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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第四章

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騒がしい馬車の中

※冒頭にて、設定の簡単なおさらいをしました。設定はバッチリ頭に入ってるという方は、読み飛ばしていただいて大丈夫です。

 そもそもポーションとはどんなものか、その説明はスイや周りの人間からも色々と聞いてきた。

 俺の世界ではなかった概念だが、この世界は、ほとんどありとあらゆるものに魔力というものが備わっている。もちろん、人間にも。

 それで、その魔力は総量だったり、個別属性の量だったり、その傾向だったり適性だったりが個々人でバラバラだ。

 そしてそれらが不足してしまうと、身体に不調をきたし『魔力欠乏症』という状態になる。その結果、最悪では死に至るという。


 その魔力を、外部から補充するための手段が『ポーション』である。

『ポーション』を使えば、自然回復では間に合わない魔力の減少を食い止めたり、魔法を使う際に魔力のドーピングを行ったりできる。

 だが、質の高いポーションは値段が張る。

 結果として、貧乏な人間には十分なポーションは行き渡らない。それ故に、魔物と交戦するなどして魔力を失った人が、命を落とすこともある。


 その結末をどうにかできないかと、安価なポーション屋を開いていたのがスイだった。

 彼女は、貧乏が原因で命を落とす人間を、一人でも多く救いたいと願っていた。

 ただ、安価なポーションはやはり質が悪い。それをどうにかしようと試行錯誤をしては更に質を悪くする。そんな悪循環に彼女はハマっていた。


 そんなとき、スイのポーション屋へ俺が『飛ばされて』きた。

 ポーションのことなんて何にも知らなかった俺は、自分の舌に従ってポーションを酒に見立てた。

 そして出来上がったのがポーションの『カクテル』だ。

 安価な材料と、安価な材料を掛け合わせて作る、制限時間付きの魔法のポーションであった。


 さて、そんな『カクテル』が引き合わせてくれた人物の一人が『ホワイトオーク』というポーション屋のトップ──アパラチアン氏だ。

 俺は彼に『カクテル』や現実世界の『熟成』に関するノウハウなんかを伝え、彼は俺にこの世界の『ポーション』や『熟成』についてを教える。

 そういう約束で、店を離れて『ホワイトオーク』に研修に向かうことになっているのだった。


 ただし、その旅路に、もう一人の同行者が居るとは知らなかったが。






「まったく、どうして僕が君なんかと一緒の馬車に」

「…………」


 馬車が出発してから、小一時間ほど経っただろうか。

 運悪く乗り合わせてしまった俺とギヌラだが、行動は対照的だった。


 俺は極力、彼を気にしない。馬車は一日で目的地に辿り着くわけではない。いちいち相手をしていたら、辿り着く前に疲れ果ててしまう。


 と俺は思うのだが、ギヌラはこちらをチラチラと気にしつつ、何かと憎まれ口を叩いてくるのだ。

 構って欲しいのか、会話がないと落ち着かないのか。思い出したように口から出てくる言葉に、俺もやや苛立つ。


「あのね、さっきからなんなのかな?」


 だが、俺以上にイベリスの方が苛立っていたらしい。

 彼女は小柄な体格に似合わない圧力でもって、俺へと言葉を放ち続けていたギヌラを睨みつける。


「な、なんだよ。いま僕はユウギリと話をしているんだ。引っ込んでいたまえ」


 いや、話はしてないだろ。何言ってんだお前。


 ギヌラは少し怯むが、イベリスを見て気を緩める。どうにも、小さな少女ということで甘く見たらしい。

 この前、そうやってサリーを甘く見て怖い目にあったろうに。学習しない奴だな。


 イベリスはすっと立ち上がり、ニコニコとわざとらしい笑顔を浮かべてギヌラに近づく。かと思うと、次の瞬間にはグイとギヌラの胸倉を掴んでいた。

 そのあまりに滑らかな動きに、俺もギヌラも一瞬だけ何が起こったのか、理解できていなかったように思える。


「あんまりうるさいと、外に放り出しちゃうかも」


 イベリスさん。ウチの店でカウンターに座っているときには、オヤジどもの暴言にも寛容なのに、今回は随分と手が早いですね。

 いや、彼女が俺の代わりに怒ってくれているのも分かるんだけど。


「な、は、離せ!」

「うるさいかなぁ」


 ギヌラはようやく事態を重く見てイベリスの手を引き剥がそうとするが、イベリスの手はびくともしない。

 彼女は、こう見えてもの凄く力持ちである。少なくとも、魔力を使わない純粋な筋力で言えば、店の関係者の誰も彼女に敵わない。


「よせってイベリス」

「総?」

「俺は別に気にしてないから」


 このまま止めないと、本当に馬車から放り出しそうだったので、俺は静かに止めた。

 イベリスは少々納得いかないようだが、渋々と手を離す。そのまま、どすんと機嫌悪そうにもともと座っていた俺の隣に腰を落ち着けた。

 ギヌラはホッと胸を撫で下ろし、服の乱れをそそと整える。そのあと「まったくこれだから貧乏人は」とか言い出しそうなので、その前に仕方なく声をかけた。


「……それで、お前はさっきから何が言いたいんだ?」

「はっ、ようやく返事が聞こえたな。言葉が通じない原始人なのかと思っていたぞ」

「……だから、なんでお前は憎まれ口しかたたけないんだよ」


 せっかくフォローしてやったというのに台無しにしやがって。それでいて、ちょっと嬉しそうな顔をするんじゃないよ。やっぱり構ってちゃんなのか。

 イベリスが再びがたっと立ち上がり、ギヌラがビクッとする。俺が抑える。

 オホンと咳払いをして、ギヌラは背筋を正しながら言う。


「まぁ、僕が聞きたいのはあれだ。どうして君がこの『ホワイトオーク』行きの馬車に招待されたのかということだ」

「こっちはかねてからの約束があったんだ。俺にはポーションの基礎的な理解が足りてないから、熟成ポーションの意見交換がてらに研修に来ないかってな」


 簡潔に答えだけを告げた。

 それにギヌラは「ふーん」と興味なさげに答える。


「まぁ、確かに君のようなポーションを混ぜることしか能がない男は、一度じっくりとポーションの尊さを学ぶと良いだろうね」


 ふっと鼻で笑うように、上から目線で言ってくれるギヌラ。

 こいつほんと……次にイベリスが反応したら様子見でもしてやろうか。


「はいはい。で、ギヌラはどうしてなんだ?」

「よくぞ聞いてくれた!」


 今度は俺が質問してやると、ギヌラはガタっと立ち上がって、喜色満面の笑みを浮かべた。


「僕はいずれ『アウランティアカ』を背負って立つ男だ。若いうちに色々と経験すべきという父上の言葉で、手始めに『アウランティアカ』の代表として『ホワイトオーク』との意見交換に送り出されたのさ! 代表として、この僕が!」

「へぇ。そりゃすごい」


 聞こえの良い言葉で、体よく武者修行に放り込まれたとかじゃないと良いけどな。

 と、心ない感想はそのまま心に仕舞っておくことにした。


 しかし、ギヌラの方にも多少新生活の不安があるらしい。

 さきほどの尊大な態度から一転し、少しだけ肩を縮ませながら俺の顔色を窺ってくる。


「ま、まぁ、あれだ。貴様がどうしてもと言うのなら、この僕が『ホワイトオーク』に着いても仲良くしてやっていいんだぞ? ポーションについて聞きたいことがあったら、特別に教えてやっても良いぞ?」


 へぇ、そりゃすごい。と何も考えずに答えるところだった。

 イベリスが俺の方を向いて、言外に「こいつはさっきから何を言っているのか?」と尋ねている。

 俺は「こういう奴なんだよ」と、生易しい視線で答えてから、はぁ、とため息を吐いた。


「ま、なにかあったらよろしく頼むよ」

「そ、そうか! まぁ、そうだろうな。仕方ない。君がどうしてもと頼むから、仕方なく僕が君を構ってやるんだ、感謝しろよ!」


 俺の温かい言葉に、ギヌラはパッと顔を輝かせた。

 だめだ、こいつ、可哀想すぎる。なんなんだ、人とのふれあいに飢えてるのか?

 俺は少しだけギヌラの身の上を案じるが、まぁ、どうでもいいや。


「だから、ちょっと、静かにしてくれないか」

「なっ、ふ、ふん。まぁ良いだろう。僕も荷物の整理をしないといけないしな」


 だからさぁ。

 黙ってろって言われたくらいで、なんでちょっと傷ついた感じになるんだよ。

 お前本当に、小動物並みに繊細だな。態度だけでかい小動物だよ。


 とはいえ、荷物の整理とやらを始めたことでようやくギヌラも大人しくなった。

 かと思った直後に、ギヌラはやや戸惑い顔で俺に近づいてきた。


「……どうしたんだよ?」

「いや。どういうわけか、僕の荷物の中に、君宛ての手紙が入っていた」

「……誰から?」

「父上からだ」


 俺はやや嫌な予感を感じながら、その手紙を受け取った。

 ギヌラの父親、ヘリコニア氏にも良くして貰っている。魔草系のポーションの取引ルートなど、かなりの部分を融通してもらった。

 だから、彼から何か頼まれたとしたら、なるべくなら聞いてあげたいところ、だが……ああ、なるほど。


「なになに? どんな内容?」


 馬車の旅に早くも退屈し始めていたイベリスが覗き込んでくる。

 人に見せても問題ない内容だったので、俺は彼女にも見えるように手紙を広げた。

 要約すると、



『聞こえの良い言葉でギヌラを武者修行に放り込んだから、良かったら潰れないように見てやって欲しい』



 というお願いであった。

 どうやら、ギヌラがここに乗り合わせたのは、ヘリコニア氏の親心であるらしい。


「ふふん……ふん……ふーん」


 ギヌラもまた手紙の内容が気になるようで、しかし、直接聞くのは不格好だとも思うようで。

 荷物整理とやらの続きをしながら、チラチラと俺の方を窺っている。

 俺は手紙を折り畳んで、ギヌラにひと言だけ。


「強く生きろよ」

「……待て、どういう意味だ?」

「言葉のあやだ」


 俺はそれ以上かける言葉が見当たらなかった。

 まぁ、ギヌラのことだから、なんだかんだと上手くやるだろう。


「ふん、まぁ良い。荷物の整理も終わったことだし、ユウギリ。せっかくだから、何か面白い話でもさせてやろう。言ってみろ」


 ギヌラの要求を聞き流しながら、俺はぼんやりと窓から流れていく景色を見る。

 暇つぶしに書物をいくらか持ち込んだのだが、ギヌラが居るだけで、その暇つぶしは要らなくなるかもしれないな。




 ああ、イベリス。だから放り出すのはまたの機会にしてやってくれ。



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