010 姉妹らしく
私の怪我は背中にしか影響はなかったため、夜が明けたらすぐに退院することができた。ただまだエネミーと戦うには万全ではないから出動は禁止だとお医者さんに釘を刺されてはいる。
氷彗さんと共同生活を送る部屋、A501室に戻ってくると、相変わらず美しい佇まいの氷彗さんが勉強机で本を読んでいた。
「……もういいの?」
「あ、はい。背中の怪我だけだったので」
「そう」
氷彗さんはこちらに視線をやることなく、本を読みながらの会話になった。これ以上の会話はないと思い、自分の勉強机に向かおうとすると、一枚のプリントが置いてあることに気がついた。
『トヨタ中央高校、授業再開のお知らせ』
タイトルを読んだ瞬間にハッとした。そこからは餌に食いついた魚のようにプリントから視線を逸らさない。
そのプリントには来週の月曜日から授業が再開される旨と、今回の事件に関してのことが記されていた。そこには私が魔法少女になったことも記されている。
そっか……学校、始まるんだ。
「そういえば氷彗さんはどこの学校に通われているんですか?」
「……私は高校には通ってないわ。自習で高校課程は終わらせるつもりよ」
「な、なるほど……」
ちょっと予想外の回答だった。高校生だと思っていたけどそうじゃなかったんだ。理由は……聞かなくてもなんとなくわかる。エネミーが現れたときに1秒でも早く出動できるためだろう。
「そんなことより」
パンっ、と少し強めに本を閉じた氷彗さん。
「な、なんでしょう?」
何を言われるかわからないから怖い。まさか私にまで学校を辞めろとか言うんじゃ……
「退院したのなら訓練室、行くわよ」
「えっ!? もうですか!?」
また斬り刻まれる日々が始まるのか〜。嫌だなぁ。
……なんて、思っていたんだけど。
訓練室に移動するといきなり氷彗さんは突然私の後ろから抱きしめるように手を掴んで、力の入れ具合を確認してきた。
氷彗さんの身体が密着して心臓が跳ねる。袴じゃなくてもっと薄手の衣装なら良かったのに!
「あなたは魔力の使い方が雑。習っていないから当然といえば当然だけど。とりあえず前に飛ばすと言う感覚より、研ぎ澄ませてから自然に前に飛ぶよう意識しなさい」
後ろから身体を密着させて呟く氷彗さん。耳に声が直接当たってゾクゾクしてしまう。
「……聞いてる?」
「は、はい! でもなんで突然私に指導を?」
「……その怪我は私の撃ち漏らしが原因だから。その怪我の穴埋めくらいはするわ」
そういうことか〜。なんか納得。でもそういうことならこの際たくさん甘えちゃおう。氷彗さんに一撃を与える方法も見つかるかもしれないし!
私は魔力を腕に溜め込み、放出の準備を始めた。今使える魔法はこれくらいしかない。桜色のビーム。名前は……また今度考えよう。
「えいっ!」
氷彗さんの指示通り、魔力を研ぎ澄ませてから自然に身を委ねて前へと飛ばした。しかし氷彗さんは満足いかなかったのか、私の耳元でため息を吐いた。
「まだダメね。無駄が多い」
「無駄ですか……」
「私があなたの魔法を真似るとしたら、こうするわ」
そう言って氷彗さんは私と同じような魔法の発射ポーズをとった。右腕を伸ばし、手のひらを発射したい方向に広げるダサいともかっこいいとも言えるポーズだ。
そのポーズになってから1秒経ったかどうかくらいで氷彗さんの右腕に冷気のようなものが溜まっているのが視えるようになった。そのままそれを撃ち抜いて、空気中に浮かぶ埃のかけらすら凍らせてしまうようなビームを発射した。
私の魔法とは比べ物にならない……これが氷彗さんの力!
「でも前にしか飛ばないし、威力も大したことないから実戦で使うことはまずないわね」
「うっ……そうですか……」
手厳しい。
「でもこういうまっすぐな魔法は嫌いじゃない」
「え?」
「……なんでもないわ。もう一度撃ちなさい」
「は、はい!」
その後も氷彗さんに教わりながら魔法を完成させていく。一度撃つたびにアドバイスをくれて、なんだか初めて姉妹らしいことをしたかも。
この勢いのまま、お昼ご飯も一緒に食べないか誘ってみることにする。
「ひ、氷彗さんもどうですか? お昼……」
「……私は一人で食べるわ。また1時間後に集合よ」
「は、はい……」
そううまくはいかないようです。




