番外編 ワールズレコード037:ヘイト管理
このお話は《第五章26話》の少し前ぐらいのできごとです
また、内容を補足する程度の挿絵が含まれますので、
苦手な方はお手数ですが、右上の表示調整から設定をお願いします
「……あ、お待たせしました~! イルヴィスさんに~、ハクちゃんも~!」
クインカーバロウの入り口付近で、おっとりとしたしゃべり方をする一人の女性と待ち合わせをする俺とハク。
ワーフル・クラウディカ。
首輪事件でケインの手から解放され、それからはアカリ達とパーティを組んでいる七人の内の一人だ。
「いやいや全然、むしろこっちこそ悪いね? こんな時間にわざわざ出張なんぞしてもらっちまって……」
「いいえ~! イルヴィスさんたちはー、わたしたちの恩人ですから~! ハクちゃんもー、がんばって助けてくれたもんねー?」
「そんな、えへへ……。 ……あれ? ひょっとしてワーフルさんも……」
「あ、きづいたー? そうだよー、わたしもジャッカロープの亜人なのー。普段はよくぶつけちゃうからー、帽子をかぶってツノを隠してるんだけどー……でもよくわかったねー?」
「最近はレベルも上がったせいか、魔物相手の感知能力なんかもぐんと上がってるからな。頼もしいモンだよホント」
「そうなんだ~! すごいねーハクちゃんは~! 五感っていうよりは体ぜーんぶで感じとってるカンジかなー? わたしも感知能力には自信があるけどー、ハクちゃんには負けちゃうかも~」
「えへへ、なんだか照れちゃいます……! ハク、じいやにも自慢しますね! おじさまやワーフルさんに『ハクの体は感度が良い』って褒められたって!」
「えぇ~っ!? えっとぉー……」
「……うんハク、その言い回しはちょっとやめとこうな?」
「?」
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ワールズレコード036: ヘイト管理
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――クインカーバロウ第一階層。
「それじゃあスキル体験のまえにー、まずは『ヘイト』や『ヘイト管理』ってどういうものかー、ちょっとだけお勉強しましょうねー?」
「はい、よろしくお願いします!」
「うふふ、おまかせくださーい。……うーんとー、魔物さん達がわたしたちを見つけるとー、自身の魔素を使ってその人の魂を汚染しちゃうのは知ってるよねー?」
「あ、はい、えっと……それがマーキングみたいになってて、魔物さんはハク達を追いかけてくるんですよね?」
「そのとーり~! だから逃げようとしても回り込まれちゃったりー、『魔王級』の魔物さんから逃げられないー、なんてことも言われてるんだよねー?」
以前トリアにも説明してやったが、この辺は冒険者の基本知識だな。
つっても、汚染の仕組みなんかはいまだに詳しく解明されちゃいないらしい。
そいつが判明すればレベルアップも格段に楽になるんだろうが……。
「それでー、これは魔物さんによってバラバラなんだけどー、パーティどころか目にうつるヒト全員にマーキングする子もいればー、逆に主要な相手だけにマーキングする子もいるんだよねー?」
「主要な相手……ですか?」
「例えばほれ、街の外を馬車で移動中に魔物と遭遇したとするだろ? 立ち向かってくる護衛だけにマーキングするヤツもいれば、馬車の中まで軒並全部に……ってヤツもいるんだよ」
「でもどんな場合でもー、攻撃してきた相手だったりー、脅威と感じた相手だったりとー、襲う相手の優先度をつけるんですー」
「あ、じゃあその優先度が……」
「だいせ~か~い! 古代語で憎しみの意味を持つー、『ヘイト』ってよばれるんだよ~!」
ちなみにその辺りの性質を利用して、一般人を馬車に乗せたまま魔物を倒し、全員のレベルを上げるツアーみたいなクエストまで存在する。
まぁ地上の魔物相手にそのやり方だと、レベルもせいぜい2~3ぐらいまでにしか上がらねぇが……それでも0よりはずっとマシだからな。
「そしてここからが重要でー、魔物さんの嫌がるような行動で優先度を制御してー、戦闘を有利に進めるぞーっていうのが『ヘイト管理』なんだけどー……」
これがまた、完璧にうまく立ちまわれることばかりじゃあ無いんだよなぁ。
うちのパーティも前衛、中衛、後衛に陣形を分けて、ある程度のヘイト管理を計っちゃいるが、それでも100%狙い通りにいくワケじゃねぇし……。
……が、そういうのを全部すっ飛ばして無理やり優先度を任意の相手に向ける方法ってモンがある。
それがいわゆる……。
「……それがいわゆる『ヘイト管理系』のスキルってわけなんです~!」
ま、そういうことだ。
「ヘイト管理系のスキルにはねー、すでにマーキングされた状態からマナを使って優先度を錯覚させる『疑似マーキング』ーって呼ばれる方法とー」
「魔物さんの嫌がるー……例えば匂いや気配なんかをつくりだしてマーキングをさせる『マーキング誘導』ーって呼ばれる方法の二種類があるんだけどー」
「ハクちゃんはわたしと一緒でー、『誘導』のほうが合ってそうかなー?」
「えと……そうなんですか?」
「そーなの~! 魔物さんの感知能力が高いってことはー、それだけ相手の機嫌を感じ取れたりもするからねー?」
なるほどな。
つまりその分、効率的に魔物への嫌がらせを仕掛けることができるってワケだ。
……言葉にするとこう、なんかアレな感じになっちまうなこれ。
「それじゃあお勉強はひとまずここまでにしてー、早速スキルを体験しに奥へ向かおうと思うんだけどー……ハクちゃんってスロットは全部使い切ってるのかなー?」
「装備品のですか? はい、一応六つとも全部……」
「なるほどなるほどー。うーんとそうだなぁー……その髪飾りの装備品、別のと交換しよーって言ったらできちゃったりするー?」
「え!? こ、これをですか……!?」
「ハクちゃんの感覚強化はそれが無くても十分みたいだしー、それならヘイト管理に役立つ装備品と交換した方がいいかなーって……。お気に入りの物ならー、装備しなくてもそのまま身に着けてたりとかー……」
「あ、あのワーフルさん……! えと、これはその……!」
なにやら焦った様子のハクが、ワーフルへぽそぽそと耳打ちを始める。
……髪飾り、か。
あれはたしかハクが正式に冒険者になって、リィンねぇちゃんとこで装備品のカタログを見せてもらってる時……。
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「――あ、この髪飾り……」
「お、どうしたハク? 何か気にいるモンでもあったのか?」
手に持ってるのは……『ジュエルリリー』の装備品カタログか。
ハクのボウガンなんかをそろえた『シャングルリカ商会』とはちょっと違って、どっちかというと性能よりも見た目重視の商品を扱ってるとこだが……。
「その……この青い水晶の髪飾りがすごく良いなって思ったんですけど……ううん、やっぱりやめておきます! それならこっちの、もっと安くて性能も良いヤツの方がいいですもんね!」
確かにハクの言う通り、性能とコスパで選ぶならそっちの方が正解だろう。
だが……。
「なぁハク? こういうのはな、性能が良けりゃそれだけでいいってモンでもねぇんだぜ?」
「え……?」
「なんつーのかな、こう……ビビッときたモンを身に着けてたほうがやる気も出たりしそうだろ? 俺は結構、そういうの重要だと思うけどな。そうでなけりゃ、こういった商品なんざ出てこないはずだしよ?」
「……! で、でも……いいなって思ったのも子供みたいな理由ですし……」
「いいんだよそんなもんで。よしっと……ねぇちゃ……じゃない、リィンさん! こっちの髪飾りも取り寄せで……っと、先に適正チェックもしとかねぇとな?」
「あ、はい! ――……えへへ……!」
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なんてことがあったからな。
よっぽど気に入ってるんだろうし、何とかそのままにしておいてやってほしいところだが……。
「……ふんふん……あぁ~そうなんだ~! うふふー、それじゃあそれは装備したままでいたいよねー?」
「はい……す、すみません、せっかく助言してくれたのに……」
「ううんいいのいいの~! そういうのってとっても大事だからー、むしろちゃーんと言ってくれて良かったよー? 言ってくれてなかった方がー、後で知った時に『しゅーん』ってなっちゃってたしねー?」
「ワーフルさん……」
「じゃあ装備品はそのままでー、それでもちゃーんとスキルを使いこなせるよう、わたしも張り切って教えちゃいますよ~!」
「はい! えへへ、ハク頑張りますから!」
……どうやら杞憂だったか。
しっかしアカリといいワーフルといい他の子たちといい、あんな事件があった後だってのに腐らず前向きで良い子たちだよホント。
そう考えるとケインのヤツ、人を見る眼だけはあったみたいだが……まぁその分ぎっちりと、心からしっかり反省してもらいたいもんだね。
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