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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第二章

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陣形の打ち合わせ

《生命の波、古の意図、我求めるは魂の姿なり》


 言ってヴィオラは、その手にもった『水』の入った瓶に注目した。

 直後、瓶の中の水は光り輝き、収束する。

 カランという小気味の良い音を立てて、中には一つの弾薬が生まれていた。


「お、おお! 出来たぞ! 凄いなこれは! 遠出のときに水の心配が要らなくなるぞ!」


 ヴィオラはまるで子供のように、無邪気に喜びを表していた。

 自身の手で『弾薬化』の魔法を成功させたことに。



 今の地点は、目的地まで半分を少し過ぎたあたり。時間にして二時間もたたずに、ヴィオラは『弾薬化』の魔法を会得することに成功していた。


 そう。

 やはりと言ってはなんだが『弾薬化』の魔法は、相当簡易な魔法であるのだ。

 それこそ、馬車に乗っている時間だけで、全体的には魔法を得意としないヴィオラにすら、使えるようになるのだから。


「だけど、問題はその先」


 喜んでいるヴィオラに水を差すように、スイが無表情に言った。


「ん? どういう意味だ?」

「じゃあ『弾薬解除』……やってみて」


 スイは瓶の中の弾を指して、こともなげに言ってみせた。


「む? それは『弾薬化』とセットになっている魔法か?」

「そう。詠唱は《生命の波、古の意図、我定めるは現世うつしよの姿なり》で」


 説明されつつ、ヴィオラは得意気だった。


「良いぞ。この魔法が出来たということはそちらもすぐだろう。待っていろ」


 そして、スイから簡単なアドバイスを受け取ったあとに、ヴィオラはもう一つの魔法に取りかかったのだった。




「な、なぜ戻らない?」


 ヴィオラは瓶の中の弾薬とにらめっこを続けていた。だが、弾薬はそのままだ。

 何度かスイがお手本として『弾薬解除』を使って見せたが、それでもヴィオラには上手く行かないようだった。


「やっぱり」


 一人納得したように、スイが頷く。


「何がやっぱりなんだ?」

「『弾薬化』に比べて『弾薬解除』は会得の難度が段違いに高いってこと」


 スイの言っていることもまた、『弾薬化』の難しいところなのだ。

 まず『弾薬化』は誰にでも会得できる。

 身内で試した結果、ライやイベリス、オヤジさんでも会得ができた。


 しかし『弾薬解除』はそうはいかない。そのうちの誰も会得できなかった。

 スイはどちらも容易く使ってしまったので意識していなかったが、どうにも解除するには相当な魔法の才能を必要とするようだった。


「そ、それでは、水や食料の持ち運びには?」


 ヴィオラが少しだけ引き攣った、暗い表情で尋ねる。

 スイは首を振り、静かに宣告した。


「私くらいの魔法使いが必要になる」

「お前クラスの人間がそうポンポンと居てたまるか!」


 褒めている筈なのに、何故かけなしているように聞こえるヴィオラの発言だった。

 だが、彼女の言うことも尤もであり、弾薬化はさらに使いどころが難しい魔法となった。



 弾薬解除が使えれば、腐らない水や食料の持ち運びが容易になり、活躍の場は劇的に広がる。さらには、材料を持ち運ぶことで、いくらでも『カクテル』の補充ができる。

 だが、それが扱えないとなると、それらの利点はことごとく消えてしまう。


 特製ポーチ以外では、魔力の活性状態の問題も解決していない現状。

 なんとも使い道に困る魔法である。



「ま、話はそれくらいにしとこう。そろそろ目的地に着くみたいだぞ」


 馬車の上で仲良く言い合っている二人に、声をかけた。

 御者のおじさんがちらちらと窺っていたので、そうなのだろう。


「そろそろ見えてきますよ。『ビガラード・ベラ』にほど近い、トリプの町が」


 おじさんの言葉に違わず、馬車の荷台で立ち上がれば、遠方にうっすらと建物の集まりが見え始めた。

 俺は一度座り直し、スイ、そしてヴィオラと確認しあう。


「町についたら、簡単な準備を整えてすぐに『ビガラード・ベラ』に向かおう」

「うん。どうにか今日中に『コアントローの実』を確保して、明日の馬車には間に合わせないと」


 装備や食料、水などは一応、馬車に乗る前に整えてきた。

 強行軍でも問題はないのだが、少しくらいは情報を集めてからでも遅くないはずだ。

 もしかしたら、町の中で目的の品が手に入る可能性もゼロではない。

 それにヴィオラは、今も武装しているとはいえ、色々と準備は整っていないだろう。


「一応、出現する魔物は、獣系が基本。たまに植物系もいるみたいだけど」


 その辺りのモンスターの情報は、俺にはあまり実感が湧かない。

 頭の中でイメージはできるが、それを実情として認識できているかは微妙だ。

 だって、俺にあるのはだいたいがゲームの知識なのだから。


「基本、ヴィオラは前衛で、攻撃よりも防御優先。敵を引きつけて、壁になって私達を守って。後衛の私と総が仕留める形でいく。攻撃の優先順位は私、総の順でね」

「了解した。二人に魔物は近づけさせない」


 ヴィオラは壁役。遠距離攻撃を俺とスイ。敵が一体ならばスイが優先的に仕留める。

 おそらく、俺の攻撃は残弾数が限られていることに配慮してだろう。

 俺は少し疑問を差し挟んだ。


「スイの魔力……いや、消耗は大丈夫なのか?」

「大丈夫。というか、総。そのためのポーションでもあるでしょ?」

「あ、そうか。そうだな」


 そうだった。

 すっかり戦う気であったが、もともとポーションは魔力の回復や、増強に使うのだ。

 となれば俺のカクテルは、いざというときのための、スイの回復薬でもある。

 なおさら、迂闊に使い切るわけにはいかないのか。


「だけど、材料自体も持ってきてるから、二体以上なら遠慮なくいくぞ」

「分かってる。そのときはお願いね」


 そして、軽い作戦会議を終えて、俺たちは頷き合った。

 いろいろと横に抱えた事情はあるが、置いておく。


 目的は人命救助。そのための『コアントローの実』の入手だ。







「あ、着くまでは解除に挑戦していて良いか?」

「「……どうぞ」」


 と、締めたつもりだったのに、最後にヴィオラの一言で台無しであった。

 どれだけ負けず嫌いなんだよ。空気読めよ。


ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


ここからもファンタジーパートは続きます。

たまにバトル、と書いてあるから大丈夫だと信じて進みますが、

十話後くらいには街に戻っていると思いますので、よろしくお願いします。


※0807 誤字修正しました。

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