第30話 もしかするとそれこそが
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「あぁ!! 今日は……今日はなんて良い日なんだ!! 兄弟水入らずでのひと時に……ほらほら見てよイルヴィス! 左右は違うけど『お揃い』だ! ……ふふふ、まるで鏡合わせの様だねぇ……?」
俺に切り裂かれた目元の傷を見せつけながら、どこか恍惚とした表情で俺の顔を覗き込むヴァシネ。
「……はっ、双子コーデで……はしゃぐような歳でもねぇだろうが……!」
「んふふ素直じゃないなぁ? 反抗期……いや、ツンデレってヤツかな?」
くしゃくしゃと俺の髪を撫でるその手。
くそ、心底忌々しいその手を払う力すら今の俺には……!
「さて……ジャラジャンドラはお前に譲ってあげるよイルヴィス。本当は僕が手に入れるつもりだったんだけど……ま、別にただの気まぐれだったしね?」
「ぐ……てめぇヴァシネ……! 何の目的でこんな……!!」
倒れたままのゼクセーが、ヴァシネに向かって問いかける。
「目的? あー……まぁ七大魔王がどの程度使えるのか自分でも戦ってみようかなって思ってさ。で、せっかく戦うならイルヴィスもいる場所の方が良いかなーって」
「そ、そんな理由で……? だってさっき……拷問までしたって……」
「そんな理由って……失礼なヤツだな君は。イルヴィスお前のお人形だろう? きっちり躾はしといてくれないと困るじゃないかまったく……」
「誰が……人形だ……!!」
「んふふ、お前にもいつかわかるさ。……おっと、そんなことをしてる間にほら、やってきたみたいだよ?」
空に浮かび上がった魔法陣が輝きだし、中心から何かが現れる。
あれは……。
「きょ、巨大な水晶……? う、ううんあれは……!」
「なにかの……卵……!?」
怪しく紫に輝く巨大な卵。
あれが……あれが『蟲后ジャラジャンドラ』だってのか……!?
「……っ! クソが……! そんじゃあ本当にアイツは……!」
「納得できないかいゼクセー? でもこれが僕のやり方で、君らにはそれが出来ない……。だからこそイヴェルトは僕を仲間に引き入れたんだと思うけどねぇ?」
「――〰〰っ! 黙りやがれ……!!」
「おーこわいこわい」
ぎしりと奥歯を噛みしめながら、ゼクセーがヴァシネを睨み付ける。
「さて、それじゃあ僕はそろそろお暇しようかな。……楽しかったよイルヴィス、また近いうちにね?」
一陣の風と共に姿を消すヴァシネ。
同時に、トリア達を拘束していた何かも消失したようだが……。
「はぁ、はぁ……! く、そ……!」
……戦闘力解放のタイムリミットを迎え、本格的に『再燃する走馬燈』の副作用が身体をおそう。
勇者級の力も……七大魔王とすらやり合った『ガンメタルエフェクト』さえ惜しみなく使った……!
それでもやっと一撃……いや、その一撃さえ俺は……!
「お、おっちゃん!!」
「イルヴィス!!」
瀕死の俺に駆け寄ってくるトリア達。
また心配をかけちまって…………ん? なんだ? 心配というには怖い顔をして……。
「おっちゃんの――!」
「――おじさまのばかぁ! ばかばかばかぁ!!」
「い、いてて……は、ハク……!? ちょ、なにを……!?」
駆け寄ってくるや否や、ぽかぽかと叩かれる俺の体。
ちょ、まってくれって、おっさんもうホントギリギリだから……。
「こ、これハク……! ワシも気持ちは分かるが今は……」
「いいえやめません! だって、だってあの時……ハクはデルフォレストで『ちゃんと伝えること』の大切さを知って、ジンドラクラックでもまたそれを思いだしました! だから……!!」
「ハク……」
「おじさまが負けちゃったのはきっと……ヴァシネさんが強かったからでも、おじさまが弱かったからでもありません……! おじさまが一人で戦ったからです……!」
「あ、いや……わ……悪かったよハク……。 けどな……アイツとの決着は俺が……身内である俺の手でつけなけりゃならねぇんだ……! だから――」
「そーいうことを言ってるんじゃありません!」
おおう……。
二回り下の女の子の剣幕に気圧されて、なんとか絞り出したセリフさえも遮られる35歳独身男性の姿よ……。
「……おじさまはクヨウさんにも言ってたじゃないですか……一人で戦うことと、誰にも頼らないことは違うんだって……! さっきのおじさまはその言葉を、同じように胸を張って言えますか……?」
「――!」
「おじさまの手で決着をつけなきゃいけないっていうなら、ハクだってそれを応援します……でも……! でもあんなのは違います……! だって……ぐす……!」
「ハク……。……おししょーもおししょーだよ! おっちゃんも……あの時みたいに『待っててくれよ』ってカッコつけて言ってくれればボクだって……! でもそうじゃなかった……そうじゃなかったもん……!! ぐしゅ……!」
「ハク……トリア……」
あの時……ジエムが俺を試したあの時の……。
「ほら二人とも……。……悪いがイルヴィス、私も同じ気持ちだ。私もお前があんなヤケな戦い方をするのは見たくはない。……お前が私にそう言ったのだぞ?」
「……にゃふふ、ウチもみんなと一緒かなーって。オジサンやハクちーの言葉をかりるなら……『一人で立ち向かう』のと、『一人で抱え込むの』とでは、ぜーんぜん意味が違うって思うけど?」
「お、おっちゃんのことだから、わたしたちに被害が及ばないように……た、たとえ刺し違えてでもとか思ってたんだろうけど……そ、そんなのわたしたちは嬉しくない……全然嬉しくないんだ……」
――……あぁ、そうだった。
俺はヴァシネのことは、身内である俺だけの問題だと思っていた。
だがそいつは違うんだ。
だって俺たちは仲間で、パーティで、そして……。
……あーくそ、『差し違える』なんて物騒な言葉、たとえ頭の中だけでも使うべきじゃあ無かったな。
ぎっちり反省しねぇと。
「……ム、イルヴィス、どうやら今回は……」
「あぁ完全に俺が……いや、俺たちが間違ってたみてぇだ……」
「ほほ、まさか弟子たちにこのような説教をされるとはのう……誠に、誇らしい事じゃて」
「まったくだぜ……ぐっ……!」
緊張が解けたせいか、ヴァシネにやられた傷がずくずくと痛み始める。
あの野郎、俺の攻撃はことごとく捌きながら、人のことは遠慮なく切りつけてやがって……!
……ってうお!?
改めて見てみると俺こんなにやられてたのかよ!?
アドレナリンこっわ……。
「と、とにかくまずはおっちゃんの傷を……!」
「いやネルネ、俺はいい……。アイツを……先にゼクセーのヤツを頼む……!」
「え、で、でも……! ……ううんそうか、わ、わかった……!」
どのみち傷を治してもらったところで、今の俺は『再燃する走馬燈』の副作用でろくに動けんからな……。
それならまずは……。
「ぜぇ……はぁ……っ! クソッ……! クソが……ッ!!」
「ひ、ひどい傷だけど、い、命にかかわるようなものは無い……。でも……こ、これは神経毒……? だ、だったら……! ――『ミックス』……! ま、『マーブルスライムHCW』……!」
ネルネの袖からあふれ出したスライムが混ざりあいながら、うつぶせに倒れたままのゼクセーの傷を包んでいく。
いつかの俺の時のように、これで傷も毒も問題ないだろう。
あとは――。
「アイツを……あの卵をどうするかだな……」
「本当にあれが『ジャラジャンドラ』なのかな……? ヴァシネさんはそう言ってたけど……」
「ハクはどうだ? 何か感じたり……」
「はい、感じます……! エンデュケイトさんや、ハレちゃんの時と同じようなもやもやを……!」
「つまりハッタリじゃあないってことか……! とりあえずまずは……ガングリッド、シーレ……!」
「ム、分かっている、すぐにギルドへ向かって事の次第を報告してこよう。……あれが七大魔王だと言う話も、今ならば無碍にはされんだろうからな」
「場合によっては共同クエストの緊急発注も進言しておかねばならんの? もっともあれとの戦闘ではなく、あくまでも住民の避難を優先してのことじゃが……」
「あぁそれで頼む……! ごほ……! 悪いが俺は少なくともあと30分は役立たずだ……それまでは――」
「――あ……!! ま、まだ無理に動いちゃだめだ……! も、もう少しじっとしてないと……」
「るせぇ!! はぁ、はぁ……っ!! くそ……っ!!」
「……!?」
二人にギルドへの報告を任せた矢先、入れ違うように聞こえてくるネルネの戸惑う声とゼクセーのがなり声。
一体何を……!
「――てめぇイヴェルトぉ!! てめぇのことだ、これも見てんだろうが、あぁ!!? これが……このやり方がてめぇの思い描いてたモンなのかよ!!?」
ネルネの制止を振り切り、無理やり体を仰向けにしたゼクセーが空に向かって悲痛な声を上げる。
「……っ、だんまりかよ、クソが……!! こんなやり方で……こんなことを続けてれば本当に報われるってのか……!」
『報われる』……?
徐々に語気を弱めていくゼクセーがふと零した、奴らがいつも口にしている『楽しむ』とは違うその言葉。
もしかするとそれこそが――。
「……本当に、いつか報われる時が来んのかよ、なぁ……! オレたちも、そして……この世界も……――!」




