番外編 ワールズレコード035:プログラム
このお話は《第五章十四話》の後半から少し前ぐらいのできごとです
また、内容を補足する程度の挿絵が含まれますので、
苦手な方はお手数ですが、右上の表示調整から設定をお願いします
「ただいまもどりましたー、よいしょっと……」
部屋で待つ俺の元へ、メイドさんが大荷物を抱えて帰ってくる。
「これとこれと……うん、今日の分の買い出しはこれで全部っすね。ご主人様はこの後もまたジンドラクラックへ?」
「あぁ、念のため封鎖中の探索は控えるつもりだからな、今日の内に行けるところまで行っとかねぇと」
メイドさんと契約を結んだその日の夕方、世界国家連合によるジンドラクラックのオルハリコン採取の正式な解禁日が公表された。
そこから三日後……つまり明日には入り口は封鎖され、一般の冒険者は立ち入ることができなくなる。
そしてさらに三日後、晴れて解禁日となるわけだ。
こうしてみると随分急な話にも聞こえるが……まぁ一ヶ月ほど前から冒険者ギルドにも『もうすぐ解禁日!』みたいな張り紙がでるし、この時期になるとほぼ毎年、どこかしらのダンジョンではオルハリコンの採取が解禁されるからな。
言っちまえば毎年恒例の祭りみたいなモンってワケだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ワールズレコード035:プログラム
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「しかし悪いね、食糧やら日用品やら、あの量の買い出しを一人に任せちまって……。ほれ、黒リンゴ切ったんだがどうだ? ハレのはこっちの小さい方な?」
「きゃうー!」
一仕事終えたメイドさんに、謝罪の言葉と黒リンゴの乗った皿を差し出す。
夢幻の箱庭を拠点にして動くとなれば、あっちにも食糧なんかを常備しておく必要があるからな。
その為の新しい冷蔵庫も三台も購入した、しかも結構デカいのを。
しかしダンジョンに潜ってるはずの俺たちが、大手を振って街中を歩くわけにはいかんからなぁ。
ここ数日はそういったモンの買い出しをメイドさんお願いしてるってワケだ。
普段はそう気にすることでもないんとは思うんだが……解禁日以降のジンドラクラックは出入りの際に手続きがあるからな。
変に疑いをもたれるのは避けるに越したことは無いだろう。
「あ、いただくっす。あむ……全然平気っすよ? 職人ギルドに所属してるおかげで、こういった場合なら日常生活でも肉体強化を使うことが許されてるっすからね」
「そうかい? そう言ってもらえると助かるが……肉体強化か、そういやメイドさんはレベル8なんだってな? 以前は冒険者でもやってたのか?」
「というか、もともとこういった仕事のために冒険者をしてたんす。思ってた通り冒険者’の才能は無かったっすけど、おかげで多少はスキルも使えるんすよ? ただの水拭きでもしっかり汚れを落とせたり……」
「ほぉ、俺のは攻撃系のモンばっかりだが、スキルってのはそういう使い方もあるんだなぁ……」
いや実際そういった職人の中には仕事の際にスキルを使う奴もいるってのは結構有名な話だが、まさかメイドさんまで使いこなしているとは……。
「そういうご主人様は新しいスキルは作らないんすか? オーヴァナイフ……でしたっけ? 壊れちゃったせいで使えないスキルがあるって言ってたっすよね?」
「う……まぁ、な」
「もちろんそうポンポンと作るようなものじゃないことも知ってるっすけど……こんな状況ですし、新しいのをつくってみてもいいんじゃないっすか? あ、でもスキル屋さんに頼むと数日はかかっちゃうか……」
確かにメイドさんの言う通り、スキル屋に頼めば新しくスキルが完成するまでに短くて一週間、長いとさらにもっと拘束されることがある。
あるんだが……実は問題はそこじゃなあない。
……そう、確かに新しいスキルを作るってのは悪くない話だ。
悪くない話なんだが……
「……メイドさんはスキルのプログラム、自分でも作ろうとしたことある?」
「え? まぁ多少は……といっても簡単な物ぐらいで、基本的にはスキル屋さんに全部おまかせしたっすけど……」
「十分だ、それなら分かるとは思うんだが……アクティブスキルってのはいくつかの『プログラム』なんかを組み合わせて作るだろ?」
「えぇ、基本的なところでいえば身体を動かす『肉体操作』や、マナを制御する『力場操作』、それと、物を操る『物質操作』とかのプログラムを組み合わせるんすよね?」
『肉体操作』は言葉通り、マナを使って体を自在に動かすことだ。
上手く使えば空中や足場の悪い場所、他にも戦闘による怪我や疲弊時でも一定の動きが確保できる。
対して『力場操作』はマナ自体の挙動を制御することだな。
例えばマナの流れを一点に集中して相手にぶつければ、ただ殴るだけでも格段に威力をあげることができるってもんだ。
『物質操作』はそれら応用で、マナを込めた物質を自在に操ることだ。
ナイフを投げたりブーメランを投げたり……うちだとネルネのスライムがそれでうごめいてたりするな。
そしてそれぞれの操作を自身のマナに記憶させることを『プログラム』といい、さらに複数のプログラムを組み合わせ、スペルなどの『発動条件』によっていつでも再現できるようにしたのが『アクティブスキル』ってワケだ。
もちろん、個人個人の向き不向きっつーかクセみたいなモンもあって、例えばトリアの『メテオパンチ』のプログラムをそのまま流用しても、俺にはメテオパンチは使えない。他にも……。
「他にも『肉体強化』を組み込んだり、アタシやネルネ様みたいに魔力変換が可能なら『性質変化』や『魔導』なんかも織り交ぜたりして、自分に合ったものを作ったりするっすよね?」
「あぁそうだな、その通りだ……」
「それで……その辺りの話が何か関係してるんすか? ……というか、なんかさっきからどんどん元気なくなっていってるっすけど……」
「……実は言うとな、俺のアクティブスキルは単純なもんが多いんだよ……。まぁそれでもヒーコラ言いながら作り上げたワケだが……」
『くすぐりスイッチ』は初心者用のプログラム教本を参考にしたぐらいだし、『バッシュクラック』のプログラムも、《亀裂に浸透して炸裂させる》ことと《それで出来た亀裂にも込めたマナが尽きるまで同じことを繰り返す》って部分だけだ。
『オーヴァクラック』や『オーヴァボルド』もほとんど……まぁ多少は調整してあるが、それでもほぼオーヴァナイフにバッシュクラックのプログラムを乗せてあるだけだからなぁ……。
こと『ガンメタルエフェクト』にいたっては、もうスキルなんてちゃんとしたモンじゃあない。
「んで、ここからが質問の答えになるんだが……無いみたいなんだよ、俺には……」
「? 無いっていうのは……」
「複雑にプログラムを組み合わせる才能っつーか、そいつを制御する才能っつーか……ともかく、そういった部分が壊滅的なんだとよ、俺は。ははは……」
本来、どんなヤツでも練習量に応じてある程度は複雑なプログラムの制御ができるようになっていく……らしいんだが、俺に関してはどんだけ練習しようがその兆しすら見えないんだそうだ……。
「あー……か、壊滅的っすか……? それは……」
「スキル屋にも言われたよ……。『こんなに才能の無いヤツは生まれて初めて見た』だの『ここまで駄目ってことは女神様に愛されてないんじゃないのか』だの……」
「それは、えっと……」
「つまり……作らないんじゃなくて作れないのさ、俺には。笑っちまうだろ? 勇者級の力を持っててもこれだってんだからよ、ははは……」
「いえ、あの……そ、そうっすご主人様! これ! これを見てくださいっす!」
「……リンゴ?」
「なにも複雑なものだけが良い物ってわけじゃないっす! ほらこのリンゴだってただ切って食べやすくしただけでもこんなにおいしいし……ね、ねー、ハレちゃん? ハレちゃんもそう思うっすよねー?」
「きゃうきゃーう!」
「うんうん、リンゴジャムもアップルパイもおいしいけど、こうして素材の味を噛みしめるのだって乙なものっす! ご主人様はそれを目指せばいいんすよ! ね? ね?」
……なるほど。
食材が俺だと考えれば、スキルは料理……複雑なものだけじゃあない、か。
「そっか……そうだよなぁ、ははは! 確かに、メイドさんの言う通りだぜ!」
「で、でしょう! そうでしょうとも!」
「いやまぁあれよ? 別に俺もそれほど気にしてたわけじゃなかったのよホント。むしろ逆に笑っちまうなぁって思ってたぐらいで――」
「……ふぅ、夢幻の箱庭の時もそうだったっすけど……本当にクヨウ様達が言っていた通りのメンタルなんすねぇご主人様……。これはメイドとして、アタシがしっかりしないとダメっすね、うん……!」
「きゃうきゃう!」
「おっとそうっす、アタシじゃなくてアタシ達っすね? ハレちゃんも、ご主人様が大変な時は助けてあげてくださいね?」
「きゃーうー!」
「――でだ、つまりはな? 俺が思うに大切なのはもっとこう……」




