37.『S級冒険者、家を買う』
「……で、『剣聖』への愛の形はなんなの」
「え゛っ゛!?」
泣き腫らしたジト目だ。レアだ。
いやそれどころじゃない。
ちょっとルリさん、切れ味鋭いですよ。
聞き流してくれなかったかー。
ですよねー。
「か、家族……?」
「……私と違う愛の形だって言ったのに?」
「ほ、ほら――妹と、姉的な?」
「……私より『剣聖』の方が頼りがいがあるんだ」
「痛い! 鋭すぎて痛い!」
タマユラも見た目年齢は若いが、深く知るほど『ドジなお姉さん属性』が付与されていく気がする。
実際のところドジを見せたのは「あの山って鉱山じゃないですか?」って勘違いを繰り広げた時くらいなんだけど、会わない時間が育むイメージってやつだ。
だけど、タマユラへの想いは――確かに、家族とは少し違う。
だからと言って、恋愛的に大好き! ってストレートなものでもない。
自分の気持ちが分からないというより、想いが複雑に絡みすぎて上手く言語化できないのだ。
「ま、まぁそれは保留ということで……」
「……強敵現る」
■
「こちらの物件は、かなり広く作られております。S級冒険者様ならば、これくらいの物をお持ちになっても――」
「どう?」
「……広すぎ」
俺たちは、空き家を取り扱う店に来ていた。
様々な物件の中から、俺らにピッタリの最高のマイホームを探し出してくれるのだ。
「こちらのお屋敷なんかは今お安く……」
のだが、どうもお店の人と俺たちの感覚にズレがある。
S級たるもの、やはり人に羨まれるくらいの暮らしをするべき! と思ってくれているのか、はたまたこの太客を逃すまいとしてるのかは分からない。
だけど、絶対に譲れないことがある。
「屋敷は嫌です」
「……屋敷は嫌」
「――そうですか。流石はS級冒険者様。既にあの噂を聞いていらしたのですね」
なんのこっちゃ。
頭にクエスチョンマークが浮かぶ俺たちに向かってニヤリと笑い、こう続けた。
「――この屋敷が、あの『セドニーシティ七不思議』のひとつに数えられるいわく付きだということを」
知らないよ。初めて聞いたよ。
なんてもん勧めてんだよコイツ。
あれ? っていうか『セドニーシティ七不思議』のひとつで、いわく付きの屋敷って。
「あの街の真ん中の屋敷じゃないですよね? 車椅子の老人が住んでる」
「そちらとは違う物件ですね。あの規模の物件は残念ながらあまり……」
「あ、いや。いらないんですけど」
なんだこの街。屋敷にいわく付きすぎだろ。
別にそんなに七不思議に興味があるわけでもなかったけど、他の5つも気になってきた。
「あと、この家は広いんですけど『セドニーシティ七不思議』のひとつに数えられていて――」
「芸無さすぎだろ! 家しかないのかこの街は!?」
やっぱりどうでもよくなってきた。
あと普通に怖いよ。この家にも呪いの鈴あんの?
ていうか、当たり前のように呪われた家を勧めるの辞めてください。隣でルリが爆発しそうになってて、俺としては七不思議よりそっちのが怖いから。
「あとこの『七不思議』の家は――」
「…………もうやっていい?」
「ダメです! やっていいってなに!? 怖いよ!」
■
『セドニーシティ七不思議』の正体は、家だった。
いや、よくわからないんだけど。
何はともあれ、俺たちの新居は決まった。
もちろん、いわくなんて何も付いていない普通の家だ。
大部屋が2つと、小部屋が5つ。
それなりに広くて、それなりに使い勝手のいい二階建ての家。
冒険者ギルドまで徒歩3分で、なかなかいい条件だと思う。
「…………私たちの、家」
「そうだぞー。我が家だぞー」
初めて手に入れたマイホームに、俺たちはワクワクが止まらない。
まだ物も思い出もない家だけど、これから数えきれないほどに増えていくことだろう。
ちなみに、金は全額俺が負担した。
ルリは自分も払うと言ってくれたけど、まぁこれからパーティメンバーも増えるだろうし。
一旦ここは俺が持つことにしたわけだ。
その分パーティに貢献してくれればいい。
さて、とりあえずは差し迫った依頼もないし、しばらくここでゆっくりするのもいいんじゃないか。
「――こちらがヒスイ様のお宅で合ってますか!? わぁ綺麗なお家……じゃなくて! 緊急事態です! 至急、ギルドまでお願いします!」
なんてのは問屋が御さないわけで。
神かがり的なタイミングで、俺はギルドに呼び出されるのだ。少しくらいゆっくりさせてくれよ、もう。
■
「街の中に、モンスターが……?」
「そうなんです! 幸い、危険度の高いモンスターではありませんが……街の中にモンスターが出現することなんて、今まで一度も」
元々、モンスターの少ない場所に街というものは出来るのだろう。セドニーの周りもしばらくは穏やかな草原が続いているし、ほとんどモンスターは出没しない。
「それだけじゃなくて、街の外周には結界が張ってあります。外からモンスターが侵入するなんて、考えられません……」
「なら、街の中で生まれたモンスターだと?」
「それこそまさかです。モンスターの生態は明らかになっていないものもありますが……少なくとも、自然に生まれることなどありえません」
しかし、例えばアークデーモンのような次元を渡り歩くような能力があれば。
町の内側に突然出現するのも、ありえるのではないだろうか。
ただでさえ分かっていないことが多いモンスターのことだ。ありえないなんて言い切るのは難しいだろう。
「しかし……今回のモンスターは新種のようですが、戦闘力は高くありませんし、特殊能力も確認されていません。現在はB級冒険者様が8人かがりで討伐に向かっていますが……恐らく、問題は無いかと」
ならば、B級以上A級未満のモンスターといったところだろうか。
討伐は問題ないのなら、俺がやるべきことは――。
「ギルドマスターとお話をさせてください。研究室の方も呼んで欲しいです。もしかしたら、思ってる以上に事態は深刻かもしれません」
「――は、はい。ただいまお呼びいたします」
ここにきて、新種のモンスターが発見される。
しかも、出現位置は結界の張られた街の中。
これは、明らかにセドニーシティを狙ったものだろう。
そして明確な悪意を持って人を襲うモンスターに心当たりがあるとすれば。
「…………魔王軍、かもしれない」
歯車は、動き出す。




