第7話 メインディッシュ
夢幻の箱庭(仮)にある巨大な魔法陣。
そこにマナを流し込めば、出口であるポートを選択できる。
ゲートを開くたびに増えていくポートだが、エテリナがいろいろ調べてくれたおかげで整理する方法も判明したからな。
今じゃこの辺りのダンジョンのあちこちにポートを仕込んであるってわけだ。
もちろん、人目につかないところを選んで設置してはいるがね。
「まずアルティラ達はクインカーバロウへ向かってほしい。『ロックラビット』を数匹頼めるか?」
「『ロックラビット』? 金属や鉱石ばっかり食ってるあのウサギみたいな魔物だよな? けどオッサン、あんまり旨くねぇぞアレ」
「それにイルヴィスその、私たち誰も、血抜きや解体処理とかできないけど……、あうぅ……やっぱり役に立たない? 逆に足手まといかな……?」
「大丈夫だって、よーしよし。味の方には考えがあるし……ラフィア、たしか『スノウグレス』って魔法使えたろ? 仕留めたらすぐ、そいつで冷やしておいてほしい。ロックラビット相手なら、それだけで問題無いはずだ」
「……スノウグレスで? うんわかった、まかせて」
「それで……それが終わったらポートの近くで、このマーカースライムにマナを流し込めばいいのね?」
「う、うん……スライムが消滅したら、わ、わたしには伝わるから……」
ゲートを経由してまた迎えに行くって寸法だ。
「おっちゃん、じゃあボク達はどうするの?」
「俺達は一度ビジレスハイヴに向かう。……つっても、あそこはまだ第二十六階層までしかポートを開いてないからよ、そっから少し、奥へと探索していくことになっちまうがね」
……
…………
……………………
ビジレスハイヴ第三十一階層。
「――ふぅ、これでここでの目的を一つ達成というわけだな。欲を言うのであれば、念のためにあと数本ぐらいは採取したいところだが……」
「ま、そのへんは潜ってりゃ何とかなるだろ」
クヨウの言う通り、俺達は目的の一つである『ドレッシーブラッドの両腕の刃』を採取していた。
これは特殊な構造になっていて、突き刺した相手の血を抜き取ることができる。
……ことができるっつーか、まぁ冒険者にとっちゃ普段は脅威以外の何物でもないんだが……。
正直、今の俺達にとっちゃランクAの魔物も敵じゃあない。
上手く採取できれば、血抜きにはもってこいの道具ってワケだ。
「あとはマッドネスクッカーが持ってる『デッドスパイス』と……『メルトミルク』か」
マッドクッカーの上位種であるマッドネスクッカーは、エプロンの中にこれまた特殊なスパイスを隠し持ってる。
そいつがビジレスハイヴでの目的の一つ、『デッドスパイス』だ。
「デッドスパイス……なんだか怖い名前ですね……? あ、わかりました! ひょっとして、とっても辛いとかそんな感じの……」
「いやがっつり毒だぞ?」
「がっつり毒なんですか!?」
驚いたように声をあげるハク。
まぁそれだけ聞いたらそうなるわな。
「がっつり毒なんだが……コイツは特殊な旨み成分の塊でな、安全で簡単に毒を抜く方法もちゃんと確立されてるんだよ」
「そうなんですかぁ。えへへ、ちょっとびっくりしちゃいました!」
「はは、悪い悪い。ただ味のパンチが強すぎて、普通の食材とは合わないからな。どっちかっつーとデッドスパイスの味を楽しむために、ロックラビットの淡白で旨みの無い肉を使うって話だ」
「じゃ、じゃあ、め、メルトミルクって言うのは……?」
「ビジレスハイヴはどこぞの屋敷っぽくて、キッチンみたいな部屋も存在するだろ? そういった場所に冷蔵庫みたいなモンがあるとな、稀に保管されてたりするんだよ」
「へぇ~、ダンジョンの宝箱なんかは、冒険者をおびき寄せるために作られるって聞いたことあるけど……それも似たようなものなのかな?」
「こういった形のダンジョンは少なくないからねー? にゃふふ! 『タンスやツボを合法的に漁れるのは冒険者の特権だー』なんていう人もいるってカンジ?」
「正直、その物言いはどうなのって感じだよおっさん的には。ハクは良い子だからなー? マネしちゃだめだぞ?」
「えへへ、良い子だなんてそんな……はい、わかりました!」
「――とりあえず十匹……とりすぎた?」
「いや、んなことねぇさ。足りないよりはずっとましだよ、ありがとな」
マーカースライムの反応を頼りに、一度アルティラ達と合流する。
ちょうどこっちも、目当てのモンが見つかったところだったしな。
「それでイルヴィス、次はどうすればいいの?」
「そうだな……レンは残ってくれ、それとトリア、お前は向こうに合流だ。パニティンサイドで『マイコニドダース』や『テンタクル』なんかを同じように仕留めてほしい」
トリアとレン、武器は違えど近接戦闘が得意な二人を入れ替える。
「……っと、テンタクルはなるべく小さそうなやつを頼む、逆にマイコニドは大きいヤツの方が良いな」
マイコニド系の魔物は可食部が少なく、テンタクル系のデカいヤツは固い上に、大味で旨くないからな。
良い感じに熟成させる方法なんかもあるが……今回は時間の都合でパスだ。
未だ崩れたままのパニティンサイドだが、そのあたりの魔物なら二十階層までに出現するはずだ。
そんで俺達は……。
「うんわかった! ……あれ? でもそれじゃあボクが疲れた時、おっちゃんにお姫様だっこしてもらえないじゃん!!」
「…………ん? 別にいいぞ、そのままこっち側でも。なんなら今からでもだっこしてってやろうか? ん? ん?」
「え、ホント!? えへへ、なんだぁ、おっちゃんもやっと素直になってきたね? んふふ……!」
「そうだな、実は俺もお前と一緒に行きたくてしょうがなかったのさ。……次に向かう『バラバットセメタリー』になぁ……!?」
「じゃあおっちゃん、こっちは任せてがんばってきてね!!」
……この変わり身の早さよ。
ま、だからこそパーティを振り分けてやったんだがね。
「にゃふふ、たしかたしかー、バラバットセメタリーの最深ポートは四十七階層だったよねー? 六十を越えればフルボーンドラゴンも出現するだろうし、これは噂の『竜骨ラーメン』が食べられちゃうかも?」
「ラーメン? へぇ、いいじゃねぇか。オッサンそんなもん作ってたのかよ?」
「ま、今回も作るかどうかは分からんがね」
それでも、あれは良いブイヨンの材料になるうえ、使わなければ素材としてギルドに引き取ってもらうことも可能だ。
金があれば市場なんかで食材も買い足せるし、採取しておいて損は無いだろう。
――その後も俺達は、ダンジョンで様々な食材を採取していった。
ウィーグルモールでは、ペイルビーの蜂蜜やドリームシープ。
本命であるデルフォレストの中層では、マンドラゴラ、黒リンゴ、ブラックコカトリスの肉と卵、リンガーアルラウネの果実、オニオンデビルなどなど……。
そして――。
「――よーし、コイツで最後だな……!」
デルフォレストの深層、第四十六階層。
ゲートでたどり着いたそこで、長い首を持つ大きな牛の様な魔物を相手にナイフを抜く。
――『オッドカトブレパス』ランクSS。
その肉は極上品、いわゆる超高級食材ってヤツだ。
だがカトブレパス系の上位種であるコイツの瞳には、特殊な紋様が刻まれていて、そいつを見た冒険者は即、死に至ると言われている。
動きが遅いため、逃げるのは難しくない。
俺も以前遭遇した時は、思いっきり逃げ出してやったからな。
だが……。
「まさかこんな形で役に立つとはなぁ……人生、何が重宝するか分からんもんだねホント」
全身にまとわりつくスライムマンの感触に身を震えさせつつ、俺はそのまま『右目』を閉じる。
エテリナの話によれば、これで十分らしい。
なんせ……俺の左目は定着の影響でほとんど見えないからな。
本当にぼんやりとしか見えないが、こっちには傾向限界突破もある。
スライムマンと併せて、勇者級の俺ならこれでも十分だ。
「そんなワケで牛さんよ――悪いが、メインディッシュになってもらうぜ……!!」




