019 クラス6、激突
急いでフレンチトーストを口に運んで氷彗さんの後を追った。ブラッディさんも後ろからとことことついて来ている。
「氷彗さん! なんでブラッディさんに怒っているんですか?」
「……あなたの…………」
ゴニョゴニョと、何かを言っているのはわかるけど肝心の中身は小声すぎて聞こえてこない。
「へ? 聞き取れませんでした」
「あなたの頭を撫でていいのは私だけよ!」
え……えぇ!? そんな理由!?
1週間前なら絶対にそんなこと言わなかった氷彗さん。なんか思ったより親密度上がってる?
重い足取りで、ついに到着してしまった訓練室。どこから噂を聞きつけたのやら、続々と魔法少女たちがギャラリーとして集まっていた。
「愛梨、あなたは訓練室に入らないこと。クラス6同士の戦いよ、いるだけで邪魔になるわ」
「は、はい……」
きつい言い方だけど、これはこれで氷彗さんなりの優しさなのはわかる。こんな大勢のギャラリーの前で右往左往して流れ弾に泣く姿を見られたくない。その気持ちを汲んでくれたんだと思う。
氷彗さんは振り返って、少し後ろについてきているブラッディさんに声をかける。
「ここから訓練室よ。負けた言い訳は思いついたかしら?」
「……よくわからない展開だけど、決闘とあらば受けて立つ」
ブラッディさんは深紅の瞳を輝かせ、闘志をメラメラと燃やしているようだった。クラス6の人って、強いだけあって血気盛んなんだな〜。もし私がクラス6になれたとして、こうなるのかな……? すごい疑問。
私はギャラリーが集まる場所に移動して、氷彗さんの妹ということで真ん中の席に座らせてもらった。コネ最高!
やがて氷彗さんとブラッディさんが訓練室に入ってくる。
今日はこの雰囲気だからっていう理由で訓練室には誰もいない。サッカーコート9面分の広さがこの2人のためだけに用意されている形だ。
「「変身」」
2人ともポツリと呟き、同時にマギア・ムーンを握って変身した。氷彗さんは見慣れたながらもやはり目を奪われる美しい水色のドレス。素敵すぎて言葉が出ない。
対してブラッディさんの方は、どこか禍々しさを感じる。
基本色が黒と赤で、その布が交互に何枚も重なったどこか民族衣装っぽさを感じる衣装だ。スマートフォンで調べてみると、やっぱりルーマニアの民族衣装の一つみたい。私の袴みたいなポジションなのかな?
「始める。いつでもどうぞ、氷彗」
「私に先手を譲るなんてずいぶんと舐めてくれたものね。なら……お望み通りに!」
始まった!
氷彗さんは私が瞬きをしている間に氷の剣を生み出し、床を蹴って加速していた。何度も見た動きだけど、私に仕掛けた時と比べると動きがさらに洗練されている。やっぱり私の時はかなり手を抜いていたんだ!
「『剣』」
対してブラッディさんの方も瞬きをしている間に剣を生み出している。ただその色に、ギャラリー席はざわついた。その剣の色は……生々しい血色。
少々グロテスクなその色に、まだ若い乙女としては嫌悪感を持たざるを得ない。
ブラッディさんも床を蹴って加速し、氷彗さんに真っ向から向かい合うようだ。
氷彗さんもブラッディさんも速すぎて、ギャラリー席からだと水色の尾を引く光と血色の尾を引く光にしか見えない。
そんな2つの光がぶつかり合って、甲高い金属音を残すと交差し、お互いに位置関係を逆転させた。
「何これ……目で追えないんだけど!」
他のギャラリーには追えているんだろうか。でも見渡すと姉らしき人が妹らしき人に説明しているようだから、上級魔法少女には見えているのかもね。
氷彗さんもブラッディさんも基本的に無表情だから感情が読み取れない。ただなんとなく妹としての感だけど、氷彗さんは「思ったよりできる」って思っている気がする。
「……氷彗、凄まじく速い」
「それに食らいつける自分への賛辞かしら?」
氷彗さんの吐く毒の切れ味が増している。ブラッディさんの何がそこまで気に入らなかったのかはわからないけど、とにかく不機嫌だ。
「あまり長引く戦闘は好みじゃない。次で……」
「えぇ。終わらせましょう、戦いを」
ブラッディさんは魔力を全身に貯めているのか、全身が紅色に輝き始めた。
氷彗さんの方は私の『桜花一閃』のように、腕にのみ水色の輝きが走っている。
先に動いたのは、氷彗さんだった。両手を広げ、一つの氷のキューブを生み出した。初めてみる魔法……これはちゃんと見ておこう。
「『屠殺氷塵』」
氷彗さんがポツリとつぶやいたその瞬間、氷彗さんの手のひらに浮かぶ氷のキューブが細胞分裂のように割れ始め、大量の氷の塵になった。
氷の塵は辺りを漂い始め、やがて刃となってブラッディさんに牙を剥いた。
「『血の薔薇』」
対してブラッディさんは全身から薔薇の花を咲かせた。ただその色は綺麗とは言い難い、血色。
血色の薔薇は棘のツルを伸ばし、氷塵を撃ち落としながら氷彗さんめがけて侵攻していく。強力な魔法と魔法のぶつかり合いだ。
氷塵はツタをズタズタに切り裂く。その一方で血色の薔薇から生み出される魔力はビーム状に伸び、氷彗さんへ。
「『氷塵集結:ニヴルヘイム』」
氷彗さんの叫びで、氷の塵は再び集結した。大きな槍となった氷はブラッディさんの頭部目掛けて突き進む。
ガサッ! と音を立てて、派手にホログラムように点滅したのは……両者とも。
「え……同時だったよね?」
まさかの引き分けに、ギャラリー席からは無言の吐息が漏れたのでした。




