018 ブラッディ・カーマ
土曜日。今日はやけにドアの外がざわついているのを感じた。
「おはようございます、氷彗さん」
「おはよう。騒がしいわね」
氷彗さんは少し目を細めてドアを睨んでいた。静かな方が好きなのは変わっていないみたい。
「とりあえず朝食行きますか?」
「そうね。騒いでいてもらって、食堂が空いている方が嬉しいわ」
少しだけ毒を吐いた氷彗さん。まぁこれはこれで個性ってことで!
食堂へやってくると氷彗さんの言う通り、いつもより少し空いていた。
「いったい何の騒ぎなんでしょう?」
朝のフレンチトーストをお皿に乗せて、席に座ったところで氷彗さんに尋ねた。
「紙で知らされたでしょう? 例の留学生が来る日だから、到着したんじゃないかしら?」
「あぁ、なるほど〜」
そういえばそんなイベントあるって言ってたね。えっと……ルーマニア人のブラッディ・カーマさんだっけ。
思い出しながらフレンチトーストを口に含み、優しいフワッとした甘さが口に広がった。
「氷彗さんは気にならないんですか? 同じクラス6として」
そんなフレンチトーストの甘さに似て、最近優しさが生まれた姉に問う。
「ん……気にならないわけではないけど、特別絡むつもりはないわね。愛梨は気になるの?」
「そうですね〜、美人かどうかは気になるところです」
「…………そう」
ん? なに今の間は。
朝ごはんを食べ進めていると、騒がしい集団が食堂へ入って来たのがわかる。
「あの中にいるのが留学生さんですかね?」
「そのようね。よく見えないけど」
魔法少女の集団は何かを聞いてその場に留まった。そして中から1人、白髪の少女が歩いてこちらへやってきた。燃えるような深紅の瞳は自然に目を奪われる。不思議な雰囲気の美人な子だ。ただ外国人というのは一目でわかる。
その子は私たちの目の前で立ち止まり、私たち……というより氷彗さんをジッと見つめていた。
「……貴女が山吹氷彗?」
日本語で喋った! しかもめっちゃ流暢だし。
「そうだけど、何か用かしら?」
「同じクラス6として挨拶に来た。同じ高みにたどり着いたもの同士、同じものが見えていると思って」
「そう。でも私の経験上、クラス6って一癖も二癖もある者が多い。そんな者たちで同じ景色が見えるかしら」
一癖も二癖もある……なるほど、氷彗さんもそれに該当か……。
「何か今失礼なこと考えたかしら?」
「い、いえ! 滅相もない……」
なんで分かったんだろう。ひょっとして姉妹として心が通じ合った証? きゃっ♡
乙女の心全開の私をいつのまにか見ていたブラッディさん。突然目が合っていることに気がつくとドキッとする。深紅の瞳に、吸い込まれそうだ。
「貴女は山吹氷彗の妹?」
「は、はい! 桜坂愛梨です」
「そう。よろしく、愛梨」
少しダウナーなところは氷彗さんと似ているかも。仲良くなれるんじゃない? って勝手に思っちゃう。
パキッ!
氷彗さんの方から音がしたから見てみると、氷彗さんの握る箸が折れていることが確認できた。恐ろしいほど冷たい目でブラッディさんを睨んでいる。
「人の妹にずいぶん馴れ馴れしいわね」
「……そう? ルーマニアでは普通の距離感だけど」
氷彗さんにとっては確かに出会って初日で下の名前で呼ぶのは馴れ馴れしいのかもね。普通にみんなやってることだけど。
「用があるのは私でしょう? 愛梨から離れなさい」
「なぜ氷彗にそこまで言われなければいけないのかわからない」
「私のことまで呼び捨て? ずいぶんと偉いものね」
「偉いのではない。対等な証」
うわぁ……こんなダメなコミュニケーションの典型見たことないや。正直言って氷彗さんの方が悪い気がする……。贔屓目で見てもね。
「ひ、氷彗さん。私は気にしていませんから……」
「そういう問題じゃないわ。これは私の独りよがりよ」
えぇ……。
「……どうやら氷彗には嫌われたみたい。残念」
ブラッディさんは顔色を変えることなく私に話しかけてきた。氷彗さんと話すことを諦めて、私にシフトした感じかな?
「だ、大丈夫ですよ。氷彗さん、人付き合いに慣れていないだけできっと仲良くなれますから!」
「……そう。愛梨はいい子」
ポンと私の頭に手を置いたブラッディさん。その瞬間、バン! と強い音が氷彗さんの方から聞こえて何事かと思ったら氷彗さんは立ち上がっていた。
「……なに?」
「訓練室に来なさい。私と対等と思っているのなら間違っていると証明してやるわ」
……なんだか、面倒なことになってきたような気がします。




