

 だけど、俺は少しだけ言葉を選んで返すことにした。


「正直言えば、今はともかく助けたときには、思うところはあったよ。それこそ強盗だしな」

「……だよな」

「だけど、俺があの店で一番に考えるのは、スイの思いだったからさ」

「……オーナーの?」


 俺とベルガモは、遠くで説明を真剣に聞いているスイへ目を向けた。

 普段から表情が乏しい彼女だが、今の顔は、少しだけ楽しそうに見えた。


「スイがはっきり言ったわけじゃないし、言ってしまえば俺の思い込みかもしれなけど」


 そう前置きした後に、俺はその想像を口にした。



「ベルガモがポーションを求めて強盗したその事実を、スイは自分の責任だと思ってる」



 案の定、ベルガモは目に疑問を浮かべた。

 意味が分からないと表情で語りながら、やや済まなそうに言う。


「俺のやったことは、俺の罪で俺の責任だろ。だから、それを償うならなんだってする覚悟で──」

「もちろん、それはそうだ。でも、スイはそれを未然に防げなかったのを、自分の責任だって思ってる。それくらい、お人好しなんだ」

「……まさか?」


 ベルガモは『ポーション』を求めて、バーに現れた初めての人間だった。

 その人間が『客』としてではなく『強盗』として来てしまった。

 そして、その遠因に、俺たちの努力不足は確かにあった。

 ベルガモが客として『来られなかった』のは、俺たちの宣伝不足のせいと言っても良い。


 俺は『そういうこともある』『仕方ない』と割り切れる。それは俺が『ポーション』の──『カクテル』の延長線に『人助け』を見ているからだ。

 その先に繋がっていない人間を、助けられるわけがない。

 俺が助けられるのは、俺と直接関わった人間だけ。

 その為の努力は、どれだけ『店』をより良いものにできるかだ。

 そう思っている。


 だけどスイは『人助け』の方法に『ポーション』を選んだに過ぎない。

 その先に繋がっていない人間を、自分がどれだけ繋げられるか。

 どれだけ多くの人間と関わって、その人達を助けられるか。

『店』で完結せず、いかに多くの人間に知ってもらえるか。

 そう考えているんだろう。


 ベルガモの事件が起きたとき、スイは現状で満足していた自分を、

『人助け』のために出来ることを、怠っていた自分を、

 何よりも、後悔したに違いない。


「だから、スイはベルガモとコルシカ、二人ともを救いたかった。自分の責任で間違ってしまった人間を助けたかった」

「……俺も、助けたかった?」

「ああ。だから俺は、あの時にベルガモを庇った。オヤジさんも、ヴィオラも、スイの気持ちには気付いていたんだと思う。だから、一時的にでもベルガモを見逃した」


 オヤジさんやヴィオラだって、俺の言った『キャンペーン』に、諸手を上げて賛同したわけじゃない。

 俺の言った方法なんて、それこそ『罪の無い』『素性のはっきりした人間』を探して、雇えば済む話だ。わざわざ『強盗』を雇う必要なんてない。

 それでも、スイはその『強盗』を助けたかった。自分の責任を果たしたかった。


「デメリットなんていくらでもあるさ。それでも、俺たちはベルガモを見逃した。真面目に働いてなかったら、とっくに突き出してる。でも、そうじゃないだろ?」

「……当たり前だって」

「じゃ、これからも信頼に応えてくれよ。スイの願いを、否定しないでやって欲しい」

「…………」


 ベルガモを抱え込んだのは、甘さだろう。

 スイの思いを、現場責任者として切り捨てられなかったのは、やっぱり俺だ。

 だけど、俺だって事件が起きた事を後悔した。

 これ以上、こんな思いをしたくないのも、同じだ。

 割り切れても、傷つかないわけじゃないんだから。


「なぁ、マスター……いや、総。一発、俺を殴ってくれ」

「は?」


 しばらく黙り込んでいたかと思うと、ベルガモはいきなりそんなことを言った。

 俺は少しだけ呆気に取られて、彼の言葉を待つ。


「俺さぁ。あんたらがどんな思いで俺を助けてくれたのか、全然考えてなかった。受けた恩の分は死ぬ気で頑張ろうってだけで、助けられたことはただのラッキーだと思ってた。そんな自分が、スゲー恥ずかしくなっちまったよ」


 普段ツンと立っているベルガモの犬耳が、しょぼんと垂れていた。

 だが、その緑がかった灰色が、決意を表すように、再びピンと突き立った。



「そんな甘ったれた俺を罰してくれ。遠慮は要らない。グーで頼む」



 それだけを言って、ベルガモは目を閉じ、頬を俺に差し出した。

 俺は、少しだけ拍を置いてから、答えた。



「え、嫌だけど」

「え? な、なんでだよ?」



 俺の返答に、意外そうな顔で目を剥くベルガモ。

 だが、俺はその反応の方が意外だ。


「大切な商売道具を、なんでわざわざ傷付けるようなことを……?」


 俺は手を守るように抱きながら、真顔で言った。

 俺の手は、右も左もカクテルのための大事な道具だ。やむを得ない事情で殴るならまだしも、たいした理由もないのに、傷付けるつもりはない。


「肘とか膝でなら、百歩譲ってやっても良いが」

「……えっと、ちょっと考えさせてくれ」

「いやいや、冗談だから」


 結構真剣に悩み出したベルガモを、俺は止めた。

 よしんば理由があったとしても、好き好んで人を殴りたくないしな。


「その気持ちだけで充分だ。今まで通りに働いてくれ」

「そ、それじゃ俺の気がさ……」

「じゃあ、気が済むまで働いてくれ」


 俺の提案に、ベルガモは不完全燃焼気味に唸っていた。

 そんな彼の気を逸らしてやろうかと、俺はふと思ったことを尋ねる。


「そういやさ。一つ聞いて良いか?」

「ん? なんだ?」

「ベルガモに、ウチの店を教えたのは誰なんだ? うちの常連が『儲かってるポーション屋』なんて伝え方をするとは思えないんだけど」


 ベルガモはどうしてウチの店を知ったのか。

 それを尋ねていなかったのを、たった今思い出した。

 

 風の噂だとしても、そんな情報を流布されるのは困る。

 教えてくれたのが知り合いだとしたら、噂を潰しておく必要もあるかもしれない。

 そう思って軽い気持ちで尋ねたのだが、ベルガモは、ふと考え込む様子で、曖昧に答えた。


「……いや、誰かは分からない。俺が走り回ってるとき、変な女が教えてくれたんだ」

「変な女?」

「ああ。覚えてる。えらく美人な、白い髪の女だった。医者を探してる俺の話を聞いて、言ったんだ『それは魔力欠乏症だろう』って」


 白い髪の女。俺の記憶にはその髪色の常連は居ない。一見さんなら何度か見たことはあるが、そこまで美人の女性が居ただろうか?

 俺の思考をよそに、ベルガモはどんどんと思い悩み、沈んでいく。


「絶望した俺に、店のことを教えて、それで言ったんだ。『一時の罪と、妹の命、どっちが大切か』って、それで、俺は……」

「もういい。後悔してるのは、分かったから」


 沈み込みそうなベルガモに声をかけて、俺は彼の顔を覗き込んだ。


「今のベルガモは、うちの従業員で仲間だ。だから、後悔するなら、そのぶん精一杯店のために働く。それで良いからさ」

「……わるい。分かってるって!」


 小さな謝罪のあと、無理やりにニカッと笑うベルガモ。

 俺は、これ以上は終わりだ、と告げるように、あえて視線をスイの方に向けた。



「待って。それなら、ちょっと難しいけどさっきの方法を使った方が」

「な、なるほど! 確かに、コストはかかりますが──」



 どうやら、俺たちが話し込んでいる間に、スイと店主の話も盛り上がっているようだ。

 こちらをチラチラと助けて欲しそうに見ているライが、少し可哀想だった。



 それにしても、ベルガモへの情報の主は、誰なんだろうか?

 もしかしたら、ギヌラあたりの関係者かもしれない、と少し思った。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


離れている間、ご感想や評価などたくさん、ありがとうございます。

今、少し時間が取れないので感想返しが遅くなります。申し訳ありません。

時間が取れたらしっかりと返しますので、よろしくお願い致します。


それと、この五日でストックが切れてしまったので、

更新が途切れたときは、察していただけると助かります。


※0826 誤字修正しました。

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