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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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心に秘めた一杯

「それで総、その『コアントロー』を使ったカクテル……で決め手はあるのか?」


 ヴィオラの尋ねる声。

 決め手、相手に有効打を与える一杯。


「ある。ウォッタベースで、おあつらえ向きのがな」

「ウォッタだと? 相手は植物だぞ?」


 俺の答えに、尋ねたヴィオラは盛大に眉をひそめた。


 魔力には、それぞれの土地に対応した向き不向きというものが存在するらしい。

 それは、空気中に含まれる様々な要因が影響しているとか。

 特に、温度と湿度で、おおよその相性の良さが決まるらしい。


『風のジーニ』は、暖かく湿った場所が、

『水のウォッタ』は、冷たく湿った場所が、

『火のサラム』は、暖かく乾いた場所が、

『土のテイラ』は、冷たく乾いた場所が、

 それぞれ、最も相性が良いとされている。


 ここは沼地であり、空気は冷たく、湿気も強い。

 最も相性が良いのは『水』であり、最も相性が悪いのは『火』ということになる。


 だが、それを考慮しても、ヴィオラには納得いかない所があるようだった。


「土地の相性はまぁ分かる。だが、相手は植物だ。『ウォッタ』では元々の相性が悪い。ここは『サラム』で押し切るべきではないのか?」

「……そう思うかもしれない。だけど、俺のイメージを信じて欲しいんだ」


 確かに、植物相手に『水』は、少し相性が悪いだろう。

 それを見越したら、ここは地の利を犠牲にしても『火』を選択するのも分かる。

 しかし、俺の頭の中のイメージは『ウォッタ』を最善の選択と信じて疑っていない。


「……まぁいい。元々、話半分だ。私はお前が失敗したときのフォローを考える」

「助かる」


 既に折れたヴィオラは、何を言っても無駄だと簡単に諦めた様子だった。

 それは反面、信じていないことの裏返しでもある。


「スイも、それで良いか?」

「良い。私もただ、総を信じるだけ」


 スイは一切の迷いなく言い切った。こちらは逆に、信頼の表れだ。

 そこまで信頼されては、応えないと男が廃るというものだ。


 俺は一人、胸に秘めたイメージを反芻し、小さく息を吸い込んだ。




 そうして、俺たちは再び龍草のテリトリーに戻ってきた。

 といっても、まだお互い射程圏外、イメージ的には睨み合いだ。

 相手の姿は見えないが。


「作戦を確認するぞ」


 俺の言葉に、スイとヴィオラが共に頷く。


「まず状況確認だが、相手の攻撃圏とこちらの攻撃圏はほとんど被っている。もしくは相手の方が大きい。これは間違いないか?」

「間違いない。物理攻撃のリーチは敵う筈ない。魔法攻撃も、有効射程まで近づかないと威力は減退する。ある程度の接近は必要」


 スイが淡々と説明する。

 それは、こちらが作戦を行う際、安全な人間は一人もいないということだ。


「やる事はとってもシンプルだ。まず、射程に入った直後、スイは援護のための攻撃魔法を展開。その詠唱の時間を、ヴィオラと俺で稼ぐ」

「ああ、せめて湿地でなければ『炎の壁』で充分な時間が稼げるのだがな」


 ヴィオラが苦々しく言う。

 先程の説明通り、魔法というのはその場所の地理、魔力量などによって効果が相当左右されるそうだ。

 そしてここは湿地帯。植物に有効な炎の壁も、充分な効果は発揮できない。

 足りない部分は、ヴィオラが力技で埋めるしかないのだ。


「それは仕方ない。それで、詠唱が終わったと同時、俺は走る。スイは俺の援護に全力を注ぐ。その無防備なスイをまた、ヴィオラが守る」

「そして、最後に、総が『コアントロー』のカクテルを完成させて、アイツを倒す」


 スイが俺の言葉を受け継ぐように、締めた。

 その声に、俺とヴィオラは頷く。


 行き当たりばったりといえば、それまでだ。

 だが、もともと相手がそこまで知性ある魔物ではない。

 かけられる罠も、存在しない。

 真正面からぶつかるしか、ないのだ。


「さて、準備は良いか?」

「ちょっと待って」


 覚悟を決めているところで、スイは手を上げて、俺に言った。


「総。お願いがある」

「なんだ?」

「『ジーニ』系のカクテルを、三杯くらい頂戴」


 スイの提案に、最初だけ理解が追いつかない。

 だが、すぐに合点がいった。

 ポーションは魔力の増強剤にもなる。その効果を、ここで発揮するつもりなのだ。


「じゃあ、何がいい?」

「強いの」

「……かしこまりました」


 それであっさり承諾するのもどうなんだ、と思う。

 だが、スイに冗談の雰囲気はない。

 俺はポーチから三つの弾丸を取り出した。


 それぞれ【ギムレット】【ジン・ライム】そして【オレンジ・ブロッサム】


 材料は簡単に『ジンとライム』『ジンとライム』『ジンとオレンジジュース』

 全てが、アルコールなら三十度程の、強めのカクテルだ。


【ギムレット】と【ジン・ライム】の材料が一緒じゃないか、と思うかもしれないが、『シェイク』で作るか『ビルド』で作るかという違いがあるのだ。

『シェイク』とは、文字通り『シェイカー』を使って、材料を混ぜ合わせる手法。

『ビルド』とは、グラスに直接材料を入れて混ぜ合わせる手法である。

 厳密にはもっと色々とあるが、今は置いておこう。


 俺はそれらを『弾薬解除』で液体にする。グラスごと弾薬にしていたので、すぐに供することはできた。


「お待たせしました」

「頂きます」


 スイは、それを一杯ずつ受け取ると、

 全て、一気に飲み干した。


「……ごちそうさま」

「お、おいスイ。大丈夫か?」

「大丈夫、私ポーションじゃ酔わないから」


 そうは言うが、スイの頬が微かに赤くなっている気がした。

 しかし、自分の言葉を証明するように、スイは二本の足でしっかりと地面を踏む。

 ぐいっと背筋を伸ばし、はっきりとした声で言った。


「さて、行きましょう? 大丈夫。総は私が守ってあげるんだから」

「……なんか、言葉遣い変わってないか?」

「変わってないよ」


 そう言って、スイはにかっと笑った。


 俺が視線を隣に逸らすと、ヴィオラは固い表情のまま、首を振った。

 これは、酔いが回る前に仕留めないと、大変なことになる。


「じゃあ、行くぞ!」


 その言葉を合図に、俺たちは、龍草の射程圏内に走り込む。


 俺たちの足音、いや、振動を地面に張った根から感じたのだろう。

 龍草は、ゆったりと水面からその巨体を現した。


ここまで読んで下さってありがとうございます。


今日は三回更新する予定です。

最後の更新は二十四時ごろとなっております。

お付き合いいただけると幸いです。


※0811 『シェイク』と『ビルド』について補足しました。

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