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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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図書館でからかう


「っと、もうこんな時間か」


 俺はメモをする手を止め、時計に目を合わせて一人ごちた。

 この世界でも都合良く一日は二十四時間なようで、持ち込んでしまった腕時計は役に立っている。

 そして、時計はこの図書館に入ってから、およそ三時間を指していた。


 この三時間で色々な『魔草』の──言い換えれば『リキュール』の情報を得た。

『魔草』として存在しているのは、主に『薬草系』と言われる、香り豊かなリキュールがほとんどであった。

 その分布や時期、流通の状況など、この本が正しければかなりの収穫だ。

 まぁ、それと同時に、ほとんど全て、簡単に手に入るわけではなさそうだということも分かったが。


 それぞれ、花や実や根っこなど、使われる部位はバラバラである。

 また、地方も様々に分布していて、一様にどこかで栽培されているわけではない。

 さらに難しいことに、それらは一般の流通網には乗っておらず、魔草を専門で扱うような店が、独自のルートを作って仕入れているようなのだ。


 その専門店には、当然ポーション屋なども含まれる。

 どうにかしてパイプを作らないことには、リキュールを使った様々なカクテルを店に並べるのは難しそうだ。

 いや、ウチは一応ポーション屋でもあるのだから、難しそうとか言うのもアレなのだが。


「と、早く行かないと」


 考え事を途中で放棄して、俺は時間に遅れないように待ち合わせ場所に向かう。

 この本は貸し出し可能か気になったので、持っていくことにした。




「総、遅い」

「ごめん、ちょっと調べものが捗って」


 俺が指定した待ち合わせ場所に向かうと、そこにはスイの姿だけがあった。


「あれ、ライは?」

「まだ来てない」

「……なんで俺、文句言われたんだ?」

「遅いのは違いない」


 まぁ、遅れたのは確かに俺の責任なので言い逃れはできない。

 スイは俺に言いたいことを言って少し溜飲を下げたあと、キョロキョロと周りを見た。


「でも、本当に遅いね。ライ」

「ああ。ちょっと見に行ってみるか?」

「うん」


 少し待っても現れないライを探しに、俺とスイは小説のコーナーに様子を見に行くことにした。




「……………………」


 果たしてそこには、真剣な表情で──いや、少しだけニヤけた表情で本に没頭しているライが居た。

 何かあったのではと少し心配していた俺とスイは、ほっと胸をなで下ろす。

 まぁ、そうなると、次には少しだけ苛立ちが募るわけだ。


「スイ」

「了解」


 俺とスイは、目と目で通じ合って、作戦を練った。

 そして、静かに赤毛の少女の後ろに回り込む。

 そこから綺麗にライの左右に分かれたあと、合図を取って、ライに声をかけた。


「「わっ」」

「わっ!?」


 ライは、声をかけた俺たちが思わずビックリするほどに、盛大に驚いた。

 突然の大声に、ライだけでなく、じろりと周囲の視線が向く。


「あっ、すみませんっ」


 周りの視線が自分に集中したので、慌てて謝るライ。

 そして、左右を見渡して俺とスイの顔を見て、苦い表情になった。


「……時間に気付かなくてごめん。だけどさぁ……二人とも子供?」

「すまん。一度やってみたくて」

「楽しかった」

「……あっそう」


 遅れた張本人ではあるが、露骨に機嫌を崩したライ。

 俺はほんの少しだけ悪いと思いつつ、気になったことを聞いてみた。


「それで、ライはどんな本を読んでたんだ?」

「……教えない」


 ライは自分の体に本を押し付けるようにして隠してしまう。

 少しだけ恥ずかしそうにしているのが、尚更興味をそそった。


「教えてくれても良いだろ」

「やだ。恥ずかしい」


 ライはむっとしたまま、俺のほうを睨む。

 だが、そうすると反対側にいるスイへの意識が甘くなるわけだ。


「隙あり」

「あっ」


 後ろから本の奪取に成功したスイが、ライから伸びる手を避けてそのタイトルを読み上げた。



「えっと『囚われの姫と勇敢な魔法使い』……第四巻」



 ほう。

 続き物な上に、こってこてのファンタジー系ラブストーリーだったか。

 いや、この世界そのものがファンタジーなのだから、単純なラブストーリーなのか?


「お姉ちゃんっ」


 ライは慌てて、スイから本を奪い返す。

 だが、スイは悔しそうな表情一つ見せず、慈愛の表情を浮かべた。


「はいはい。ごめんね姫」

「違うから」


 スイに少しからかわれて、ライは真っ赤になった。

 そしてその勢いで、スイではなく、何故か俺を睨む。


「言っておくけど、これ普通に面白いんだから。囚われただけで終わらない姫の活躍と、恐怖に立ち向かう魔法使いのかっこよさが、最高なんだから」

「分かってますよ姫」

「分かってない!」


 ライの大きな声に、またしても周囲の視線が集まった。

 小さく俯きながらライは「すみません」と謝る。俺たちも流石に居心地が悪い。


「とりあえず、受付で聞いてみたいことがあるから、向かおう」


 提案してみると、スイとライはこくりと頷く。

 俺たちはそそくさとその場から離れた。

 視線はやっぱり、少しだけ痛かった。




「すみません。こちらは、貸し出しはできません」

「そうですか。わかりました」


 結論としては『ポーションと魔草の関係』は貸し出しできない本だった。

 すまなそうな表情で、受付のお兄さんは少しだけ説明してくれる。


「こちら、さる方から寄贈された本でして、ウチの中でもかなり高価な部類なんですよ。申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。見る分にはタダですよね?」

「それはもちろんです。魔法を使わなければメモを取ってもかまいませんから」


 俺はペコリと頭を下げてから、受付を離れ、少しだけため息をつく。


「だめだった。もう少し残ってもいいか?」


 様子を窺っていた少女二人に問いかけた。

 一応先程の時間にメモは取ったが、いかんせん、まだ調べたいことは山ほどあるのだ。


「良いけれど。あとどれくらいかかりそう?」

「そうだな」


 スイに問われる。

 俺は言いながら、さっきまで取っていたメモを見せた。


「今でやっと概要くらいだから……あと三時間くらいは」

「えー。もう図書館は良いよぉ」


 スイは表情を動かさないが、ライは露骨に顔をしかめる。

 俺のメモを詰まらなそうに見たあと、少し責めるような目で言った。


「そんな文字で書かれても分からないし。総もいい加減、こっちの文字を覚えたら?」


 ライに言われて、俺は少しだけ反省する。

 この世界に来てから、自動的にかかっている翻訳機能のお陰で、会話に不自由はしていない。

 しかし、自分の思ったことを口頭以外で伝えられないのは、少し不便だ。

 今までだって、メニューなどは口頭でスイに名前を教えてから、それを書き直すという手順を取ったりしていた。


「それじゃ、機会があったらその辺りを教えてくれないか?」

「了解」

「私も教えるよー。文字くらい私も書けるし」


 俺が尋ねると、二人は気軽に答えてくれた。

 その後に、ここで問答を続けるのが嫌になったらしいライが言う。



「それじゃ、一旦お昼食べに出ようよ。それで、その後は自由ってことで」



 ライの提案を聞いて、俺は素直に頷いた。

 この二人の休日を、俺の都合で図書館に縛り付けるのは忍びない。

 特にライは、もうこの図書館に用は無いとでも言いたげだ。

 なお、先程の本をライがしっかり借りているのだけは、目に入った。



 外で手軽な食事(サンドウィッチのような軽食)を取ったあと、俺たちは別行動を取ることになった。

 手を振りながら街に消えていく二人と、一人図書館へと戻る俺。



 ますます、美人姉妹を侍らせるには遠いな、と少しだけ思った。


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― 新着の感想 ―
受付に「不確定名:座敷わらし」について尋ねるのかと思いました…。いや不審に思われるリスクもあるから聞かない方が身のためか?
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