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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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決裂

 頭の中で、今の状況を手短に整理した。

 まず、俺たちの周りには想像以上の人数の吸血鬼がいる。彼ら彼女らは俺たちを取り囲むように存在していて、とても逃げることはできそうにない。

 彼らのトップであるトリアスの要求は、フィルとサリーの二人の身柄。その為なら、ある程度の犠牲を厭わない。

 そして彼は、俺たちの事情を聞くつもりが一切ない。交渉の余地がない。


 あぁ、どうしようもないな。



「最後にもう一度だけ、言いましょうか」


 俺が結論に至ったのを見計らったようなタイミング。

 トリアスはにこやかに表情を歪めて、言った。


「フィルオット様、サルティナ様。そろそろ下らない家出は終わりです。大人しく、こちらへどうぞ」


 息を呑んだ気配が、夜の闇に満ちた。

 俺は二人の様子を見る。二人は覚悟を決めたように、頷き合っていた。

 そして、泣きそうな顔で、俺を見る。


「だめだ。許可しない」


 俺がピシャリと告げる。しかし、フィルとサリーは泣きそうな顔で、笑うのだ。


「ご迷惑だけおかけして、すみません」

「ですが、私達は、これ以上のご迷惑をおかけするわけには、いきませんの」


 俺は無言で二人を睨むが、二人の意志は固いようだった。

 二人は俺への気持ちを断ち切るように、勢いよくトリアスの方を向いた。


「これで良いんだろう?」

「その通りです。もっと早く決断していただければ、無駄な労力を割かずに済んだのですが」


 トリアスの嫌みな言葉に、俯く二人。

 だが、その体勢でも、意志の強さを感じるはっきりとした声で、尋ねる。


「僕達が素直に戻れば、総さんに手荒な真似はしないんだな?」

「ええ。無駄に傷付けるようなことは致しませんよ」


 その言葉を聞き、フィルとサリーは、一歩、二歩とトリアスの元に近づく。

 俺は唇を噛み締めつつ、その様子を眺める。

 止めたいのだが、果たしてそれをして良いのか。具体的な策はない。これ以上、無闇に引き延ばして、良い結果が生まれるとは思えない。

 ここが、問題にならない最後のラインかもしれないのだ。

 そのモヤモヤを抱え、そしてちょうど、二人が半分程進んだところだった。


「危ないっ!」


 高い声が、後ろから聞こえた。


 俺は咄嗟に後ろを振り返る。振り返った視界の、ほんの僅かな隣を、ナイフが通り抜けていった。

 目線の先には、俺に向かってナイフを投げた姿勢の若い女。

 彼女もまた、俺と同じように驚愕の表情を浮かべていた。


 その一瞬の出来事の直後、場は一気に緊張感を増す。


 道半ばであったフィルとサリーは、即座に戻って来て俺を庇うように立った


「トリアス! 約束が違うぞ!」


 フィルが叫ぶ。サリーも牙をむき出しにして、執事へと鋭い目を向けていた。

 言われたトリアスは、流石に参ったと軽く手を上げ、答える。


「いえ、約束通りです。手荒にではなく、スマートに殺してさしあげようとしたのです」

「ふざけるのはやめなさい!」


 サリーが鋭い剣幕でトリアスを怒鳴りつけるが、彼女の声にも涼しい顔を崩さない。


「思うに。お二人の未練の中心はその男にある。であるならば、その未練もこの場で断ってしまうのが、親切かと」


 トリアスの涼しい声に、フィルとサリーは、歯茎から血が出そうなほど、歯を食い縛っていた。

 俺は心の中で、ようやく先程の出来事が呑み込めて来たあたりだ。


「ようするに、あんたは俺が邪魔ってことで良いのか?」

「有り体に言えば」


 今まで生きてきて、こうも一方的に嫌われたことはない。

 俺は少しのショックと引き換えに、心の中で覚悟を決めていた。


「つまり、どうあがいても戦いは避けられない、ってことで良いんだよな?」

「違いますね。戦うなどとんでもない、ただあなたが排除されるだけです」


 そこまで、俺を低く見ているということか。

 敵対しないようにと色々心を砕いてきたのは、全て無駄だったな。

 ならば、傷付けないように、と考えるのはやめにしよう。


 それで良いのなら、やりようはいくらでもある!



「フィル! サリー! 魔力なら後で回復してやる! 三十秒時間を作ってくれ!」



 俺が叫んだのが、合図となった。

 瞬間、いやに静かだった空間に、闘気の熱が充満する。

 フィルとサリーは、一度確認するように俺の目を覗き込む。そして、俺の言葉が本気でだと悟り、こくりと頷いた。



「情けない食料宣言ですね! 多少手荒でも構いません! かかりなさい!」



 同時に、俺の言葉を聞いていたトリアスが、大声で指示を出した。

 瞬間、俺に向かって高速のナイフが、恐ろしい数飛んでくる。

 こんなに大量のナイフ、漫画やアニメくらいでしか見覚えがない。

 だが、それらが俺に突き刺さることはなかった。



「三十秒ですね!」

「私達が、指一本触れさせません!」



 目に見えて分かるほど、体内に魔力を滾らせた兄妹が、言った。

 数々のナイフを受け止めたのは、彼らが展開した黒い翼だ。

 その翼には無数のナイフが突き刺さっているが、その傷も見る見るうちに治癒し、ナイフを押し出す。


 身体能力強化に、飛行用の翼と治癒。およそ三つの特殊能力を、一切の加減なしに全開で発動させているのだ。

 防戦に徹するとはいえ、恐らく、何分と保たない。

 だが、充分だ。


「任せる!」


 俺を守るように腕を広げている二人に言って、俺は即座に行動に移った。

 俺が発動させたい『カクテル』は決まっている。

 だが、今はまだ『弾薬』になっていないのだ。


 それでも、材料なら揃っている。

 つまり、時間があれば一から作ることができる。



 二人に頼んだのは、そのための時間稼ぎだ。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


ちょっと長くなってしまったので切りました。

そのため文字数が少なめです。

とはいえ、最近長い傾向があったので、

このくらいの方が読みやすいんでしょうか。

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