第23話 他でもない、ハクのために
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目の前に並べられる豪華な料理。どれもこれもメチャクチャ旨いんだが……どうにも舌の上を滑っていって仕方がない。
丹精込めて作ってくれたシェフには申し訳ないねホント。
だが腹にものが入ったおかげか、少し落ち着けたのも事実だ。
そのうえで改めて、目の前のサーベイジュ達について考えを巡らせる。
……確かにずっと引っかかってはいた。
『シャグヤス家として亜人であることは隠せ』だのと言ってる割には、ハクが冒険者をしていても全然口を出してこなかったり……。
ケインの首輪事件の時もそうだ。
じいやさん経由で話を聞いたシャグヤス家が、裏でいろいろ動いてくれてたようだったしな。
「改めて……先程は本当に申し訳ありませんでしたイルヴィスさん」
「あー……別に今さら無理に敬語なんざ使ってもらわなくてもかまわないっすよ? アッシュも……」
「いえ、我々は……」
「おぉそうかい? いやぁ助かるよ、いつまでたっても堅苦しいのには慣れなくてねぇ。イルヴィス君こそ、先程までのように気を遣わぬようにしてほしい」
「そういうことならまぁ……」
「私としては、お父様にはもう少しちゃんとしてほしいと思うところだけど?」
……こうして話していても、まるきりで悪人って風にはどうにも感じられない。
だがそれなら尚更、なんでハクは……。
「さて、まずはここへ来た当初の目的なのだが……イルヴィス君、君たちが見つけたオルハリコンは約束通り、すべて相場で買い取らせていただこうと思う。勿論、どれほどの量があるのかは爺を通して聞いているよ」
……と、やっぱり知ってたか。
まぁそこは変なルートからの情報じゃなくて良かったとしておこう。
「……ただし、一つ条件を提示させていただきたいのだ」
「条件?」
「あぁ。……なに、なにもできもしない無理難題を、というわけでは無い」
くいと一口、グラスの炭酸水をあおるサーベイジュ。
それから一度ふうと深く息を吐くと、再び神妙な顔つきで口を開く。
「――ハクに、冒険者をやめさせてほしいのだ」
「……! そいつは……!」
「もちろん、『もう君たちと関わるな』と言っているわけでは無いよ。むしろこれからもハクの良き友人でいてやってほしいと思っている」
「ただ……これ以上冒険者としてダンジョンに潜ったり、魔物と戦うような真似をしないよう、イルヴィスさんからもそう説得してほしいのです」
説得……説得ね……。
フ、フフ……!
「――随分と勝手なことを言うもんだな……! ハクは……ハクが今までどんな想いで……!!」
「……分かっている、我々が勝手なことを言っているのも勿論だ。それでも……それでも私は、君にそう提示しなければならない。……他でもない、ハクのために」
……『ハクのために』、その言葉に嘘はなさそうには見える。
それが本当にハクのためになるのかは別として、少なくともサーベイジュがそう考えているのは確かなんだろう。
「……ひとまず、全部話を聞いてからだ。取引に応じるかどうかはその後決める」
「そうか、ありがたい。それでは……少し、昔話に付き合ってもらえるかね?」
……
…………
……………………
「……私にはねイルヴィス君、心から親友と呼べる友がいたんだよ」
「親友……?」
「名をクリムハルトと言ってね、私は昔からクリムと呼んでいた。……幼い頃からの腐れ縁、というものかな。私が今商人として成功を収めることができたのも、彼がいたおかげだったと言っても過言では無い」
ぽつりぽつりと、身の上を話し始めるサーベイジュ。
「やがて互いに愛する伴侶に恵まれ、子供も……まぁ私の方が随分と早かったが、それぞれ授かることができた。……クリムの方はそれを知らずに逝ってしまったのだがね」
……! 逝ってしまった……か。
なるほど、友がいたってのはそういう……。
「人的な事故で……魔物の被害でもない以上蘇生魔法ではどうにもならなかったそうです。もちろん、教会復活も……」
「そして不幸というのは重なるものでね、時を同じくして私の妻も病で天国へと旅立ってしまった……。『できることなら彼女とお腹の子の力になってあげてほしい』……と、今際の際にそう言い残してね」
彼女っつーのは……そのクリムとやらの奧サンのことか。
「私とまだ幼いグレーナもその場にいました。……母とおば様は性格こそ正反対でしたがとても仲が良かったので、その時はただ単にそういう意味での言葉なのだと思っていたのですが……」
「――彼女はね、ある理由で狙われていたのだよ。……いいや、正確には狙われ続けていると言ってもいい。……昔も、そしてこれからもだ」
狙われ続ける……?
どういう……いや、そもそもそれがハクの境遇とどんな関係が……。
「……イルヴィス君はハクの魔物血統のことは知っているね?」
「え、あぁ、聞いちゃいるが……」
「『ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴン』は魔王級の魔物と言われているが……疑問には思わなかったかね? 魔王級と呼ばれているのに、元になった魔物の話を聞かないことに」
……! 確かにそうだ、今まで特に疑問も持たなかったが……。
魔王級ってのはあくまでも人間が定義したモンだからな。そこには名付けられる前の魔物が必ず存在することになる。
例えばこの間の『マディメア』ならサキュバスアスモディア、リバントンミュージアムの『ノスタルシア』ならアカシックピクチャーといったようにだ。
そいつが何故……?
「あれはね、人工的に作られた魔物なのだ。……失われた古代文明の手によって」
「人工的に……!?」
「うむ、そしてその存在の情報のみが独り歩きし、今では魔王級の魔物として知られるようになった。……もっとも、魔王級と呼ばれる程の力を持っているのは間違いなかったそうだがね」
魔王級の魔物を人が作っただと……!?
可能かどうかはこの際別として、なんだってそんなモンを……!?
「突拍子もない話に聞こえるでしょうが、それすら古代人にとっては通過点に過ぎなかったのです。真の目的はその力をもった亜人を作り出し……ある存在を見つけ出すことにあったのですから……」
「そう、伝説級のとある代物。それ手に入れるための……ね」
ある存在を見つけ出し、伝説級の代物を手に入れる……?
……まてよ、そいつはまさか――!!
「――『天壌の恩恵』か……!」
「……! ……流石は七大魔王を討伐した冒険者といったところか。……そうだ、まさしくその通りだよイルヴィス君」
以前エテリナが気付いたひとつの共通点。
あの時は記者の連中が押しかけてきてうやむやになっちまったが……後日あらためてその話をしたことがある。
戦女神によって一時的に与えられた、『ウルトラ相思相愛』と『アルティメット一致団結』という二つの恩恵。
そして……。
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『――ふふ、やっぱり、イルヴィスさんを選んだ■■■は間違ってなかったみたい』
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……恐らく同じように戦女神によって与えられたと思われる、俺の『スーパー大器晩成』。
さらにその名を冠する『ウルトラスーパースペシャルアルティメットゴッドドラゴン』の存在と、その亜人であるハクが感じた戦女神の気配。
なぜ女神サマが俺にそんな力を与えてくださったのかは皆目見当もつかん。
だが……明らかに繋がっているように見えるそれらが、なにか一つの道を示しているのだとしたら……。
――俺たちはそれが、『天壌の恩恵』へ繋がるもんじゃないかと睨んでいた。
つまり古代人とやらが見つけ出そうとしていたある存在ってのは戦女神だったってワケだ。
そうなると、俺たちの仮説も信憑性を帯びてくるが……。
「……と、ここまで話してきたが、あくまでもこの話は彼女の家に言い伝えられてきた伝承に過ぎない。だが……たったそれだけでも、彼女の『血』を狙うものは少なくなかったそうだ。だからこそ妻は彼女を……」
「……? 彼女の、家……?」
サーベイジュの言う彼女ってのは……話しぶりからするに、クリムとやらの奥サンのことだよな?
今俺達はハクの魔物血統の話をしていたはずで――。
「――〰〰っ!? ……おいおいちょっと待てよ……それじゃあまさか――!!」
「……そうだ。あくまで血縁的な意味で見ればの話だが……」
一拍子置いてから、サーベイジュはその言葉を真剣な目で口にする。
……俺が予想していた通りの、その言葉を。
「――ハクは、私の娘では無いのだ」




