011 魔法の名前
氷彗さんをお昼に誘う作戦は見事に失敗し、またも寂しいぼっち飯に。日曜日とあって魔法少女センターの食堂はいつも以上に魔法少女で溢れかえっている。
みーんな姉妹でご飯食べちゃってるよ。羨ましくなんて……羨ましくなんてないんだから! はぁ。
そんなときふわっと鼻をくすぐったのはセクシーな甘い香りだった。
「こんにちは、愛梨ちゃん」
「ご無沙汰しているのです、桜坂さん」
香りの主は中谷風香さん。氷彗さんの元姉だ。今日も仲良く現妹の幸ちゃんを連れて山菜定食をトレーに乗せている。
「こんにちは風香さん、幸ちゃん」
やっと姉妹らしいことができた今日の午前だったけど、本物の姉妹システムの形を間近で見せられると心を抉られる感じ。でもなんだかんだこの二人が話しかけてくれたのは心の救いにもなる。
一緒にいい? と確認され、もちろん断る理由のない私はお昼を共にすることを許可。前回同様、姉妹で向かい側に座った。
「あれから氷彗ちゃんとはどう? 心の氷は溶けそうかしら?」
「えっと……少しだけですが前進はしてます」
そう答えると風香さんは優しく微笑んだ。
「良かったわ。今まで氷彗ちゃんの妹になった子全員に声をかけてきたけれど、そう答えた子は一人もいなかったの。愛梨ちゃんは特別な子なのかもしれないわね」
「特別……ですか」
「私から見ても特別なのです。まだ変身の糸口すら見えないのですから……」
ぐぬぬ……と悔しそうに幸ちゃんは唸っている。
まだ5月の半ば。変身に3ヶ月はかかると言われているこの業界で4月頭に魔法少女になったばかりの幸ちゃんが変身できたら驚きだろう。
「焦る必要は無いと思うよ。風香さんと一歩一歩、楽しく進んでいくことが大事だと思う」
「そう……ですね。お姉さまは優しく指導してくれますし、焦らず期待に応えるのです」
優しく指導、かぁ。
氷彗さんの指導はお世辞にも優しいとは言えない。でも的確ではあるのだと思う。午後も教えてくれるかはわからないけど、私も魔法を磨けば氷彗さんに一撃を……。
って、結局私が1番焦ってるし! よくないよくない!
「愛梨ちゃんの魔法少女姿、見たいわね。今変身してもらってもいい?」
風香さんはモデルのように白湯を飲み、一息ついて私にそんな要求を投げかけてきた。
「い、いいですけど、そんな価値ありますかね?」
とりあえずマギア・ムーンをポケットから取り出して変身した。子どもの頃『魔法少女大全』という魔法少女のことが詳細に書かれた図鑑を読んでいたからわかるけど、私の衣装は全然派手では無い。むしろ地味な部類だ。
でも私の衣装を見て風香さんも祥ちゃんも大口を開けて「おー」と漏らした。
「いいわね、よく似合ってるわよ〜」
「むむ……やっぱり早く変身したいのです!」
「そ、そんなにいいですかね……」
そう言われるのは悪くない。ただ食堂で変身という側から見れば奇妙なことをしていることに気がついたので、すぐに変身を解除する。
「氷彗ちゃんは何か言ってくれた?」
「い、いえ。衣装については何も……」
「そう。いつか褒めてくれるといいわね」
もしかして風香さんは気を遣ってくれたのかな。姉……氷彗さんに褒められていない、つまり褒めてくれる人が誰もいないということをわかっているから、今ここでそんな要求をしたのかな。
本当にできた人だ。叶うことならこんな大人に私もなりたい。
お昼を食べ終えて、二人と手を振って別れた。少しだけ軽くなった足取りで訓練室に戻ると、やっぱり先に氷彗さんは到着していた。……お昼、ちゃんと食べてるのかなぁ。
「来たわね。続けるわ」
「は、はい!」
どうやら午後も氷彗さんにご教授してもらえるみたい!
また氷彗さんは私の後ろから抱きつくように指導を始める。このスタイルしか知らないのかな……なんかもっとやり方がある気がするけど黙っておこう。
「集中」
「は、はい! すみません……」
鋭い一言で心臓に杭が打たれた。
魔法の発動には氷彗さんの言うように集中してイメージを頭の中で練ることが求められる。だから雑念が入ると急にダメダメになっちゃうのだ。
私は手探りで魔力をコントロールしてみる。強めたり、弱めたり、広げてみたり、狭めてみたり。
「……ん、今いい感じよ」
「本当ですか! 撃ってみます! 『私の魔法!』」
桜色のビームは直進し、今まで撃ってきたどのビームよりも力強くその場に桜色の幻影を残した。
やった……! 氷彗さんが撃った直進氷ビームの半分くらいのパワーがありそう!
「まぁ今日できるのはこれくらいね。……どうでもいいけれど、あなたのその魔法、名前をつけないの?」
「名前ですか、なかなかこれといったのが思いつかなくて」
「そう。名前も魔法を完成させるための1つのピースよ。心がけておくことね」
「は、はい!」
今日の氷彗さんは比較的よく話してくれる。うん、やっぱり嬉しいなぁ。
その後、氷彗さんは自分の訓練だと言って一人で訓練を始めてしまった。私はそれをベンチからボーッと眺めることにして、リラックスタイムに。
氷の剣を虚空に振る姿、空気すら凍らせてしまう姿、どれをとっても文句の付けようが無い美しさ。う〜ん、自慢の姉だ。姉と呼ばせてはくれないけど。
「魔法の名前、かぁ」
氷彗さんが「嫌いじゃない」と言ってくれた魔法だ。できればカッコいい名前をつけたい。
サクラビーム……安直かなぁ。桃色光線……なんかアイドルみたい。
魔法の名前を氷彗さんの動きを見ながら考えるなんて、贅沢な話かもね。よくよく考えたら氷彗さんのファンとか多そうだし。私は自分の受験のために1年間魔法少女について調べる機会がなかったから氷彗さんのこと知らなかったけど、それまではクラス5・6の魔法少女ならほぼほぼ暗記してたし。
「……部屋、戻ろ」
私は氷彗さんのファンでは無い。妹だ。それでいて今は魔法少女を続けるための対戦相手でもある。なら私がするべきことは、まっすぐ自分の魔法と向き合うこと。
私は真っ先に勉強机に向かってノートを広げ、魔法の名前候補を書き連ねた。
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