014 元姉との会話
魔法少女センターから勝手に妹として登録された桜坂愛梨が学校へと向かい、一人になった部屋にて日課の勉強が始まった。
数学も英語も、すべて独学で高校課程を終わらせるつもりの私としてはこの程度、どうということはない。ただ少し飽きてしまったため、私は廊下に出て飲み物を確保しようとした。それが仇となった。
「あら? 氷彗ちゃん、久しぶりね」
声の主は振り返らなくともわかる。中谷風香。数年前、魔法少女センターに勝手に姉として登録された者だ。
「……お久しぶりです、中谷先輩」
私は一切の感情を漏らすことなく中谷風香に挨拶を返した。無視すれば逆に付き纏ってくることを私は知っている。なぜなら私は4ヶ月間、この人の妹として登録されていたからだ。
ゆっくり振り返ると、隣には見ない顔がいた。察するに新しい妹分なのだろう。よくこの制度を受け入れる気になるものだと感心する。
この時間にも魔法少女センターにいるということは通信制か中卒であると察することができる。
「お姉ちゃんとは呼んでくれないのね」
「冗談じゃありません」
「あらら……幸、ちょっと席を外してもらってもいいかしら?」
「はい、風香お姉さま」
あっさりと「お姉さま」と口にした少女はトコトコと歩いていき、私たちの声の届かないところまで離れた。
「愛梨ちゃんに会ったわ。すごくいい子ね」
「そうですか」
なるほど、久しぶりに巡り合った不幸は桜坂愛梨によるものか。つくつぐ私に不幸を運んでくるものだ。
「今度は上手くいくといいわね」
「同じです。これまで妹として充てがわれた者すべてを引退させました。今回も、同じです」
「……氷彗ちゃんはそれでいいの?」
私はその問いかけに答えることはなかった。
この話題になった時に私の脳内にチラつくのは、今まで充てがわれた3人の「妹」の顔。初日の期待した表情から一転、1ヶ月後にはすべてに絶望し、特に私に対して恨みを向けるような顔で去っていく者がほとんどだった。
「……確かにすでに変身できるている桜坂愛梨は特別かもしれませんが、私にとっては当然のことです。他の魔法少女と差異はありません」
「そう。厳しいのね」
私は今までの「妹」は変身させることもなく引退させてきた。でも今回の「妹」は違う。聞くところによると初めてマギア・ムーンを握った時にはもう変身できたという。イレギュラー中のイレギュラーだ。私でさえ、変身に1ヶ月も要したというのに。
「話が終わりならこれで……」
私は居心地の悪いこの空間から早く逃げようと、話を切り上げようとした。その瞬間、スマートフォンから警戒音がなる。
ビービービー! ビービービー!
「嘘! エネミー!?」
「場所は……豊田市」
豊田市といえば桜坂愛梨が通っている学校もそこのはずだ。
私はマギア・ムーンを手に取り、水色の粒子に包まれ、ドレスアップする。
「氷彗ちゃん、行くの?」
「はい。エネミーを狩るのは私の使命ですから」
豊田市にも何人か魔法少女はいる。しかし前回の強力なエネミー、それも無警報で現れたエネミーに怯えている魔法少女がいてもおかしくはない。そうであればエネミーに対応できるのはあの頼りない桜坂愛梨ただ一人となる。
あんな新入りに倒せるほどエネミーは甘い存在ではない。私は魔法少女センターを飛び出して、全速力で豊田市に向かった。
走り始めて12分ほど、豊田市に到着する。見合わない高層マンション群の空に蝶型のエネミーがいることを確認した私はさらに加速した。しかし……
「『桜花一閃』、発射!」
聞き馴染みのある声が聞こえた。しかしその者から放たれた魔法は見覚えのないレベルの魔法であった。
桜色のビームは蝶を飲み込み、焼き払う。
巨蝶は呻き声をあげることも無く力尽きて高層マンションの屋上で息絶えた。
私の息も、止まってしまうように思えるくらいに驚愕した。




