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13.『殺意を込めてぎりぎりと』

誤字報告ありがとうございます!



 『暁の刃』。

 リーダーのアゲット、魔法使いのクォーツに、騎士のタルク。そこに俺を加えた四人で構成されていたE級冒険者パーティだ。


 そこで俺は実力不足を言い渡され、追放となった。

 今は確か、『経験値2倍』のスキルを持った冒険者が俺の後釜に入ったんだったか。


「なんで俺があのパーティにいたことを知ってる?」


「そこまでは知らなかったよ。――ただ、あたしの仲間があいつらに殺される時……ずっと言ってたの。ヒスイのせいだ、ヒスイさえいなければ『暁の刃』は、って」


「どういうことだよ……」


「わっ、わからないけど……すごい、執着してるみたいだったの。目が、怖かったの」


 そりゃ殺人鬼の目だからな。

 それにしても、そこまで落ちぶれたか。


 なんだかんだ一緒に冒険してた頃は、全くそんな奴らには思えなかったのに。


「あたしらは逃げた。三日三晩走り続けて、この街にたどり着いた」


「そっ、そこで聞いたの。ヒスイってS級冒険者の名前」


 なるほど。

 運悪く冒険者狩りと化した『暁の刃』に襲われ、たまたまたどり着いたこの街に偶然俺がいたってわけね。


 なんか嘘くさいな。そんな偶然の重ねがけみたいなことあるか?


「嘘じゃないよ……ちっちゃい頃から一緒だった友達を殺されたんだ。お願い、手伝って」


「……手伝うって、何をするんだよ。たとえ報復の大義名分があっても俺は人殺しの片棒は担がないぞ」


「そっ、そんなことじゃないの。ただ、あいつらに奪われた装備を取り返して欲しいの。……あれは、シノとリュナのものだから」


 正直なところ、前のパーティのことは忘れて新たな人生を歩き始めた俺にとって、ここで手を貸すのはあまり望ましくはない。


 ただ、あいつらが本当に道を踏み外して、被害が出ているというのなら。

 それは、俺にも責任があるんじゃないだろうか。

 俺があいつらのレベルを上がらなくしたから、こんな下劣な犯罪にでも手を染めないと生きていけなくなったのでは。


 なら、やはり俺が行くしかない。

 

「わかった。ただし、個人的に動くわけにはいかない。ギルドを通して依頼してくれ。報酬はなくていい」


 一応、冒険者ギルドはモンスターの討伐以外の依頼も取り扱っている。

 失くしたものを探して欲しい、薬草を取ってきて欲しい、護衛について欲しい。

 犯罪組織の実態調査なんかも、俺ら冒険者の仕事のひとつだ。


「……ありがとう。あたしはイヴ。よろしくね」


「あっ、ありがとう、ございます。ネス、です」


「あぁ、俺はヒス……俺は名前知られてたんだよね、そういえば。君たち、冒険者ランクは?」


 既に街を歩けば俺の名前が聞こえてくるほどになってたのか。

 まぁS級なんて物珍しいし、当然っちゃ当然か。

 それって前はタマユラのポジションだったんだよなぁ。タマユラ……。


「D級だよ」


「そっか、思ったより高いんだなぁ。何歳?」


「今年で14歳。見ればわかると思うけど、あたしら双子だからネスも一緒。――ところで、タマユラって誰?」


「えっ!? タマユラ!? どこ!?」


「違う違う! おにーさんがさっきから隙あらば口にしてるから! なになに……元カノ?」


「違うよ……」


 まさか、無意識にタマユラの名前を呟いていたとでもいうのか。マジで女々しいな、俺。

 

 ――っていうか、なんでこんなにタマユラのことで胸がいっぱいなんだろう。俺にとってタマユラって、どんな存在だったっけ。


「じっ、じゃあもう行こうよ」


「そうだね。早いとことっちめて取り返そう」


 そんなわけで、俺は忌まわしき地――『グローシティ』に再び赴くこととなった。



 グローシティのスラム。

 その一角に、奴らの根城があるという。


「まっ、まずは情報収集なの。わたしが隠密系のスキルを使えるの」


「いらなーい。場所がわかってるなら突撃するぞ」


「えっ、でも……危なくない?」


 これはもはや驕りと言われるかもしれないが、今の俺が『暁の刃』に――それも道を踏み外した奴らに負ける気など、微塵もしない。


 早いとこ解決して、愛しのセドニーシティに帰ろうじゃないか。


「お邪魔しまーす」


「……」


「……おっ、お邪魔します」


 というわけで、俺は腐りかけのドアを蹴破った。

 若干の気まずさはあるが、そんなことを言ってる場合でもない。


「ッ! 誰だッ!? ――――ッ。……お前かぁ、人殺し」


「あら、ヒスイじゃない。偉そうにいい服を着て、今度は誰に飼われてるの?」


 人殺しなんてとんでもない。

 根も葉もないことですよ、全くどこからそんな噂が立ったんだか。人の言葉を喋る魔物は倒したけど。


 それにしても……最後に会ってからまだ一ヶ月とちょっとしか経ってないのに、彼らはやつれきっているように見える。

 血走った目で、疲れきった顔で。


 それに、一人足りないようだ。

 魔法使いのクォーツに、騎士のタルク。

 そこに本来であればもうひとり、リーダーのアゲットという男がいたはずだが。


 あ、それとあれだ。

 俺のかわりに入ったという『経験値2倍』の男の姿も見えないな。


「二人だけか? アゲットはどうした」


「――ッ」


「……」


「おい、アゲットは――」


「――死んだわ」


 は? 死んだ?

 あんなにピンピンしていて、ピンピンしすぎて勢い余って俺を追放したアゲットが死んだ?

 んな馬鹿な。ああいう小狡い奴に限って長生きするんだ。


「イヴ。お前らを襲ったのは何人組だった?」


「五人、だったと思う」


 ほら見ろ、やっぱり五人じゃ――五人?

 あれ、一人多いな。どういうことだ?


「説明しろ。どういうことだ?」


「……アンタと話すことなんか」


「説明しろと言ってる」


 俺は今にも抜けそうな床を蹴り、クォーツの首筋に剣を突き付けていた。いかんな、そんなに感情的になるつもりはなかったんだけど。


 やっぱりこいつらの顔を見ると、どうしても少しばかり怒りが湧いてきてしまう。渋々ながらも追放を受け入れたつもりだったが、俺が多少なりとも強くなって余裕が出たから湧いてきた感情なのだろうか。


「――っ。アンタが出ていってすぐのことよ。アタシたちは何体モンスターを倒してもレベルが上がらないことに気付いたわ」


「……それで?」


「最初は、新しく入ったメンバーの裏切りだと思ったわ。それで口論になって、ソイツはパーティから抜けていった。だけど、ソイツが原因じゃなかった……! ステータス画面に次のページが現れていることに、タルクが気付いたの」


「……そこには『依代』の文字と、お前の名前が刻み込まれてあった」


 『依代』になった人間は、二度と自力ではレベルが上がらなくなる。俺のスキル【万物の慈悲を賜う者】の、あまりに勝手すぎる代償だ。

 その対象となってしまった『暁の刃』メンバーは、冒険者生命を絶たれたと言っていい。


 半分生気を失ってるであろう風貌のタルクが、突如豹変して声を上げる。


「――お前がぁ! アゲットを殺したんだよぉ!! お前がぁ!!」


「……最後にとんだ嫌がらせをしていったわね。レベルが上がらなくなったアゲットは、自暴自棄になって犯罪にも手を染めるようになったわ」


「……俺のスキルのせい、か」


 例えば大怪我を負うなどして、冒険者として生きられなくなる人も多い。

 十分な金を貯められずに引退した者の行き着く先は、案外犯罪だったりする。

 そうでもしないと、生きられないのだ。


「知っての通り、このグローシティには犯罪組織も多い。アゲットは、悪事を生業とする本業の奴らの顰蹙を買ったのね。ある日行方をくらまして、首から上だけになって帰ってきたわ」


「――」


「だけど、明日は我が身よ。アゲットの死を悲しむより、アタシがどうやって生きるのかを考えることで必死だった。幸い、ここ周辺で活動する冒険者の行動パターンは予測がつく。生きるために冒険者狩りを始めたこと、アンタが責められる?」


「――自業自得じゃないか」


 絞り出して、それしか言えなかった。

 別に負けてなんかいないのに、負け惜しみを言ってる気分。

 今の俺はさながら、わがままを言う子供だ。


「そうよ、自業自得。――なら、その娘のお友達が骨になったのだって、自業自得じゃない」


「…………は?」


「だってそうでしょ? 冒険者狩りを対策する頭もない。返り討ちにする実力もない。なら殺されたって文句言えないわよね?」


「なっ、何を言ってるの。わたしたちが……シノとリュナが悪いっていうの!?」


「そうよ。アンタたちが強ければそうはならなかった。自衛すら出来ない尻の青いガキは、大人しくママにお世話してもらえばいいのよ。頭も弱いくせに一丁前に冒険者ごっこなんてしてるから――」


「――ふざ、ふざけるなよ! お前に、あたしたちの……シノとリュナの何がわかる! ……ダメだ。お前たちみたいなのは生きてちゃダメなんだ。殺してやる!!」


 黒い衝動に侵されたイヴが、頭ふたつほど身長の高いクォーツを無理やり押し倒す。ぎりぎりと、その細い腕がクォーツの首を絞め始めた。

 小刻みに震える腕が、どれほどの力が篭っているのかがわかる。


「やめろイヴ! それはやっちゃダメだ!」


「お前が……お前らが悪いんだろ! シノとシュナじゃなくて、お前らが!」


 みるみるうちにクォーツの顔が青くなり、やがて口の端から涎が垂れる。

 仲間であるはずのタルクは俯いており、それを止める気配もない。


 まだ少女と言われるような年齢のイヴでも、れっきとしたD級冒険者だ。E級である上に魔法職を専門とするクォーツではその腕力に逆らうことは難しく、このままでは本当に命を落としてしまう。

 まずい。止めなくては――。


「――しかし」


 本当に、俺にそれを止める権利はあるのだろうか。

 この犯罪者にパーティを半壊させられ、友を奪われ、その友の尊厳さえ踏みにじられて。

 ――その原因は、俺にある。

 俺にイヴを止める権利など――。


 と、その時だった。コツ、コツと靴を鳴らす音が近づいてくる。俺の視界にいるのは、タルクとクォーツ。そしてそれに馬乗りになるイヴだ。

 消去法で残るネスの足音かと思ったが、次の瞬間にそれは否定される。


「ふ、はははは」


 俺の苦悩など知らないかのように、場違いな高笑いが響く。俺はこの声の主を知っている。咄嗟に声の出処に振り向くと、見覚えのある男が、見覚えのない姿で佇んでいた。


「久しぶりだな、ヒスイ。また会えると思ってたよ」


 その場にいた、全ての人の時が止まった。

 クォーツは目を丸くし、タルクでさえも驚愕の表情を浮かべている。

 イヴとネスだけは状況を理解できていないだろうが、一気に空気が持っていかれたことは感じ取れたのか、ふいにクォーツの首元にガッチリと固定されていた両手が緩む。


「……アゲット」


 たった今死んだと聞かされた男が、翼と尻尾を携えてそこに立っていた。


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