36.『愛の形は』
「初めて君に会った時さ、最初は冗談だと思ったんだよ。こんな線の細くて、頼りない女の子がS級冒険者だなんて」
「…………ん」
「かと思えば俺を氷漬けにしようとするしさ。なんて無礼で危ないヤツだと思ったね」
「……それは、お互い様」
そりゃそうだ。俺が無礼を働いたのが原因だし。
だけど、S級ってやっぱり癖あるなぁと思ったのを覚えている。
「出会ってからまだそんなに長くはないけど……でも、色んなことを知れた。本当は素直なこと。照れ屋なこと。ビビりなこと。ユーモアがあること。知れば知るほど、もっと知りたくなった」
「……ん」
今顔が赤いのは、きっと照れてくれているのだ。
それが、俺が見てきたルリだから。
すぐに照れて、顔を赤くして、頬を緩めて。
そんなルリだから、可愛いと思ったんだ。
「最初はさ、この子となら魔王を倒せる。楽しく旅ができる。それだけの気持ちでパーティに誘ったんだ。というか、それが俺の全てだったから」
「……嬉しかった」
「――古い友人に会ったんだ。向こうは記憶をなくしてたんだけど、昔みたいに俺を導いてくれた。この俺の感情に、答えをくれた」
彼女に何があったのかはわからない。
想像を絶するような悲惨な目にあったのだろう。
記憶という自分の証明を失くし、縋る場所も頼る人もいないまま彷徨い歩いた。
でも、居場所を見つけた。
そればかりか、人を導くような立派な人間に再びなっていたのだ。俺は元パーティメンバーとして、誇りに思う。そして、感謝をしている。
「タマユラって知ってるか?」
「……S級冒険者の?」
「そう。そのタマユラに、俺は特別な感情を抱いていたんだ。古い友人に、それは愛だと言われた。ルリへの気持ちも、愛だと言われた。それは間違ってないと心が理解した。だけど、ルリへの気持ちとタマユラへの気持ちは、同じものではないと思ったんだ」
「……同じ愛だけど、違う気持ち?」
「そう。同じだけど、違うんだ」
突然こんな天秤にかけるような話を聞かせて申し訳ないと思う。
だけど、俺の気持ちに整理をつけるためには必要だった。
これに触れずして、納得のいく答えが出るとは思えなかったのだ。
「同じ愛でも、様々な形がある。恋人に向ける愛も、伴侶に向ける愛も、子どもに向ける愛も、尊敬する人に向ける愛も、全部同じ愛だけど、違うんだ」
「……愛の、形」
そして。
俺が、ルリに向ける愛の形は。
この答えに辿り着くまでに、だいぶ遠回りしてしまった。
答えなど最初からそこにあったというのに、見えなかった。
でも、それを教えてくれたのも、ルリだ。
だから俺は、ありったけを込めてルリに伝える。
「俺は、ルリのことが好きだ」
「――」
「でもこれは、恋人になろうとか、結婚してほしいとか、そんな単純な想いじゃない。パーティを組んだ時点で、もう家族同然に思ってる」
そうだ。
俺は、ルリを家族だと思っている。
ここが俺の居場所であり、帰る場所なのだ。
殊更、以前所属していたパーティ『暁の刃』のこともある。
俺にとってパーティとは、裏切りの象徴になっていた。
上っ面だけの、信じられないものになっていた。
それを塗り替えてくれたのは、ルリだ。
パーティの尊さを思い出させてくれたのは、他ならぬルリだ。
俺はそんなルリを、心から愛している。
「今まで通り――いや、今まで以上に、もっと、もっと、もっと、もっと。――もっとルリのことを知りたい。見ていたい。話したい。笑い合いたい。これが、俺のルリへの想いだ」
「――それは、家族として?」
「家族同然に血を分け合った者として、だ。一蓮托生だろ? 俺たちはさ」
ルリは、意図せずとも俺から最大魔力を奪い続けるスキルを持っている。
だが、俺のパッシブスキル【一蓮托生の知友】の効果で、俺たちはスキルを共有しているのだ。
つまり、ルリは俺から最大魔力を奪う。
同じように、俺もルリから最大魔力を奪っているのだ。
そのかわり、俺は無限に上がり続けるレベルも提供する。その見返りとしてルリには共に戦ってもらうわけで、言い方は悪いが、利害関係にある。
それは、ロマンチックに言い方を変えれば運命共同体。噛み砕くと、家族だ。
好きとか嫌いとか愛してるとか、本当はそんな陳腐な言葉で表現なんかできないほど、俺はルリを特別な存在に思っている。
「…………なんだ。もう家族にまでなってたんだ、私たち」
顔を上げたルリの目は、まだ赤く腫れぼったいけど吹っ切れた目をしていた。
あるいは、この答えすらも俺の逃げなのかもしれない。
でも、どう足掻いても今の俺はこれ以上の言葉を持ち合わせていない。
これが俺の、全部だ。
それを悟ったルリは、優しい笑みを浮かべた。
「……家族なら、ベタベタしてもいいよね?」
「えっ!? ま、まぁそういう家族もいる、かな……」
「……弟」
「ルリが妹だよね!? 自然な流れとしては!」
幾分か都合のいい解釈をされてしまってはいるが、別にそれでもいい。
大事なのは、俺がどう思うかだ。
自分の想いを、表に出すことだ。
「……ヒスイ。私、諦めてないから。家族は家族でも、本当の……お、奥さんになれるように……頑張る」
「――大丈夫かな、俺」
結局、恐らくは何も変わらないのだ。
自分の気持ちを理解した上で、昨日までと変わらぬ関係が続く。
だけど、それはきっと昨日までとは違う景色で。
お互いが自分を曝け出した今日は、決して無駄にはならない。
きっと、明日はもっともっと君のことを知りたくなっているから。
愛の形に、正解はない。定石もない。
少しずつ想いの在り方が変わっていっても、それは自然なことだから。
だから俺は、ルリを愛している。
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