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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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134/505

回路

 ──────



 吸血鬼の兄妹が、母と共に姿を消した頃合い。


「そういや、スイ。あの人と何を話していたんだ?」


 総に話しかけられて、スイは言葉に詰まった。

 それを説明するのは簡単だ。だが総がそれを知ってしまうのは避けたい。

 それが、総のためになることだと、スイには自然に考えられた。


「別に。さっきはごめんなさい、ってくらい」

「……ふーん?」


 総はそれきり、追求してはこなかった。

 だが、ごまかしが通じたとは、スイは思わなかった。

 おそらく、何かを隠したがっていることを察して、追求をやめてくれただけなのだ。


(本当に、そういうところは『察し』が良いんだよね)


 スイはラスクイルから言われたことを思い出した。

 先程の、総の『魅了』への抵抗。

 それは、ラスクイルからしたら、やはりありえないことだと言うのだ。


(意志の力で、魔法をどうにかできるわけがない。それならば、考えられる可能性は一つしかない)


 ラスクイルの出した結論は、荒唐無稽でありながら総の状況にピタリと、当てはまってしまったのだ。

 絶対に効くはずの『魅了』が効かない理由。それは、


(総の心の『魅了』に関する部分。たとえば『恋愛感情』のようなものが、何らかの理由で『欠落』しているということ)


 だから総には『魅了』が効かなかった。

 当たり前だ。もともと『魅了』される『要素』がないのだから。

 そんな状態は、通常ならばありえない。

 普通に生きて来て、感情が欠落するほどの経験は、まずない。

 よしんばあったとしても、それでは他の感情が正常に働いているはずがない。


 では、どういうことなのか。


(……召喚事故による、魔法的な『感情の欠落』が、あった)


 それが、考えられる当然の帰結だった。

 もともと、総は正常にこの世界に来たのではない。なんらかの事故で、この世界に迷い込んでしまったのだ。

 なんの問題も発生していないほうが、おかしいに決まっている。


(だったら、総の異常な態度にも、説明はつけられる)


 スイは総のこれまでの態度を思い起こす。


 自分にはまるで、恋愛はありえない、という考え。

 誰でも気がつくような嫉妬や好意への、常軌を逸した鈍感さ。

 以前、少し踏み込んでみた際の、頭を押さえるような仕草。


 それらは全て、総の心が欠落部分を保護するように、情報を歪めているのではないか。

 そこに繋がるべき思考の回路を、強引に繋ぎ変えて、その部分を補っている状態なのでは、ないだろうか。


 だとすれば、それもやがて限界が訪れるかもしれない。

 もともと無いものを、他で代用しようとしても、いずれ限界がきてしまう。

 そうなったときに、果たして総の心は、どうなってしまうのか。


(……させない。私が、そんなことは絶対にさせない)


 スイは、ラスクイルの助言を、もう一つだけ思い出した。

 彼女がこの店を知ったのは『白い髪の女』から教えられたからだと言う。

 兄妹のことも、『カクテル』のことも、彼女はその女から聞いたらしい。

 その女と、総に何か関係があると考えるのは、それほどおかしいことだろうか?


(『白い髪の女』を捕まえれば、総の召喚のことも分かる気がする。そして、総の『感情の欠落』も、どうにかできるかもしれない)


 スイは胸に決意を秘めて、総の顔を見た。

 自分にとって、もはやかけがえのない、大切な人の顔を見た。

 スイが見つめたことに気付いたのか、総は優しげな笑みを浮かべた。


「どうかしたかスイ? そんな熱い目で見られると照れちゃうだろ」

「……ごめん、ちょっとだけイラっとした」

「……なんで?」


 よくも、心にもないことを言ってくれたな、と。

 スイは少しだけ、胸の内で吐き出したあと、ふと思った。

 考えないようにしていたことを、考えてしまった。


(もし、総の心を治す手段が『元の世界に帰ること』だったとしたら? そしたら……私は……)


 スイはそこまで考えて、頭をブンブンと振った。

 今は、そこではない。

 まずは、出来る事を、やるしかないのだ。



 スイは気合いを入れて腕をまくり、まずは流しに溜まった洗い物を片付けることにした。

 そうしている間は、少なくとも総の隣に立っていられるのだから。



 ──────



ここまで読んでくださってありがとうございます。

不穏な終わり方っぽいですが、予定では別にそうでもないです。


これにて三章完結です。

最初は軽い短編集くらいのノリのつもりだったのですが、

弟子について書きたいことが多すぎてまとまりませんでした。

もう少し書きたいこともあるのですが、冗長になりすぎるので、ここで区切らせていただきます。


この先、四章はようやく研修に行くことになる予定です。

しかし、活動報告でもちらりと言ったのですが、

それにあたって少々自分の勉強不足を痛感しているところです。

ですので、勉強と取材と、あとほんのりとモチベーションアップのためにも、

四章開始は十二月に入ってからの予定です。


とはいえ、その間何もなしも寂しいので幕間で短編を不定期で書けたらなと思います。

スポットの当たってないキャラや、好きなカクテルの名前など、

どこかに書いてくだされば、話が思いついたら拾うかもしれません。


長々と失礼しました。

カクテルポーションがお休みの間も、カクテルマジックは更新中なので、良かったら覗いてやってください(露骨な宣伝)

あと、感想返信など、明日以降にさせていただきます……


今後ともお付き合いいただければ幸いです。

それと、今は疲れたので、感想への返信もろもろ、明日以降にさせていただきます。


※1108 表現を少し修正しました。

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