第21話 改めまして自己紹介を
「――おっちゃん? ねぇおっちゃんってば! ちゃんとお話聞いてるの!?」
「……っと? あー……いや悪ぃ、少し考え事をしててな」
「もぅ、まぁボクはやさしいから許したげるけども……はい、これも持ってきてあげたよ!」
マジックアイテム『夜のカーテン』。
ほぼ完全に光をさえぎってくれるコイツのおかげで、一日中明るい『夢幻の箱庭』でも快適に眠れるようになった。
ジンドラクラックでは無くてはならない存在だったこいつを使い、『夢幻の箱庭』に簡易的な小屋みたいなものを作れりゃ、さらにもうちょっと快適な生活を送れるはずだ。
あとはベッドと……できれば生活用の魔導器具とかも欲しいところかね。
「考え事……ひょ、ひょっとして、あの商人さんのことか……? き、昨日はあの後、何事もなく取引は成立したって言ってたけど……や、やっぱりなにか条件を出されたり……」
「いやいやなんてこたねぇって、あの人本当に俺たちのファンだったのさ。……特にハク、お前のことはもうメチャクチャに応援してたぞ?」
「ふぇ!? ふぁ、ファンですかぁ? えへへ、なんだか照れちゃいます……!」
まぁある意味では間違った事は言っちゃいない。
……色々と黙ってることに罪悪感が無いと言えば嘘にはなるがね。
……………………
…………
……
「――おっとそう警戒しないでください、しがない一人の商人ですよ。そう、貴方がたのことを良く知る……ね?」
ギルドに併設されているの酒場の一角。
オルハリコンが換金できないという事態に瀕した俺たち五人の前に、前触れもなく現れた初老の男。
しかもその事態を解決してくれる、なんて甘言のおまけつきときている。
確かに俺たちにとっちゃこの上ないめぐり合わせのようにも思えるが……。
「にゃふふ、良く知るだなんて照れてしまいますなー? ……でもでもー、ウチらが今どれぐらいのオルハリコンを持ってるかまで知ってるワケじゃないでしょー? 『全て相場で引き取るー』なんて、迂闊なこと言ってもいいのかなー?」
「おや、確かにそれはそうでしたね……。いやはや申し訳ない、こちらが引き取れるだけの量であると良いのですが……」
……やっぱりだな。
この反応……恐らくコイツは俺たちが相場で十億を越えるオルハリコンを持っていることを知っている。
エテリナもそれが分かっててカマをかけたんだろうが……しかし何故だ……?
フーに換金を頼む今日この日まで、信頼のおける奴ら以外にこのことを話した覚えはねぇぞ……?
いくらトリアの成分がポンコツ多めでできてるからといって、流石に今回は口を滑らしたりはしてないようだしな。
となると……。
「……あれ? んむむ、えーっとぉ……あ、思いだした! ねぇクヨウ、このおじさんあの時の……!」
「む? ……あぁ! そう言われてみれば確かに……!」
「あ、あの時……?」
「ほら、パニティンサイドでダンジョンアウトが起こる直前……だったっけ? おっちゃんにも話したじゃん! 変な人に声をかけられる中で、一人だけちょっと違う人がいたってさ!」
「うむ、パーティのことやイルヴィスの人柄などを聞かれ……それでも怪しさを感じるというよりは、むしろ紳士的な印象だったのを覚えているな」
パニティンサイドのダンジョンアウトっつーっと……俺がマジューリカさんと初めて会った直後のあの時か。
そういえばそんなようなことを言ってた気がするな。
思いだすと鮮明になってくもんで、そういやコイツ俺のことを『スケベで陽気な飲んだくれ』みたいに答えたっつってなかったか?
……腹いせにあとでもっかいくすぐっとくか。
「ハハハ、覚えていただけていたようで光栄です。……実は私は貴方がたのファンでしてね、あの時はついいてもたってもいられずに声をかけてしまったのですよ」
「ファン、ねぇ……」
「ほほーう! ねぇねぇおっちゃんファンだって! 確かにちょっと怪しいけどそんなに悪いひとじゃないんじゃない?」
「お前はまたそうやってなぁ……」
そもそも本人の前で『ちょっと怪しい』とか普通に言うんじゃないよ。
まぁいい、とりあえずは……。
「それで? しがない一人の商人サンとやらが『ファンだから』っつう理由で、事情も良く知らねぇ俺たちのオルハリコンをまるっと買い取ってくれる……そういうことかい?」
「えぇその通りです。あくまでも私がお引き取り出来る量までとはなってしまいますが……」
白々しいねぇホント。
だが……。
「……ま、確かに相場で引き取ってくれるってんならありがたい話だ、こっちとしても断る理由はねぇ。……で? その見返りにアンタは何を望むんだ?」
相手は商人、俺たちの現状を知ってるってんなら足元を見るのは難しく無い。
もちろん無償奉仕か慈善事業が趣味ってんなら話は別だが……まずはその意図から探り出さねぇとな。
まぁ本当にただのファンが善意で申し出てくれてたってだけなら……あれだ、後できちんを頭を下げて謝ろう。
「そうですね、それでは……イルヴィスさん、まずは一対一で腹を割ってお話をしませんか?」
「……! 一対一、ね」
「えぇ、私とていきなりこのような話を持ちかけ、まるで怪しまれないとは思っておりませんので……少し遠くなってしまいますが、こうした話をするのにはうってつけの良い店があるのです、いかがでしょうか?」
一対一……そいつはつまり、トリア達には聞かれたくないことでもあるっつうことか?
それとも……。
……どっちにしろ、オークションまでに何かしらの手段をとらなきゃならんってのは確かだ。
それならあえて虎穴に入る必要性ってのも出てくるか……。
「お、おっちゃん……ど、どうするんだ……?」
「大丈夫だ、なんも問題ねぇさ。……っつーワケで、ちょっと行ってくるからよ、学校から帰ってきたらハクにもそう伝えといてくれるか?」
「……うむわかった。ならばハクの迎えは私が代わりに行くとしよう」
「あぁ頼む。さてそんじゃあ……」
「……」
「……? どうしたよ、行かねぇのか?」
「! あぁいえ、すみません少々考え事を……。それでは参りましょうか」
なんだ?
今何かに反応していたようだが……?
……………………
…………
……
アンリアットの西地区。
ここいらには一般市民用の居住区が広がっているが、その一部には富裕層向けの区画っつーか……まぁ金を持ってる奴らが集まるような場所も存在する。
ハクの家もこの辺で……そういや確かケインのヤツの別荘もここら辺にあったんだったな。
そんな場所の、見るからに『お高そう』な感じの店に連れてこられたんだが……ま、荷物運びとしていろいろやってりゃ旨い汁のおこぼれにありつけることもあったし、こういったトコに来るのも初めてってワケじゃあない。
しかし一庶民の俺としてはどうにも身構えちまうモンだぜホント。
……もちろん原因はそれだけってワケじゃあ無いんだが。
そんなことを考えている間に、着々と広めの個室へと案内される俺とその男。
さて……。
「まずは自己紹介を、と言いたいところなのですが……申し訳ありませんイルヴィスさん。その前に私は、貴方がたへの非礼を詫びさせていただかなければなりません」
「非礼? そいつはあれかい、俺たちの話に聞き耳を立てていたっつう……」
「もちろんそれもあります。ですが……一番の非礼はこうして、顔を変えて貴方がたに接触したことです」
「!? 顔を……!?」
驚く俺を尻目に、男はゆっくりと顔に手をあてる。
これは……殿サマの時のような変装魔法か……!?
「元の顔のままではことさら警戒をされてしまうと思いましてね。まぁ理由はそれだけでは無いのですが……その意味も、顔を見ていただければすぐにお分かりになるかと……」
警戒をされる?
そいつはつまり、俺がこの男を知ってるっつうことか……?
だとすると問題は、わざわざ顔を変えて俺達に接触したその理由だ。
徐々に現れていくその素顔に俺は――。
「その顔は……! ……っ! その顔……その……かお……、あー……ん? えーとその……。……え誰?」
「え」
――まったく身に覚えがなかった。
……いやコレ完全に知ってるヤツが出てくる流れだったろうが!?
なんで初対面のおっさんが変装解いたら中からまた知らんおっさんが出てくんだよ!! おかしいだろ!?
「あ、あの……ひょっとして私のことをご存知でなかったり……?」
「いやまぁなんつーか申し訳ないんだが……」
「ああいえいえ全然お気になさらず……! なんというか自意識過剰であったと言いますか……いやはやなんともお恥ずかしい……!」
うーむ、そういう反応をされるとこっちも罪悪感とか感じちゃうなぁ……。
…………ん?
いやまて、そう言われてみればどこかで見たことがある気もするぞ。
確か――。
「ごほん、では改めまして自己紹介を……私の名前はサーベイジュ。……サーベイジュ・シャグヤスと申します」
「……!! シャグヤス……!? それじゃあハクの……!!」
「――えぇ、父親です」
これ毎回言ってて恐縮なんですが、また三ヶ月ほどかかってしまって申し訳ないです…!
それといつもは三日間ぐらいで10話分を投稿してたところを、今回は一日一話の毎日更新とさせていただきます…!
そのかわり…今回の毎日投稿では第五章の最後までの二パート分を一気に進める予定です!
ですので何卒ご容赦をいただければと思いつつ、どうか応援をしていただければありがたいです…!
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毎日投稿、マジで頑張っていきますので(まだ執筆終わってない…)第五章も最後まで楽しんでいただけると嬉しいです!




