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28.『――何も出来ない』


「――というわけなんだよね」


「あんた、S級のヒスイか。流石に分が悪い。……なぁ、頼むよ。俺らはこいつに奪われたんだ。あんたは関係ないだろ? 見逃してくれ」


 そうは言ってもなぁ。

 確かに、奪われる者の気持ちはよくわかるつもりだ。

 お前以上に、俺は奪われている。

 アゲット許すまじ。


 だけど、そこにしか目が向かないのは図々しいんじゃないか?


「お前さ、こいつに助けられたことは無いの?」


「……それは」


「こいつのおかげで命が助かったことは? こいつのおかげで強いモンスターを倒せて、いっぱいお金貰えたりしたことは?」


 それでチャラにしろよ、とまでは言わないが。

 これはやりすぎだと思う。

 精々、すれ違いざまにわざとらしく肩をぶつけるとか、足を引っ掛けるとか……それくらいの嫌がらせからスタートしようぜ。そんなことしたら永久に氷漬けにされそうだけど。


「お前ら、こいつの頭を踏めるほど立派な冒険者なの? こいつ以上にこの街に貢献してるの? 何様なの?」


「あ……いやいやいや、でもよぉ、な? わかってくれよぉ」


 若干俺の機嫌が損ねられたことに焦ったのか、あからさまに下手に出る男。

 うーん、こいつらの言い分もわからんでもない。

 だって、魔力が奪われてるんだもん。そりゃそれを隠してパーティに加入したこいつにも非があるしな。


「よし、半殺しで許してやるか」


「な!? おいおい、今のは見逃す流れだったじゃ――ぶべ」


 俺の優しいパンチが、男の腹にめり込む。

 声になってない声とともに、胃の中身が炸裂する。

 やべ、ちょっとやりすぎたかもしれん。

 まぁいいか。どうせクソ野郎だ。


「知るかボケ! こいつだって苦しい思いしてんだよ! そもそも、いい歳こいた男が寄ってたかってちっこいガキ虐めてる状況を見逃すはずねぇだろうが! なにより、俺のパーティメンバーになる女に傷付けやがって! 半殺しで許してやる俺の慈悲にお礼を言いなさい!」


「だ、ダメだ! 逃げ――ぶ」

「おい、どけ――ぐぼ」


 大丈夫、手加減はしてる。

 あっという間に意識を失った五つの体がその場に転がり、俺は横たわる『白夜』のもとへ駆け寄る。


「おい、大丈夫か? お前もゲロ吐いてんじゃん」


「…………大丈夫」


 俺が到着する前にもいたぶられたのか、あちこちに痣や傷ができている。

 やはり、魔法を封じられるとただの女の子だ。

 痛かったろうに。よく、耐えた。


「すぐに手当するからな。もう少しだけ我慢してくれ」


 応急処置としてポーションを使ったが、これはあくまで気休めだ。俺が回復魔法を使えない以上、回復術士に見せるしかない。それまでもう少しだけ、耐えてくれ。


「歩けるか?」


「…………うん」


 ポーションのおかげで、致命傷となるような傷はもうないだろう。

 というか、もっと嬲ってから殺すつもりだったのか、元々殺すつもりまではなかったのか。

 命に関わるほどの大きな怪我は見受けられなかった。


「ゆっくりでいいよ」


「…………大丈夫」


 乾いた血を拭いながら、ゆっくりと体を起こす。

 うん、これなら回復術士に診てもらえばすぐに完治するだろう。

 大したことなくてよかった。


「『白夜』。俺にはお前が必要だ。パーティを組んでくれ」


 脈絡なく、ここで言うようなことでも無いかもしれない。

 だけど、今だからこそ伝えたかった。返事が欲しかった。

 俺には、『白夜』が必要だと、言いたかった。


「…………私といると魔力が減る」


「そうらしいな」


 だけど俺、魔力使わないし。

 スキルと剣技しかないし。


 ただでさえレベルが高くて有り余ってるんだから、存分に俺の魔力を吸い取ってぶくぶくに太ってくれ。華奢すぎるぞ、お前。


「…………私といると、傷付く」


「俺としては勧誘を断られ続ける方が傷付く」


「…………私がパーティを組む資格なんて」


「ありますぅー。お前のスキルが悪いんじゃない。それを事前に説明しなかったせいで、こいつらがこんなに怒ってたんだよ。最初からわかってることで怒る奴がいるか? いたらそいつの頭がおかしいだろ。どっちにしろお前は悪くない」


 実際、そこに転がってる奴らにも同情の余地はある。

 言い換えれば、お前には反省する義務がある。

 反省したら、それを活かして再チャレンジすればいいんだよ。


 何事も、チャンスはいくらでもあるんだから。


「だから、俺とパーティを組んでくれ。お前が必要だ」


「…………私でいいの?」


「お前がいいんだよ。頼むから、これ以上俺を惨めにしないでくれる?」


 そろそろいい返事を貰いたい頃なんだから。

 言っとくけど、俺のメンタルも中々のもんだよ?


「…………ルリ」


「え?」


「…………私の名前」


 おお。結構可愛い名前なんだな。

 見た目通りと言えば見た目通りだけど、イメージ通りではないな。いや、いいと思うけど。


 つまり、これはオーケーということでいいんだよな?

 やった、ついに『白夜』……いや、ルリを仲間に――、


「…………ぁれ」

 

 と、ルリが、足をふらつかせながら再び胃の中身をぶちまけた。頭に衝撃を受けたせいかと思ったが、どうも顔色が悪い。

 まるで、じわじわと生気を失っていくような――、


「どうした!? 気分が悪いのか!?」


「…………ぉえ――おぇえ」


 もう胃に物など入っていないというのに、その拒絶反応は止まらない。明らかに正常ではない。

 俺は焦りながらも、ポーチから取り出したスクロールをルリの体に貼り付ける。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ルリ Lv.96

 S級冒険者


 【状態異常】

 呪い

             

ーーーーーーーーーーーーーーー


 やられた。

 あの魔法陣には、魔力阻害だけではなく呪いの効力まで仕込んであったんだ。


 魔法陣での呪いは、呪術師の雑な仕事とは訳が違う。

 効果は魔法陣の書き方によって様々だが、そのほとんどが命を奪うような凶悪なものになっている。


 ルリの様子を見るに、じわじわと衰弱させてやがて死に至る、といったものだろうか。

 俺は解呪のスキルを持っていない。

 だが、この状態のルリを街まで連れて行ってはとても間に合わないだろう。


 こんなところで終わらせたくない。

 ルリはS級冒険者だ。これまでも、これからも、数多くの人を救っていくのだ。

 そうじゃなくても、まだ17歳だ。

 終わらせるには、早すぎる。


「…………だめ、みたい。誘って……くれたのに、ごめんね」


「――」


 みるみるうちに顔が白くなっていく。

 俺がどうにかしなくては。


 ――何も出来ない。こんな時、レベルも強さも役になんて立たない。

 一番なんとかしたい時に、何とか出来る強さがない。

 なんという無念だ。こんなことなら、レベルなんて数字だけの強さは――いらない。


『――新たなスキルを獲得しました』


 そう思うと同時に、天の声が頭の中に響く。


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