第36話 まるで女王蜂のよう
FANBOX(https://azitukenori.fanbox.cc/)やってます!
イルヴィスパーティのキャラ設定なんかも無料公開していますので、『応援してやるぞ!』って思ってくれる方がいらっしゃいましたらフォローだけでもしていただければ一層励みになります!
「……こん中には誰もいねぇみたいだな」
ディーン達と別れ、ハクの力で魔物達の死角を縫いながら、なんとか次の建物まで移動して身を隠す。
鍵の方は壊す形になっちまったが……まぁ緊急事態だからな。
その辺は大目に見てもらいたいとこだ。
こうして体勢を整えながら移動し、いざという時は俺が『戦闘力解放』を使う。
本来ならこれを繰り返していかなきゃならんところだが……。
「おじさま、あの……大丈夫ですか? あんなふうに言われて……」
「あ、あんなの気にしちゃだめだぞ……? お、おっちゃんのやったこと……わ、わたし達は間違ってなかったと思うから……」
「……ありがとな二人とも。――ま、実際いいんだよ気にしてねぇさ。それに……悪いがこの状況で、アイツらの性根や生き方まで面倒を見てやる余裕もないしな」
「い、生き方の……?」
「少なくとも年齢分の経験は積んでるからなぁおっさんは。人生の先輩としちゃあ本来、ああいう部分もちゃんと諭してやるべきなんだろうが……」
ああやって見たくないものから目をそらし、何かのせいにしながら自分を正当化して生きていく……。
いつかシズレッタたちにも話したが、そういった人間の行き着く先が悪いもんにばかりになるかと聞かれりゃ、全部が全部そうじゃあ無かったりするのも現実だ。
だが……同盟とやらが謳う『熱意を持った冒険者』。
……恐らく本当の意味でアイツらがそうなれることはもう無いだろう。
どこかでアイツら自身が、心の底から変わろうとでもしない限り……な。
「さて……さっきも話したが他の冒険者達の戦い方やステータスを把握してない以上、俺達が100%の戦略を立てるためには……」
「まずははぐれちゃったトリアさん達と合流する必要があるんですよね?」
「あぁそうだ。だがジャラジャンドラの出現した中央広場から離れば離れるほど、避難できてねぇ住民は多くなってくだろ? つまり……」
「で、出入り口なんかを封鎖して、魔物に襲われないよう立てこもってる人も多いはず……。そ、そうなるとわたし達も、こんな風に建物に隠れられなくなっちゃうってことか……」
「そういうことだな。……つっても実際のとこ、俺たちに限っていえばそこは問題じゃあ無い」
「え……?」
「……実はな、一度ゲートを開いておいたのさ。ギルドの人目につかないような場所でこっそりとな?」
他の冒険者達より出遅れちまったのもそのためだ。
名を知られちまったことでどう聞き耳を立てられてるかがわからん現状、今の今まで話すことができなかったんだが……。
「下手に少人数を救出できる手段があるとなれば、そいつは確実に混乱を招く。『夢幻の箱庭』を救出に使わないと決めた以上、ディーン達の前でその話はできなかったが……これで俺たちはすぐにでもギルドへ向かえるってワケだ」
「じゃ、じゃあ問題はトリア達のほうだな……。む、向こうはゲート無しで……それもハクの感知能力も無しで、う、動かなくちゃいけないから……」
「あ……じゃ、じゃあハク達の方から探しに行けば……!」
「いや、そうやってどこかで入れ違いになっちまえば本末転倒だ。だから……」
そうだ、だからこそ――。
「俺たちはギルドで待つ……! アイツらなら必ずたどり着くと信じて……な?」
「おじさま……そうですよね! トリアさん達ならきっと大丈夫です!」
「う、うん……な、仲間だからこそ、ちゃんと信じてあげないとな……!」
力強く相槌を打つ二人に、改めて決意を後押しされる。
「さてそうなると、あとは卵への対処法だ。地上で討伐されたモンスターはすぐに浄化現象が始まる……そいつは七大魔王だろうが例外じゃあ無い。だとしたらなんであの卵は無事だったのか……」
実際エンデュケイトの時はそのおかげでシズレッタやネーリャたちを助け出すことが出来たしな。
「ひょ、ひょっとして卵の方が本体で、じゃ、ジャラジャンドラはまだ討伐できていなかったってことなのかな……?」
「いや、倒れた後のヤツの体には間違いなく浄化現象が起きていた……つまり討伐自体は達成できていたはずなんだよ。……だろうハク?」
「はい、ハクもそれは感じました……!」
たとえば魔物から切り離されちまった角なんかも、本体を倒さない限り浄化現象は起きないからな。
そのうえでハクが感じ取っていたならもう間違いはないだろう。
「え、えと、じゃあなんで……」
「恐らくだが、あの卵にもちゃんと浄化現象は起きていたんだろう。だがもし……そうだな、『膨大な魔素を圧縮した殻』で無理やりそのスピードを緩めていたとしたら……?」
「……! ま、魔素が大量になればなるほど、完全な浄化には時間がかかる……そ、その間、殻に守られた中身は無事だったってことなら……!」
「魔王級を超えるほどの魔素をつぎ込まれた殻だ、『ギガンティックマテリア』が通じなかったのも頷ける」
そして恐らく、その中身こそが奴の能力の肝……。
魔物達を呼び寄せるフェロモンを産みだし、更にはそいつらを養分として自身が復活するための器官なんだろう。
全てを魔物達に任せ、自身は悠々と広場に鎮座する。
……まるで女王蜂のようだぜホント。
「魔物さんをおびき寄せる力……ねぇおじさま、ハク、試してみたいことがあるんですけど……」
「試してみたいこと……?」
そう言うとハクはとある提案を口にし始めた。
俺たちもそれに耳を傾けて……。
「――……!! えと……そ、そんなことが本当にできるのか……!?」
「分かりません、でも……なんとなく今のハクなら出来るんじゃないかなって……ううん、おじさまとならきっと……!」
なんとなく、か……。
ハクは常日頃から、『自分の力』についても何か感じ取っているような様子を見せる時があった。だとしたら今回も……。
「……わかった、俺もハクの直観に賭けるぜ……!」
「うん、わ、わたしもだ……! じゃあやっぱり、まずはトリア達と合流しないとな……!」
「おじさま……! ネルネさん……!」
これで一つの算段はたった。
あとはそれをトリア達とも共有して……。
「…………ん?」
「ど、どうしたんだおっちゃん……?」
懐でモゾモゾと何かが動く感覚がする。
こいつは……!
「――まさかこんないいタイミングで来てくれるとはな……!」
上着の内ポケットから、そのモゾモゾ動いていた包みを取り出す。
「あ、あれ……? そ、それって確か……」
「前に話してた……クレハさん人形、ですよね?」
「あぁそうだ。もっとも……そいつはついさっきまでの話だけどな?」
「「……?」」
二人の頭上のハテナをよそに、包まれた中身が徐々に大きくなっていく。
そいつが完全におさまるのを待ってから、包みを広げてやれば――。
=========================
「――まぁまぁお気になさらず。……いいですか? こうして常に肌身離さず持っていてください、でないと……呪われてしまいますので」
「いや普通気にするのはお前の方で……って、は!? の、のろ……!?」
「冗談です冗談、フフフ……」
……ホントに冗談?
相変わらずのポーカーフェイスのおかげで、おっさんもうわかんなくなってきてるよ……?
「こらクレハ、必要以上にイルヴィスを脅すんじゃないまったく……」
「おや怒られてしまいました……ふふ、本当に冗談です。重要なのはむしろこちらでして……」
「こちら? こちらっつうと……人形を包んでいたこの布の方か?」
「マジックアイテム『相転包布』。んしょ……わたくしの持つこれと対になっているもので、とても貴重な一品となっております。それはもう、こうして肌身離さず持っているほどに」
胸の谷間から同じような布をひっぱり出しつつ、その胸元を強調するクレハ。
「わかったわかったから……ほら、ちゃんと襟元直せっての」
「おやおやイルヴィスどのは何を意識されてしまったのですか? ふーむこれはこまりました、私はそんなつもりなどなかったというのに……」
嘘をつくんじゃないよ、確実にこっちの反応待ちだったくせによ……。
どうにもコイツはエテリナと同じタイプなんだよなぁ、おっさんをからかって楽しんでるっつーか……。
「く、クレハ! そうやってはしたないことは……!」
「まぁまぁお二人ともそんな苦い顔をなさらず。こちらのアイテムですが、なんと包みこんだものを互いに入れ換えることができるのです。……それがたとえ何時、何処にいたとしても。つまり――」
=========================
布の中から現れる、また別の布に丁寧に包まれたそれ。
そっと取り出してやれば手になじむこの感覚と……黒く輝くその刀身。
「――待ちわびたぜ、なぁ……『オーヴァナイフ』!!」




