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32.『それヤバい魔法じゃない!?』


 俺は今、とある屋敷に来ている。


 それは人の気配もなく、ただ俺たちの足音だけが耳にこだまする――ことはない。街のど真ん中にあるから。


 それは身の毛もよだつほど、おどろおどろしい雰囲気を放っている――こともない。昼間だからね。


「…………バカ」


「悪かったって。まさかルリがそんなにビビりだなんて」


「……ビビりじゃない」


 S級冒険者ともあろう者が、オバケにビビるとは。

 アンデット系のモンスターは問答無用で木っ端微塵にする癖に。


「これ鳴らせばいいのかな」


 門に備え付けられた鈴を鳴らすと、チリンと涼しい音が鳴る。それにしても、マジでとんでもない豪邸だ。

 門から玄関までの間に、庭園のようなものがある。

 ただし、手入れはされていないようで雑草は伸びっぱなしだ。


 勿体ない。せっかくの豪邸が台無しだよ。

 規模だけでなく、立地も街のど真ん中だ。

 俺ですら買えるか分からない程度には高額な屋敷だろう。


 街のど真ん中にあるといっても、この辺は色々なお店が立ち並ぶ商業エリアだ。冒険者の俺としては、そんなに来る機会もない場所だった。


 遠目から「なんかデカい屋敷があるんだな」くらいに思ったことはあるが、まさかそんないわく付きの場所だったとは。


「……お待ち、くだ……い……」


「うおっ!」


「ひゃっ」


 いきなり耳元で低い声が聞こえた。正直ビビった。

 それは老人のものに聞こえたが、雑音が混ざっていてはっきりとは判別できない。


 これはあれだ、魔道具と呼ばれるアイテムの一種だろう。

 魔力が込められたアイテムの中でも、日常生活を豊かにする効果を持つものを一般的にそう呼ぶ。

 逆に、それ以外のものをそのままマジックアイテムと呼んだりする。


 恐らくこれは、この鈴とセットになっている魔道具だ。

 鈴の音を聞いた者に直接自分の声を届けるとか、まぁそんなところだろう。


「――――」


 ってことくらい考えればわかりそうなもんだが、ルリは涙目でこっちを見て固まっている。ちなみに口は綺麗なへの字を描いている。


 いつも会話にワンテンポの間があるルリが、ノータイムで悲鳴を出すくらいだ。相当怯えているのだろう。


 面白いから放置していると、やがて門が開いた。


「……お入り、くだ……い……」


「――」


 第二声を聞いたと思えば、ルリは一瞬ビクっと体を震わせてまた固まってしまった。

 正直このままルリを飾っておきたいくらいだが、入れと言われた以上あまり待たせることも出来ない。


「ほら、行こう」


「……………………ん」


 いつもより長い間のあと、観念したのか恐る恐る前に進むルリ。

 俺はルリの半歩前を歩きながら、庭園の成れの果てを見ていた。


「これじゃモンスターが隠れてても分からないな……」


 実際は感知系のスキルがあるので分からないってことは無い。

 だけど、そう思わせるくらいの荒れっぷりだった。


「現実的に考えてモンスターはいないだろうけど、人の死体とかだったら分からないかも」


「…………ヒスイ」


「おっと、ごめ――怖っ! 顔怖っ!」


 これは失言だったとルリに向き直ると、今までで見たことの無いブチ切れた表情になっていた。

 俺ごと屋敷を氷漬けにするとかやめてね!?


「鍵、開いてるな……」


 玄関まで辿り着くも、ここには鈴がなかった。

 だから一応ドアに手をかけてみると、これがすんなり開いてしまった。

 俺たちは、招かれているようだ。


「……行こうか」


「……ん」


 屋敷の中は、とてつもなく広かった。

 5人は住めそうな玄関に、なんの意味があるのか分からない噴水。縦に並ぶことが出来ない人専用かと思うほど幅が広い階段。

 まさしく豪邸が、そこにはあった。


 ただし、手入れの行き届いていない階段には蜘蛛の巣が張り、噴水は止まり、玄関は薄暗かった。


「……1階の、一番奥の……で、あな……待っ……」


「…………もうやだぁ」


 感情を感じない低い声と雑音の不快なハーモニーに、本気で泣き出しそうなルリ。

 俺まで気味が悪くなってきたが、1階の奥の部屋だ。そこに行かなくてはならない。

 俺たちは、ほとんど光のささない廊下を歩き始める。


 それにしても、


「ビビらせたのは悪かったからさ。氷魔法はやめてくれよ」


「…………」


「なぁ、ルリ。いくらなんでも、風邪引いちゃうから――」


「…………違う」


 え? 何が違うって?

 だってほら、まだ暑い季節だって言うのに、手や足の先が冷たくなるほど寒いし。

 ルリの怒りはわかるけど、これじゃ家主さんの健康にまで被害が――、


「…………私、なにもしてない」


「――え? じゃあ、この肌寒さって……」


「――――ヒスイヒスイヒスイヒスイ」


「俺の名前を魔除けの呪文みたいに呼ぶんじゃ……」


 と、ルリが奥のドアの方向に指をさす。

 とんでもなく、嫌な予感しかしない。

 恐る恐るその細い指が心細く示す先に目をやると――、


 僅かに開いた隙間から、静かにこちらを覗く目と俺の目が合った。


「◎△$♪×¥●&%#?!」


「――×&!! ――%!」


 言葉にならない悲鳴をあげる俺とルリ。

 華麗なターンで来た道を戻ろうとする俺。

 腰を抜かすルリ。

 それを引っ張りあげる俺。

 足を滑らせて床に頭突きする俺。


 ――阿鼻叫喚である。そりゃそうだ。

 だって、その目は俺の胸の位置と同じくらいの高さにあったから。


 薄暗いせいで正体まではわからなかった。

 だけど、上半身しかないバケモノとか、この地に怨念を残す子供の霊とか、とにかくヤバいものに違いないのだ。


 逃げるしかない。


「……白銀の氷華を纏いし大地よ。我が白蓮の魂魄に――」


「ちょっと待って、それヤバい魔法じゃない!?」


 魔力の集中と共に空気が振動する。

 かつてS級モンスター【マウンテンザラタン】を一撃で葬った超魔法の発動を察知した俺は、ルリの頭を引っぱたいて止める。ごめん、余裕ないからさ、俺も!


「お客人。驚かせてしまってすまないねぇ」


「……へ?」


「……え?」


 この世の終わりを思わせるほどの焦りっぷりだった俺らの意識を引き戻したのは、一番奥の扉を開けて待っていた、車椅子の老人だった。


「わしが依頼人じゃ。ようこそおいでなすった」


 少なくともその老人は、幽霊には見えなかった。


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